アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.1 神風動画
世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。
神風動画 代表作:ニンジャバットマン、ポプテピピック、ジョジョの奇妙な冒険
第一部~第三部OP、刀剣乱舞-花丸- ED、アイドリッシュセブン『WiSH VOYAGE』MV、他多数
今年2月に全世界公開されたニンジャバットマン英語版トレーラー▼
ワンカットの密度。凝縮された情熱。神風動画の作品であることが否応なくわかってしまうユニークな画作り。2018年前半の覇権アニメとなった『ポプテピピック』をはじめ、スタジオ初の長編アニメーション映画『ニンジャバットマン』の世界公開。設立から15年で日本を代表するスタジオとなった「神風動画」。
KAMIKAZE = 命知らずでむこう見ずなコトを興すこと、という名を体現するスタジオのこれまでとこれからについて、神風動画の代表であり、「ニンジャバットマン」の監督でもある水崎淳平氏へのロングインタビューを行った。
[取材・構成=Tokyo Otaku Mode]
渋谷区原宿近くにある神風動画神宮前スタジオの入り口
神風動画を象徴する扉の先へ
今回お話をうかがった神風動画の創設者であり代表の水崎淳平氏。クリエイターとしても『ニンジャバットマン』や『ジョジョの奇妙な冒険 第一部OP』の監督を務める
日本人らしいCG表現を突き詰めたい
――まずはスタジオ設立のきっかけについて教えてください
水崎
設立についてお話するのは久しぶりですね。
最初からこういう規模やジャンル、雰囲気のスタジオを立てることはあまりイメージしていませんでした。最初は3人ぐらいの映像ユニットで、法人化もしておらず個人事業だったんです。
今から20年くらい前は数人でアニメを作るなんてほとんどなかったと思います。でもCGソフトをメンバーとして迎え入れるという考え方で、3人でアニメを作ってみようという試みが神風動画のスタートですね。
ピクサーやハリウッドのようなリアリティやフィギュアっぽさを出す3DCGの使い方ではなく、「CGをセルアニメの代用品として使えないかな」という実験と研究をやっていました。
誰もそこに注目してなかったこともあり、そこで作ったものが大変珍しかったようで映像のコンテストでも受賞していくんですよ。それを仕事にしていこうと切り替え、法人化してスタジオになりました。
そのとき目指せピクサー、目指せハリウッドというVFXの風潮がある中で、なぜみんなCGを使ってアメリカに向かうんだろうという疑問があって。日本人は日本人らしいCGをもっと突き詰めればいいんじゃないの、というような意味合いがスタジオの名前には少し強めに込められています。
ワーストカットの質を上げていく
――神風動画の映像はとてもユニークです。2次元と3次元の間を神風動画しかできないやり方で追求されてるなと思います。そういう神風動画らしさはどこからきているのでしょう?
水崎
無理やり自分をそこに叩き上げているとかではなくて、そもそもの基準がそこなのかなと思うんです。いわゆる週刊少年ジャンプの表紙みたいな密度感が好きなんです。
グラフィックデザインの経験も大きいですね。チラシやWEB、DTPや文字組、画像や版下の扱い方。これをここに置くと密度があがって見えるとか、ここにおくと整理されるとか。そういう基礎が体の中にあるみたいで、映像についても密度が高く感じるかもしれませんが、実際の作業量が多いかというとそうでもなくて、置く場所や置き方を気にしていますね。
あとは地道にやっていることとして、全編通した時にワーストカットを何カットか選んで、そこのクオリティをあげていくんですよ。そうするとまた次のワーストカットが見えてくる。良いカットをもっと良くするんじゃなくて、クオリティが低いものを指摘して直していく。それを繰り返すと自然と平均値が上がってくるんです。
「ここ気になるな。でも致命的じゃないからこのままでいいよ」って現場には言うんですけどね。でも次の日には直っているんですよ(一同笑)。
本当に現場には感謝しています。
