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Juice=Juice、3年ぶり×23曲×8人の歌が凝縮! 新作『Juice=Juice#2 -¡Una más!-』レビュー

2018年08月06日 17:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ハロー!プロジェクト内、というよりアイドル界全体においてもその歌唱力/パフォーマンス力の高さで評判を集めるグループ、Juice=Juice。彼女たちのニューアルバム『Juice=Juice#2 -¡Una más!-』がリリースされた。


参考:Juice=Juiceの過去・現在・未来が凝縮! 初アルバム『First Squeeze!』をピロスエが徹底レビュー


 前作『First Squeeze!』から3年17日ぶりとなるオリジナル2ndアルバムだ。初回生産限定盤にはMV等を収録したBlu-rayディスクが付属されるが、基本的にはCD2枚組。ディスク1にはシングル曲、ディスク2には配信リリース曲・ライブ限定曲・アルバム用新曲が収められており、11曲+12曲の計23曲となっている。


 Juice=Juiceは前作から今作までの3年の間に、5人→7人→8人というメンバーチェンジがあった。収録23曲は、メンバー数の違い、およびリリース形態や時期の違いによって7種類の傾向に分類することができる。本レビュー記事では、その傾向ごとに楽曲を紹介していくことでアルバムの内容に迫っていく。


<NEXT YOU曲>
■Next is you!/NEXT YOU(作詞・作曲:つんく 編曲:大久保薫)


■カラダだけが大人になったんじゃない(作詞・作曲:つんく 編曲:平田祥一郎)


■大人の事情/NEXT YOU(作詞・作曲:つんく 編曲:平田祥一郎)


 2016年2月~3月に放映された、5人時代のJuice=Juiceの初主演ドラマ『武道館』(フジテレビ系)。アイドル現象をテーマとしたこのドラマ内で、Juice=JuiceはNEXT YOUという架空グループを演じた。そのNEXT YOU名義で歌ったドラマ主題歌が「Next is you!」で、同曲との両A面シングルとしてリリースされたJuice=Juice名義の楽曲が「カラダだけが大人になったんじゃない」。2曲ともJuice=Juice初期からの定番サウンドである“ホーンセクションを効果的に用いたアッパーチューン”となっている。


 ドラマ挿入歌として配信限定でリリースされたのは「大人の事情」で、こちらもNEXT YOU名義曲。アイドル稼業と恋愛の狭間で揺れ動く心情を、実際のアイドルであるJuice=Juiceメンバーが切々と歌い上げるという、文脈の入り組んだ一曲だ。その聴き応えはかなりのもので、ファンからの評価も高い。


<5人時代シングル曲>
■Dream Road ~心が躍り出してる~(作詞・作曲:つんく 編曲:江上浩太郎)


■KEEP ON 上昇志向!!(作詞・作曲:前山田健一 編曲:ダンス☆マン ブラスアレンジ:川松久芳)


■明日やろうはバカやろう(作詞:福田花音 作曲・編曲:板垣祐介)


■地団駄ダンス(作詞:児玉雨子 作曲:BLACC HOLE & NOBB-D 編曲:BLACC HOLE & NOBB-D with T)


■Feel! 感じるよ(作詞:三浦徳子 作曲・編曲:中村瑛彦)


 2016年秋の初武道館ライブ前にリリースされたメジャー8thトリプルA面シングル『Dream Road ~心が躍り出してる~ / KEEP ON 上昇志向!! / 明日やろうはバカやろう』、そして2017年春の9th両A面シングル『地団駄ダンス / Feel! 感じるよ』。それらに収録されていたのがこの5曲だ。


 つんく♂流EDMの「Dream Road ~心が躍り出してる~」、ヒャダイン×ダンス☆マンによるマイケル・ジャクソンオマージュ「KEEP ON 上昇志向!!」、元アンジュルム福田花音の作詞も話題を呼んだミクスチャーロック「明日やろうはバカやろう」、音頭パートを内包したコミカルな「地団駄ダンス」、聴かせるバラード曲「Feel! 感じるよ」。


<5人時代配信曲>
如雨露 (Album Version)(作詞:児玉雨子 作曲:YUKO 編曲:大久保薫)


■Goal ~明日はあっちだよ~ (Album Version)(作詞・作曲:近藤薫 編曲:近藤薫、沢頭たかし)


■Wonderful World (2018 English Ver.)(作詞・作曲:イイジマケン 英語詞:鈴木桃子 編曲:gaokalab)


 モーニング娘。’15が2015年秋ツアー初日に初披露した楽曲「私のなんにもわかっちゃない」以降、ハロプロでは“ライブ限定曲”という概念が生じ始めていた。ライブでは歌われるが、CD化などはすぐにはされないというケースの楽曲だ。


