F1ドイツGPで2台揃ってQ1落ちした1週間後のハンガリーGPでは、予選Q3に進出し決勝では中団グループのトップ“Bクラス”優勝へ。まさしく地獄から天国への生還を果たしたのが、トロロッソ・ホンダのシーズン前半戦最後の2連戦だった。
ドイツGPが開催されたホッケンハイムでは降雨時のギャンブルでブレンドン・ハートレーが1ポイント獲得を果たしたものの、マシンの仕上がりは最悪だった。定石通りの戦い方では入賞圏には到底及ばず、失うものが何もなかったからこそのギャンブルでポイントを掴んだに過ぎなかった。
マシンは全体的にグリップ不足で、コーナーの入口ではリヤが不安定。コーナーの中ではフロントが逃げていき、コーナーの出口ではトラクションが不足するという状況だった。それをカバーするためにウイングを立てなければならず、非力なホンダ製パワーユニットではストレート速度も伸びない。どこかを立てようとすればマシンバランスが崩れ、最低限ドライブ可能なバランスを保つためにはそんな『良いところがひとつもない』マシンで我慢するしかなかったのだ。
ドイツGP予選でQ1敗退に終わったピエール・ガスリーは以下のように語った。
「全体的なグリップ不足だよ。コース1周のあらゆるところでその症状に悩まされているんだ。他のチームはコンスタントにインプルーブしているのに対して、僕らは今週末アップデートはないし、すでにイギリスGPの時点でQ2に行くのにはかなり苦労していたから、このあたりが今の僕らのポジションということだよ」
また金曜フリー走行でデータ取りを行なうものの、新型フロントウイングの理解が遅々として進まないことにハートレーは不満を持っていた。
「僕らはオーストリアGPに投入した空力アップデートから期待通りのパフォーマンスゲインを得られていない。その間に他のチームはどんどんマシンを向上させていっている。僕らは特に土曜日のパフォーマンスを改善しなければならないだろう」
各車がペースを抑えて走る決勝では相対的な差が縮まるものの、別の問題も顕在化していた。
「問題は前走車の後ろについて走るときだ。ダウンフォースを大幅に失ってしまうし、全く別のクルマみたいになってしまう。シーズン序盤から僕らはこういう症状に苦しめられているんだ。それを解決するために努力する必要がある」とガスリー。
そんな状況だっただけに、トロロッソ・ホンダはハンガリーGPにもそれほど大きな期待を持って臨んでいたわけではなかった。
ハンガロリンクはツイスティでパワー感度はシーズンで3番目に低いものの、全開率は55%とそれなりに高く、パワーの差が帳消しになるわけではない。そしてマシン開発が進まずモナコGP以降に入ったアップデートはフロア側面のスリットとバージボードの小改良、ノーズステーのフォルム調整くらいのもので、中団グループにおける相対的な競争力はかなり下がってしまっていたからだ。
■ドイツGPから一転、走り始めから絶好調のトロロッソ・ホンダ
レース週末を前に、ハートレーはこう語っていた。
「ハンガロリンクが僕らにとって合っているサーキットであることは間違いないけど、オーストリアGPに入れたアップデートが期待通りのパフォーマンスを発揮してくれなかったことで僕らのポジション自体が5戦前に比べて後退してきてしまっている。それに中団グループの争いはすごく激しいから、自分たちのポジションを予想するのはかなり難しいんだ」
「バーレーンではあそこまで良いとは思わなかったし、モナコはまぁ予想通りだったとしても、オーストリアのレースペースがあれだけ良かったのは予想外だった。カナダも予選12位になれるとは思っていなかったし1周目にクラッシュに巻き込まれていなければポイントを獲るチャンスは充分にあったはずだ。タイヤの温度がワーキングウインドウに入れられるかどうかだけでも順位は大きく違ってきてしまう。予選10番手と20番手の差なんて本当に小さいからね」
しかし走り始めてみれば、トロロッソ・ホンダのマシンは良い感触だった。金曜から土曜にかけてのファインチューニングも上手く進み、フリー走行3回目では9番手・11番手でQ3に進出できるかどうか当落線上ギリギリのところ。ライバルたちにパワーユニットの予選スペシャルモードを使われたときにどうかというところだったが、直前の雨に救われた。
これまでにもオーストラリアGPやフランスGP、ドイツGPのフリー走行などウエットコンディションでは常にトップ10に位置していたように、トロロッソはウエットで速かった。メカニカルグリップが優れていることと、シーズン開幕前からドライバーたちが賞賛したホンダのフラットな出力特性からくるドライバビリティの良さのおかげだ。
「ドライバーからすれば、トルクの出方はコンスタントでペダル操作に対して正確にパワーが出てほしいものなんだ。常にトラクションの限界ギリギリまでパワーをひねり出したいからね。ペダルの操作とトルクのピークの出方に違いがあると、特にウエットコンディションではトリッキーなことになる。ホンダはその点がとても良いんだ」とホンダ製パワーユニットの特性についてガスリーは語っている。
スタートでカルロス・サインツJr.の前に出たガスリーは、クリーンエアで走ることができた。おかげでドイツGPで訴えていたような前走車の影響も受けずに自分本来のペースで走ることができた。後ろのケビン・マグヌッセンはチームメイトと較べてもリヤタイヤのマネージメントが得意ではなく、序盤からタイヤマネージメントと燃費セーブに徹してくれたことも味方した。終わってみれば余裕の6位だった。
■ハンガリーGP決勝で好発進を決めたブレンドン・ハートレーだったが……
逆にハートレーはターン1手前でガスリーのイン側に並びかけるほどの好発進を決めたものの、無用な接触を避けるために引いて後退。ルノー勢とのバトルになったがコース上では抜くことができず、彼らに合せてピットインしたことも命取りとなって延々と前走車のペースに付き合わされるレースになって11位に終わった。
この両者の結果の差が、今の中団グループの争いの厳しさを表わしている。クリーンエアで本来の力を発揮できれば6位になれるクルマでも、集団に飲み込まれればたちまちポイント圏外に落ちる。スタート直後のポジション次第では、ガスリーとてハートレーのような展開になっていてもおかしくはなかったのだ。
トロロッソ・ホンダがハンガリーで良い仕上がりを見せたことは確かな事実だ。しかしウエットコンディションに恵まれた予選の結果が純粋な実力を表わしているわけではなく、そのポジションから臨んだからこそ決勝も有利な展開になったが、6位とノーポイントは紙一重だということも忘れてはならない。
トロロッソはチームとして今回のマシンが良かった理由をしっかりと分析し把握する必要がある。ハンガリーで予想以上の速さを発揮した理由が何だったのか、そしてそれ以前のレースで予想以下の速さしか発揮できなかった理由は何だったのか。
それが把握できなければ、今後もセットアップの精度を高めることはできず、予想以上・以下のどちらに振れるか分からない不安定なシーズンが続いてしまうだろう。そしてホンダも車体側にもっと空力セットアップの“幅”を与えられるようパワーアップに努めなければならない。フェラーリ勢が調子を上げてきているように、予選結果に直接影響するパワーユニット・予選スペシャルモードの実戦投入も急がれる。
ハンガリーGPの6位入賞は福音ではなく、むしろ警鐘だ。そう捉え努力を続けなければ、トロロッソ・ホンダのシーズン後半戦は再び厳しいものになってしまうだろう。