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大内雷電の『ハン・ソロ』評:特撮オタクが見た『スター・ウォーズ』の未来と可能性

2018年08月08日 12:42  リアルサウンド

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 THE 夏の魔物や科楽特奏隊で活躍する特殊ベーシスト・大内雷電が、オタク魂を込めて映画を熱く取り上げる連載企画。東京ディズニーランドのアトラクション「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」の全シーンを見るために、開演から閉園までの14時間を費やした男・大内は、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』をどう観たのだろうか。(編集部)


 日本公開前の評判を払拭するほど『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』はしっかりした作品だった。設定が複雑で、ストーリーの前後はもうすでに過去作で明かされているという状況下で、本作は破綻することなく仕上がっている。「スピンオフだなんて、後付け」と言われるかもしれないが、我々日本のオタクは時代設定を超越するテクノロジーが後からバンバン出てくる『機動戦士ガンダム』で育っているわけで、『スター・ウォーズ』の追加設定なんて何も怖くない!


 今回の『ハン・ソロ』は、スピンオフ企画第1弾となった『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』よりもフォースやジェダイが関わってこないことが大きな特徴だった。ドニー・イェン演じるチアルートは、ジェダイの存在とフォースの思想を信じていたわけだが、『ハン・ソロ』にはそのような人物が一切登場しない。


 これまでの流れを振り返ると、新三部作でフォースの成り立ちが描かれ、続三部作ではフォースの謎が深く掘り下げられてきた。しかし、そもそもシリーズ第1作目の『スター・ウォーズ』の時点で、ジェダイやフォースはそこまで重要ではなかったように思う。銀河を冒険するメインストーリーの中で、フォースはあくまでも一要素として収まっていた(ルークも力を使いこなせていなかったわけで)。すなわち、『ハン・ソロ』は惑星と惑星との間を冒険する第1作目により近づいたとも言えよう。


 フォースというテーマから解放された本作では、世代を超えて愛されるハン・ソロの知られざる過去が紐解かれていく。もともと孤児だったハンのラストネームである“ソロ”というのは、帝国軍の兵士の気まぐれで付けられていたのには驚いた。


 しかし、よく考えてみると本作の原題が、『Han』ではなく『Solo』だったのには、ハンが“ソロ”プレイヤーで独りぼっちである意味も含まれているからではないだろうか。また、今回登場したハンを含むランド・カルリジアン(ドナルド・グローヴァー)、キーラ(エミリア・クラーク)、トバイアス・ベケット(ウディ・ハレルソン)、チューバッカ(ヨーナス・スオタモ)はそれぞれ孤独な背景を抱えており、全員が“ソロ”であることにもかかっているように思う。


【愛した女性を巡るハンとランドの闘い】


 旧三部作にも登場するハンの悪友ランドは、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』で、クラウド・シティにやってきたハンをいとも簡単に裏切る。ランドがハンを快く招き入れたのは、帝国軍と手を組んで、ルークを誘い出すための罠に過ぎなかった。


 当初はランドが卑怯者のように思えたが、本作で明かされた2人の女性を巡る争いを考えれば、『ジェダイの復讐』での一件も頷けるものに変わる。ハンの愛船ミレニアム・ファルコンは、ランドから手に入れたものだというのは言うまでもないが、そのファルコンにはランドの愛した「女性」の一部も埋め込まれていたのだ。


 その女性というのがランドの相棒だった女性型ドロイドL3-37。彼女は始めこそ自意識過剰な性格に見受けられたが、銃撃戦のシーンでランドが決死の思いで彼女を救い出そうとする様子を見れば、2人の間に深い愛情が芽生えているのを想像するのは容易い。残念ながら闘いの末、無残な姿と化したL3だったが、彼女が持つ銀河一のナビゲーションシステムをファルコンが受け継ぐ熱い展開が繰り広げられる。1977年から登場する旧式機であるファルコンが、続三部作まで銀河最速を誇る理由が、ここでわかりやすく明かされたのである。


 しかし、自分の愛した女性の一部が生きている宇宙船を奪われたランドを思うと、ハンの行動は非常に残酷だ。ただ、事の発端を考えれば、ハンも愛したキーラをランドに寝取られてる(と思える描写がある)わけで、ファルコンの強奪はキーラと関係を持ったランドへの一種の復讐のようにも見える。


 『帝国の逆襲』でランドがファルコンに乗るシーンがあったが、あれは昔持っていた船に乗るというだけでなく、かつての恋人との再会し、そして彼女と共に闘った場面でもあったと思うとさらに感慨深い。


