灼熱の甲子園、選手が体調不良でダウン 球児たちの「助け合い」を美談で終わらせてしまっていいのか
第100回全国高校野球選手権大会が8月5日に開幕。各地で予選大会が行われた先月、応援団の生徒や保護者だけでなく、試合に出場している選手も熱中症になったというニュースが繰り返し報じられた。
これらのニュースを受けてか今大会では、開会式の途中で"給水タイム"を設けたり、観客の熱中症を予防するため各入場門に大型扇風機を設置したりなど、暑さ対策を実施している。ただ、その程度の小細工で今年の猛暑を乗り切れるわけがない。
そして、大会2日目8月6日の第3試合、沖学園(南福岡)対北照(南北海道)戦でプレー中の選手が体調を崩してしまうという事態が起きた。(文:宮西瀬名)
新聞は「友情のアシストプレー」などと美化してるけど……
9回表の沖学園の攻撃中、吉村侑希選手が左中間に放った打球を左翼の岡崎翔太選手が処理した際、両足ふくらはぎが痙攣し、立ち上がれなくなってしまった。
ただ、その姿を見た沖学園の3塁コーチャー、上園凱斗選手がコールドスプレーを持って岡崎選手のもとに駆け寄り、足を冷やした。さらに、沖学園主将の阿部剛大選手の指示で高原敦彦選手が左翼に走り、水を届けた。
岡崎選手は担架で運ばれ試合は一時中断となったが、彼らの"ファインプレー"のおかげもあってか、岡崎選手はベンチ裏で治療を受けた後、すぐに守備に戻ることができた。
各マスコミは沖学園の選手達の対応を讃えており、サンケイスポーツは「北照選手が足つり、沖学園選手が"友情プレー"」、スポニチでは「友情のアシストプレー 倒れた北照・岡崎に沖学園の選手がコールドスプレー&飲料差し出す」というタイトルの記事を掲載している。
ただ、ツイッター上ではこれらの記事に対して、「問題を美談にすり替えるマスコミ」「友情なんて美談で済ませられる話ではない」と、なんでもいい話に持っていこうとするメディアの"方向性"への不満が相次いだ。
他にも「そんな環境で高校生にプレーさせてることが問題。救護に駆けつけるべき大会運営スタッフも何してる」といった、運営側の問題点を指摘する意見も多く寄せられた。
真夏の炎天下で13時半に試合開始という狂気
ファールボールを追って捕手が脱ぎ捨てたマスクを、相手チームの選手がユニフォームで拭いて渡してあげたり、打球が直撃した投手にランナーコーチャーが駆け寄り、コールドスプレーで冷やしてあげたりなど、勝敗を超えた選手達の"人間力"を見ることができるのも高校野球の魅力の一つだ。
沖学園の選手達の対応が素晴らしいことは事実であり、野球の上手さだけでなく、人間力も同時に鍛えてきたチームなのだろうと感じられる。ただ、今回の"友情プレー"は未然に防ぐことのできたケースなのではないだろうか?
手足の痙攣は熱中症の初期症状と言われており、岡崎選手が熱中症を発症していたかどうかは不明だが、その可能性は十分考えられる。この試合の開始時間は13時半頃。1日のうちかなり暑い時間帯だ。もし、開始時間が17時だったら、このような事態に発展しなかったように思える。
医師の6割が「熱中症対策等の条件付きで開催すべき」と回答
メドピアは8月7日、医師に「全国高校野球選手権大会は例年どおり開催すべきか?」というアンケートを実施。6割が「熱中症対策等の条件付きで開催すべき」と回答していた。
開幕して2日目でこのようなアクシデントが起きてしまうとなると、今後も体調不良に襲われ、十分な力を発揮できない選手や、プレーを続行できない選手が出てくる可能性は決してゼロではない。
高校野球の異常性に気付き、高校球児が安全にプレーできる環境を真剣に議論する必要がある。100回目を迎えた節目の大会が、大きな問題が起きずに閉幕することをただただ祈るばかりだ。