 Juice=Juiceにおける初めてのライブ限定曲は、2016年5月20日『Juice=Juice LIVE MISSION 220 ~Code3→Growing!~』吉祥寺CLUB SEATAにて初披露された「如雨露」だった。同年10月22日の『Juice=Juice LIVE MISSION 220 ~Last Code→Full Squeeze!~』松山サロンキティにて初披露された「Goal~明日はあっちだよ~」も同じくライブ限定曲。この2曲は、翌2017年5月19日に「Goal~明日はあっちだよ~」、6月16日に「如雨露」が配信リリースという形でやっと音源化された。今回のアルバム収録で初CD化ということになるが、2曲ともAlbum Version、つまりオリジナルの5人に梁川奈々美・段原瑠々が加わった7人バージョンでの収録となる。要するに配信版は5人歌唱、CD版は7人歌唱というわけだ。


 「如雨露」はミュージカルを思わせる流麗なストリングスが印象的な曲調。間奏では如雨露(じょうろ)で水を撒くと花が咲くというジェスチャー振り付けが盛り込まれた、シアトリカルな仕上がりだ。


 「Goal~明日はあっちだよ~」が初披露された松山サロンキティ公演は、LIVE MISSION 220ツアーのちょうど220本目という節目。そして公約どおり220公演達成の証として武道館ライブにつながっていくということで、そんな状況を歌っているようにも取れる歌詞だった。しかし武道館公演後もJuice=Juiceのライブ定番曲となっていったのは、ストレートなロックサウンドとポジティブな歌詞がもたらす爽快さの賜物だろう。


 メジャー6th両A面シングルとして2015年春にリリースされた「Wonderful World」は、その英語詞セルフカバーとなるEnglish Ver.が後述のデジタルシングル『Fiesta! Fiesta!』のc/wとして2017年8月23日に配信された。同年秋開催のワールドツアーで世界10カ国を巡ったJuice=Juiceにふさわしい、グローバル対応な一曲。今回のアルバムでは2018 English Ver.として7人歌唱での収録となる。


<5人時代ライブ曲>
■あばれてっか?! ハヴアグッタイ(作詞:児玉雨子 作曲・編曲:ダンス☆マン)


■銀色のテレパシー(作詞:児玉雨子 作曲:星部ショウ 編曲:高橋諭一)


■この世界は捨てたもんじゃない(作詞:井筒日美 作曲・編曲:中村瑛彦)


 前述の「如雨露」「Goal~明日はあっちだよ~」と同じくライブ限定曲として発表されたが、その2曲とは異なりこれまで配信リリースもされず、本アルバムでやっと音源化されたのがこの3曲だ。3曲ともライブ初披露は2017年2月2日の『Juice=Juice LIVE AROUND 2017 ~NEXT ONE~』新宿ReNY公演だった。


 ダンス☆マンの作編曲によるファンキーチューンが「あばれてっか?! ハブヴグッタイ」。「明日やろうはバカやろう」にも似た方向性だが、こちらは歌詞がよりユニークで、ギャル渡世賛歌とでもいえそうなかなり攻めた仕上がり。


 「銀色のテレパシー」はElectric Light Orchestraなどを想起させるエレクトロポップで、80年代アイドル歌謡的ともいえるリリカルな一曲。歌割で見ると宮本佳林のパートが比較的多い。かねてから松田聖子をはじめとしたアイドル歌手へのリスペクトを表明し、最近ではそれが高じて雑誌企画で松本伊代や浅香唯といったレジェンド級アイドルとの対談が実現している宮本。そんな彼女との相性バッチリな楽曲、という捉え方もできそうだ。


 「この世界は捨てたもんじゃない」は70年代の日本の歌謡曲を思わせる、どこか温かみのあるサウンド。楽曲内に充満するムードは、「Wonderful World」と同じく多幸感に満ちたものだ。


 なお、アルバムではこれら3曲は7人歌唱バージョンで収録されている。


<7人時代シングル曲>
■Fiesta! Fiesta!(作詞:井筒日美 作曲:エリック・フクサキ 編曲:大久保薫)


■SEXY SEXY(作詞・作曲:つんく 編曲:平田祥一郎)


■泣いていいよ(作詞:大森祥子 作曲・編曲:中村瑛彦)


■Vivid Midnight(作詞:児玉雨子 作曲:SEION、Tasco、Tenzo 編曲:Tasco、Tenzo)


 『Fiesta! Fiesta!』は、CDではなく配信のみのデジタルシングルという形態で同年8月23日にリリースされた(iTunesでは8月2日に先行配信)。ライブ初披露は7月15日の『Hello! Project 2017 SUMMER ~HELLO! MEETING~』ツアー初日の大阪オリックス劇場で、この日は7人体制のJuice=Juiceの初お披露目でもあった。エリック・フクサキ作曲によるラテンサウンドに乗せて、曲冒頭で新メンバー段原が〈情熱を解き放とう!〉というフレーズを声高々に歌い上げる。この瞬間は7人になったJuice=Juiceの存在感をファンに広く知らしめたインパクトあるものだったし、Juice=Juiceの活動歴における大きなターニングポイントでもあった。


 2018年、つまり今年の春に7人では初のトリプルA面シングルをリリース。K-POPタッチの軽快なポップス「Vivid Midnight」はなかなかに新鮮だった。「Feel! 感じるよ」と似た方向性だがまた違った感触を持つバラード曲が「泣いていいよ」。曲冒頭の歌割が金澤朋子→宮崎由加→植村あかりと続くのはJ=J楽曲では珍しいケースだった。


