2018年08月07日 09:32 弁護士ドットコム
「不正ばかりで、日産の車に乗っているのが恥ずかしい。裁判でも起こしたら、日産は車を買い取ってくれるだろうか」。2018年7月上旬、東京都内に住む会社員男性は、日産自動車で不正行為が新たに発覚したというニュースを見て、憤った。深刻な問題にも関わらず、社長が出てきて謝罪していないことにも違和感があった。
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報道によると、日産が国内工場で新車を出荷する前にしている排ガスの抜き取り検査で、不正行為が発覚した。試験の条件を逸脱したり、測定値を改ざんしたりしていたという。2013年4月から2018年6月にかけて検査した小型車「ノート」など少なくとも計1171台が対象で、検査した完成車の53.5%にあたる。
2017年秋にも日産では無資格検査問題が発覚しており、改めて信頼は傷ついた。と同時に、日産の車に乗っている人たちが抱く憤りも相当なものだろう。上記の男性の場合、これまでに自動車4台を乗り継いできたが、うち3台は日産車で、残り1台はスバルの車。スバルでも無資格検査などの不正問題が起きている。「ついてない」と男性は肩を落とす。
国土交通省の指示を受け、日産は8月中にも再発防止策をまとめて報告する見通しだ。その内容も気になるが、乗っている人たちからすれば日産に対して責任追及をしたいという人もいるだろう。男性のように、日産を相手取って裁判を起こし、一連の不正問題を理由として車を買い取ってもらうような請求をすることはできるのだろうか。大和弘幸弁護士に聞いた。
ーーユーザーが法的な請求をし、それが認められるのは難しいのでしょうか
「排気抜取検査における試験環境条件の逸脱や測定値の書換があった対象車種を購入した一般ユーザーが、日産に対して、金銭賠償を求めたり、車両の買取を求めたりしたいと思う心情は理解できますが、法的には難しいと思います。
契約責任を追及するためには、債務不履行があった、つまり車両に欠陥があったといえる必要があります。しかし、報道によれば、信頼性の認められるデータのみを用いて再計算・検証した結果、保安基準への適合性、排出ガス及び燃費の諸元値が担保されていることが判明したとのことですので、車両に欠陥があったとはいうことは困難でしょう。
この点で、公的規格や顧客仕様を満たさない製品につき検査結果をねつ造していたと報じられている神戸製鋼所のケースとは異なると思います」
ーーそれでは、「不正があると知っていたら購入しなかった」ということを理由に契約の無効を主張できないでしょうか
「仮にそのような購入動機が表示されていたとしても、カタログの燃費諸元値の変更をする必要はないという状況では、契約の重要部分について錯誤があったとまで主張するのは難しいでしょう」
ーー精神的な苦痛を被ったとして慰謝料請求はできないでしょうか
「そもそも契約内容の不履行がなければ損害賠償請求は認められませんし、また、財産的損害に対する賠償だけでは回復されない精神的損害が認められるというのは極めて例外的な場合に限られます。
製造物責任法に基づく責任追及についても考えます。製造物責任法は、欠陥のある製造物を作ったメーカーに対する賠償責任を認めるものですが、欠陥に起因する損害が当該製造物のみにとどまる場合には、適用がありません。欠陥製造物により購入者がけがをしたような場合に適用されます」
ーーユーザーが責任を追及するハードルは高いのですね
「はい。以上のように、日産の今回の不正行為を理由にユーザーが日産の民事責任を追及するのは難しいでしょう。もちろん、日産が国交省の行政処分等により行政上の責任を追及されることは別問題です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大和 弘幸(やまと・ひろゆき)弁護士
法律問題のみならず、公認会計士とタッグを組み、会計及び税務全般にわたっても適切なアドバイスを提供してまいります。
事務所名:やまと法律会計事務所
事務所URL:http://yamato-law-accounting.com