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“妥協は死”に込められた想い
神風動画の座右の銘「妥協は死」。出された湯呑にもこの言葉が彫られていた
――スタジオ立ち上げから一番大変だった時期はいつでしょうか
水崎
今は監督というポジションでみんなに経験や場を与える立場にいますが、自分が最前線に立っていた頃ですね。
世間的に認められていないアニメ制作の手法を全面に押し出そうとしていたので、自分自身が一番多くCGカットを担当している状態。その作業量の半端なさというか。21日間、体を横にして寝なかったときもあります。
その当時、アニメーションを使ったあるミュージックビデオの仕事で「ここを乗り越えると神風動画の立ち位置が変わるぞ」というターニングポイントがあったんです。
その作品の中で最後の最後、ワンカットだけ諦めた部分があるんですよ。普通の人が見ても誰も気づかない部分なんですが。致命的なミスというものではなく、最高品質で書き出すだけだったんですが、本当に倒れかけていたんで、そのまま通してしまったんです。普段は絶対にやらないんですが。
でも後々、色んな機会でそのカットを見るたびに、ソワソワしちゃうんですよ。僕にしかわからないんですけど、もう少し綺麗にできたなと思ってしまう。それを見るたびに気が弱くなっちゃう。堂々といけなくなってしまう。誇りをもってみんなで作ったものなのに、そこだけ後ろめたさを感じてしまう。
「あ、これは死んだな」と。妥協したものは死ぬんだなと。「妥協は死」という言葉には、妥協するなという意味でも、妥協するなら死ねという意味でもなく、作品を死ぬまで背負う覚悟がありますか?という意味が込められていますね。
満たされた人が描く個性を見たい
水崎
ワーストカットのボトムアップという話が出たんですけど、日本のアニメ業界全体に対しての見方も同じで「日本のアニメ業界はこうである、これが常識である」という考え方はイヤなんです。
(編集部注:日本ではアニメーターの低賃金や労働環境が社会問題として取り上げられることが多い)
神風動画のスタッフみんなが必要とする環境は揃えよう。必要になる金額は制作時にもらい受けよう。ここは決めています。神風動画では夜中まで残っているスタッフはいませんし、タイムカードを切った時間で残業代もつきます。当たり前のことですが、これを普通にしたいと思っています。
ちゃんと食べて、楽しんで、親孝行して、休みを取って好きな作品、漫画や映画を観ることができる満たされた人が描く個性で、日本のアニメがどう変わるかを見ていきたいと僕は考えています。
絶対の正解なんてない
――どんな経験から、そのような組織作りを考えるようになっていったんでしょう?
水崎
どう作用しているかわからないんですけど、僕ずっと引っ越ししていたんですよ。親が自衛隊で、4年に一度ぐらい転勤が必ずやってきて、小学校も2箇所、中学校も2箇所変わっていて、色んな地域を見てきた中で気づいたことがあるんです。
大人って絶対正解ではないなと。小学校ごとにやり方も違う。中学校の時もそうです。同じ教科でも考え方の違う先生がいて。でも、どこも先生は絶対正しいと言って従っている。もしかして、理不尽なことって大人によって与えられるのかなって見方をするようになって。そこに組織づくりの理想を考えるベースがあったかもしれません。
上の人間はどうあるべきかとか。自分も理不尽の元凶になっている場合があるかもしれないとか。そうならないようにどうしたらいいか。ずっとずっと模索しながら、会社を育ててきました。
だから他の人と大きな違いは、いわゆる故郷がないこと。故郷に帰るっていう意識がないんです。僕は”ここ”に帰るがないからこそ、”ここ”が欲しかったのかなって。このスタジオはそんな場所なのかもしれません。
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日本のアニメを知ってもらいたい
――今度はスタジオの代表ではなく、監督としての水崎さんに質問をさせてください。『ニンジャバットマン』の監督として、主に海外のアニメファンに伝えたかったことはなんでしょう?
