スーパーGT第5戦富士500マイルの最終スティント、GT500クラスでトップをいくau TOM’S LC500の関口雄飛はとある『人生初』のドライビングに集中していた。ストレートエンドでは早めにアクセルオフ、一旦ブレーキを踏んで5速に落とすとブレーキをオフ、エンジンブレーキを効かせた後にもう一度ブレーキング……。
背後には同じトムスの僚友キーパーTOM'S LC500が迫っており、ラップタイムを見守っていたauのピットは「そんなに落として大丈夫か」、「ペースが落ちるとピックアップするぞ」と、にわかに色めき立つ。だが当の関口はニック・キャシディとのギャップを確認しながらブレーキを労わっていた。極めて冷静に。
「そこまで守らなくてもいいんじゃないの、って気もしたけど、『詰められたらプッシュできるから』って。不思議なやつですよ。そういうところには人一倍気を配る余裕があるのに『マップのこの番号ってこういうことでしたっけ?』とか、『スタートで赤が消えるまではグリッドのラインはみ出しちゃいけないんですか?』とか、普段は無線で『それ、いま聞く?』ってこと言ってますからね」(au TOM’S伊藤大輔監督)
今回関口が3スティント分を担当したのは、チームメイトの中嶋一貴よりブレーキへの負荷が少ないドライビングをするからだという。その抜擢に充分すぎるほど応えてゴールまでマシンを運んだ関口は、移籍後初勝利でランキング2位に躍り出た。
必勝ラウンドを制した一貴と関口の解放感とは対照的に、1.5秒差の2位でゴールしたキーパーのふたりは憮然とした表情でポディウムから引き上げてきた。
ハンデウエイトを考えれば表彰台登壇、そしてランキングトップ浮上は上出来。平川亮はそれを認めながらも「勝てたレースだったので悔しい」。また、キャシディはこの先のタイトル争いについて、現状持つ7ポイントのリードを「ノーチャンス」と悲観する。
「いや、マジだよ。SUGOは重いからたぶんノーポイント。ニスモは直線がGT600みたいに速いし、彼らはあと1~2レース勝つと思う。チームもそれは分かってたはずだけど……」とキャシディ。
今回、最後にauを逆転していれば、キーパーはさらに7ポイントを上乗せできた。後から振り返るとき、この500マイルレースは今季の『転換点』となるであろう。
「最終スティント、auをオーバーテイクすることはできたと思うか?」と聞こうとすると、キャシディは手で質問を遮り、目を閉じて首を横に振った。
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