 また、様々なところで言及されているが、ランドとL3がハイパースペースに入る際に送ったハンドサインは、『ジェダイの帰還』と同じもの。つまり、ハンに向けてではなくL3へのサインだったのだろう。だとしたら『ジェダイの帰還』でクラウド・シティにいたランドは、ファルコンすなわちL3を歓迎しただけで、ハンのことは招き入れてなかったのかもしれない。


【キーラとダース・モールは謎だらけ】


 ハンとランドの争いの原因でもあるキーラはまだ謎が多すぎる。まず、どうしてスラムからここまで成り上がったのかが不明のまま終わってしまった。ただ時系列を考慮すれば、これから制作されるオビ・ワン、そしてボバ・フェットのスピンオフで、主要キャラクターとして再登場する可能性も考えられる。ダース・モールからも強い信頼を受けていることが明らかになったキーラは、今後さらに重要な存在となるだろう。


 あっさりと再登場したダース・モールだったが、本作は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』で、オビ・ワンに体を真っ二つにされて奈落へ落ちていった“後”の物語。どうして今回復活を遂げたのかと言うと、日本ではあまり知られていないが『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』と『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』の間を描いたアニメ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』で、ダース・モールは下半身をサイボーグ化し、復活を遂げているのだ。(ちなみに、『ハン・ソロ』より後を描いた『スター・ウォーズ 反乱者たち』シーズン3で、ダース・モールはオビ・ワンに復讐を挑むが一瞬でやられている)


 久々の映画シリーズの登場となったわけだが、結局ダース・モールにさえドライデン・ヴォスの死に関する嘘の報告をするキーラが、一番の黒幕なのではないだろうか。ハンと再会した時に彼女は随分と余裕を見せており、むしろ彼が来ることは想定内だった可能性すらありえる。


 そしてハンはラストでジャバ、そしてルーク、オビ・ワン、さらにボバ・フェットもいるであろうタトゥーインへ向かう。ここから面白くなっていくわけだが、本当に今後のスピンオフは実現するのか? 期待して待ちたい。


【オリジナルキャストの是非】


 次に控えるオビ・ワンのスピンオフはユアン・マクレガーが主演を務めるという報道が出ているが、オリジナルキャストを使わなくても『ハン・ソロ』は十分健闘していた。というのもシリーズの人気を長続きさせるにあたって、オリジナルキャストの積極的な再登場というのは、そこまで重要ではないと言えるからだ。日本特撮における仮面ライダーとウルトラマンの例から考えてみたい。


 仮面ライダーには、歴代過去作品をパラレルワールドに置き換えて、多数のキャストの変更を行った『仮面ライダーディケイド』という10周年記念作品がある。例えばオダギリジョーが演じた仮面ライダークウガは、『ディケイド』では村井良大が務めている。始めこそ批判はあったけれども、長期的展開として見た時にこのオリジナルキャストに頼らない作品作りは功を奏し、これ以降の「第二期平成ライダー」の圧倒的な隆盛に繋がった。


 一方この3年前、ウルトラマンはかつて昭和時代に出演していたオリジナルキャストを新シリーズ『ウルトラマンメビウス』に登場させ、オールドファンからの支持を集め高い人気を得た。昭和期のウルトラシリーズの直接的続編として作られた作品であったが、この手法で演出されたのは「お祭り感」であった。結果これ以降のシリーズは、旧世代のキャラクターに依存するものとなってしまった面が強い(ディケイドはその辺を上手く参考にしたと思う)。近年のウルトラマンシリーズの盛り上がりは、そこからの脱却を目指し、新たな世代のヒーローをブランディングした成果である。


 続三部作のように地続きのストーリーならまだしも、オリジナルキャストを使うというのは、祝典的効果としてその時は熱く燃えるものの、その炎は続きにくい。たとえハン・ソロという世界的な人気キャラクターでも、新しい形でアプローチをするのは、今度のスピンオフ展開を見据えたシリーズを長続きさせるあたって重要なこととなっているのだ。


 今回の『ハン・ソロ』は、世界的に大きな賛否両論を巻き起こしながらも、新たなるキャスト、新たなる展開で、『スター・ウォーズ』の未来とその可能性を充分に見せてくれた。この作品は、また次作の『スター・ウォーズ・ストーリー』が公開された際、さらに意味のあるものなるだろう。そう、『スター・ウォーズ』シリーズ最大の魅力は、その「サーガ」にこそあり、である。この先10年、20年、一生涯続く我々の“スター・ウォーズライフ”に向けて、『イイ予感がするぜ!』(取材・文・構成=阿部桜子)