 そして「SEXY SEXY」は、つんく♂流EDMという点では「Dream Road ~心が躍り出してる~」と共通するものがあるが、ここではより重心の低い艷やかなサウンドを展開。シンセの鳴りも良いが、セクシーさを体現しているのはやはりメンバーの歌唱だろう。割合としては高木紗友希の歌割が比較的多いが、それと同時に梁川奈々美も節目節目の目立つパートを任されており耳に残る。彼女は普段の喋り言葉ではラ行の発音の滑舌の悪さがチャームポイントなのだが、1番サビ終わりの〈Crazy〉というフレーズは、その独特の発音が隠し味として良い方向に作用しているように思える。


<7人時代ライブ曲>
■Never Never Surrender(作詞:児玉雨子 作曲:星部ショウ 編曲:大久保薫)


■TOKYOグライダー(作詞:唐沢美帆 作曲:星部ショウ 編曲:松井寛)


 メンバーが7人になってから発表されたライブ限定曲は2曲で、「Never Never Surrender」は2017年10月28日『Juice=Juice LIVE AROUND 2017 ~Beyond the Beyond~』金沢Eight Hall、「TOKYOグライダー」は11月11日の同ツアーの大分DRUM Be-0公演にてそれぞれ初披露。今回のアルバムで初音源化となる。


 「Never Never Surrender」はEDMビートにバグパイプ等のケルト音楽要素を組み入れた力強くもみずみずしいサウンド。曲終盤での高木紗友希のフェイクも聴きどころだ。「TOKYOグライダー」はラグジュアリーな雰囲気のジャズファンク歌謡で、16ビートならではのノリと、それを歌いこなすメンバーの力量が堪能できる好ナンバーだ。編曲の松井寛は前作アルバム収録曲「生まれたてのBaby Love」以来2回目の起用となる。


<8人時代新曲>


■シンクロ。(作詞:井筒日美 作曲:星部ショウ 編曲:浜田ピエール裕介)


■素直に甘えて(作詞:NOBE 作曲:星部ショウ 編曲:鈴木俊介)


■禁断少女(作詞・作曲:大橋莉子 編曲:平田祥一郎)


 そして残る3曲が、本アルバム用に制作された完全新曲。3曲とも今年6月13日に加入した稲場愛香(元カントリー・ガールズ)を含む8人、つまり現在のJuice=Juiceメンバーによる歌唱となっている。


 「シンクロ。」はフォークトロニカ風のトラックで優しく綴るミディアム曲。2番サビ終わりの稲場愛香パート〈不安までがシンクロしてた〉が綺麗にハマっており、Juice=Juiceの歌声のパレットにまた新たな一色が加わったことを感じさせる。


 「素直に甘えて」はボサノバ。イントロ含め曲の端々で奏でられているゴージャスな音色は、『ルパン三世』などでおなじみの大野雄二サウンドを連想させるところもある。1番サビ終わりの梁川奈々美の〈覚えて CHERRY〉という抑制の効いた歌い方などは、新境地といえるだろう。


 「禁断少女」は80年代PWL(SAW)サウンドを素地としたシンセ/ダンスポップ曲。歌詞も含め、いわゆるアイドルポップスの王道に則ったオーソドックスな作りだが、それをJuice=Juiceが歌うことにより、ハイクオリティかつ普遍的なラブソングとして結晶化された。作詞作曲の大橋莉子はSUPA LOVE所属の22歳現役女子大生コンポーザーで、ハロプロだとつばきファクトリー「低温火傷」の作曲、「純情cm」の作詞作曲を手がけており注目の作家だ。



 ここまで見てきた全23曲が、ディスク1ではリリースの新しい順、ディスク2では起伏のある曲順で収録されている。楽曲ごとに様々な音楽ジャンルを志向し、それを高い歌唱力で表現している、という点は前作アルバム『First Squeeze!』と同様で、Juice=Juiceの最大の魅力だ。本アルバムでは、そこに新メンバー3人が加わったことで、歌声のバリエーションの幅がさらに広がっているのが特徴といえる。


 個人的な本アルバムのベストチューンは「禁断少女」。アルバムの曲順でも終盤のクライマックスに配置されているこの8人曲のすぐ次に、5人時代のベスト歌唱のひとつである「大人の事情」へと繋がれているのがなんとも心憎い。また、「シンクロ。」の歌詞はJuice=Juiceというグループそれ自体のことを歌っているようにも読み取れて味わい深い。そしてアルバムラストに置かれた「Wonderful World (2018 English Ver.)」は、この曲のみ英語詞で毛色が違うということでボーナストラック的な位置づけと考えることもできるのだが、でも実際に聴き返してみると、他の曲とは異なるそのフロウが実に心地よく、日本のみに留まらず世界へ羽ばたいていくJuice=Juiceの姿をつい夢想してしまう。このレビューを読んでくれたあなたも、本アルバムから自分のベストチューンを探し出してみてほしい。(ピロスエ)