『ニンジャバットマン』を作る時に、すごく強く、一番意識したのは日本のアニメを知ってもらいたいということですね。日本のアニメってこうなんですと。勢いとかノリとか空気とかっていうのは英語の文化圏の人に無理に合わせようとするのではなく、日本アニメの色んな良さを紹介していくような構造にしましたね。
日本の原作がハリウッドで映像化されるケースが増えてます。けっこう大胆にアダプテーションされている作品も多いなと。さて今回、バットマンを預かりますという時に、同じように「郷にいれば郷に従え」という意識がありました。
せっかく日本に来てくれたのであれば、土足であがっていいですよではなく、バットマンに対しても厳しめにいこうと。他のキャラクターも英語を話しませんし、バットモービルや通信システムで勝とうとするんですけど、それではダメだというくだりになっています。やはりその時代の日本のやり方で戦ってもらう。「郷にいれば郷に従え」というのがストーリーのテーマにもなっていると思います。
DCコミックスさん、ワーナーブラザースさんにも任せてほしいと言いました。日本という国で全力でアニメを作るから待っていて欲しいと。大事なバットマンをしばらく預かりますが、失礼なことはしませんよとお伝えし、アニメを制作しきってお返ししました。あれを許してくれたDCさんは寛大ですね。
アナハイムのワンダーコンで『ニンジャバットマン』を全編上映したときに、(ファンに)怒られるんじゃないかと思っていたんです。でも、ここで笑って欲しい、盛り上がって欲しいという箇所がこちらの意図とまったく一致していたんです。バットマンって長い歴史があって色んなバットマンがあるんですよ。実はとてもユーモアがある作品なんです。だから、『ニンジャバットマン』に盛り込んだユーモアがちゃんと伝わったんだという嬉しさがありました。
素晴らしいアイデアとは
――この取材企画の前に「日本のアニメクリエイターに何を聞きたい?」という事前アンケートを海外アニメファン300名に対して行いました。その中で一番多かった「素晴らしいアイディアはどのように生まれてくるのか」という質問にお答えください。
アニメを作っている人は素晴らしいアイディアだとは必ずしも思っていないんじゃないのかな。作り手の価値観や「自分はこれが素敵だと思うこと」を恥ずかしがらずにドンと出したものが、結果的に受け手にとって素晴らしいものになるんだと思います。
あとはお客さんの状況や目線を意識してアイデアを生むようにはしています。YouTubeで流れるのか、劇場で観るものなのか。例えば『ポプテピピック』だと少し難易度の高いネタを仕込むと、ネタを知っている人と知らない人の間でコミュニケーションが生まれますよね。だから『ポプテピピック』のオチがない部分をより濃くしてやろうと。見た人がツッコミ役で、そのツッコミをSNSで共有してもらうような映像にあえてしてますね。
それと僕はモチベーションという単語を禁止しているんです。モチベーションは高くて当然なんです。それが才能です。そういう人じゃないと向いてないんですよ。モチベーションを求める人はアニメ作りに向いてないと思います。アニメは作り手がドライブしていかないと面白くはならないんです。
スピルバーグは僕を大人にさせてくれない
――海外のクリエイターで影響を受けられた方はいますか?
まず、ミュージックビデオ出身で『エターナル・サンシャイン』の監督ミシェル・ゴンドリーさん。ミュージックビデオから長編映画まで羽ばたいていくドリームのある過程はもちろん、作品がいいんですよ。『Come Into My World』とか。シンプルなアイディアなのにずっと見ちゃうんですよね。
あとはブラッド・バードさん。『アイアン・ジャイアント』は素晴らしいと思っていて。もともと『ザ・シンプソンズ』を担当されていて実写映画『ミッション:インポッシブル』の監督までやられるのも凄いなと。元々『ザ・シンプソンズ』がすごい好きだったんです。
あとは、本当にベタなんですけどスティーブン・スピルバーグ監督。小学校1年時に僕の父親が近所の友人みんなを連れて『E.T.』に連れて行ってくれたんです。『E.T.』は大ヒットしましたけど、うちの町内はさらに『E.T.』がブームになりました。あの雰囲気とか世界観。ヒヤヒヤするし怖いんだけど夢もある。『E.T.』の絵はたくさん描きましたね。『E.T.』の顔のしわとか。ちょっとずつ影響を受けてて。『ジュラシック・パーク』や『マイノリティ・リポート』とか。
僕を大人にさせてくれないのがスピルバーグ監督。『レディ・プレイヤー1』にガンダムが出てきた時、あれは小学校1年生に戻りましたね。
ガラパゴスな日本のアニメの魅力を楽しんでほしい
――最後に、世界のアニメファンに一言お願いします
水崎
日本のアニメは高い水準を今のところ保っている状態ですけど、これが維持されるかどうか。ちょっと危惧している部分があるんですよ。日本のアニメ業界にパワーがなくなってしまうのではないか。
その中で「日本のアニメはまだやれる」っていう強いところを世界のファンにも届けなければ、というすごい強い思いがあって、そこはもしかしたら『ニンジャバットマン』の中で「意地」みたいなものが出ちゃったんじゃないかとも思っています。
僕はガラパゴスという言葉が好きなんですけど、日本は島国ですし、これまでの歴史も含めて変わった持ち味を持った国だと思うんです。国境もないですし、国際協力に必ずしも慣れていない。上手ではない。
でも、ガラパゴスはいつまでも面白いと思うんです。だから国際基準にあまり振り回されすぎずに、僕らは僕ららしく真面目に作品を仕上げていくことが大切だと思います。
世界のアニメファンの方々に、またあのチームの作品が見たいと言われることがあれば、ぜひご期待に添いたいですね。