村上春樹がDJを務めるラジオ番組『村上RADIO~RUN&SONGS~』が8月5日19:00からTOKYO FMほかJFN系列全国38局ネットで放送される。
1949年に生まれ、今年で69歳を迎えた村上春樹。初めてラジオDJとなり、自らディレクターも担当する同番組のテーマは「RUN&SONGS」。村上がランニングするときに持参しているというiPodやCD、レコードをスタジオに持ち込み、村上が選曲した楽曲や「走ること」「音楽」「文学」について語る。
7月29日にはTOKYO FMでプレ特番『いよいよ来週!村上RADIO』が放送。パーソナリティーは『羊をめぐる冒険』がお気に入りだという坂本美雨、『ノルウェイの森』が1番のお気に入りで、村上作品から大きな影響を受けてきたという小説家・小川哲。村上ファンや実際に交流を持つ著名人が録音コメントで登場し、村上についてのエピソードを披露したほか、村上春樹がランニングをする際に聴く音楽を予想した。
■iPodを7台所有する村上春樹。プレ番組では肉声で「楽しんでいただけると、とてもハッピーです」
「村上春樹さんって本当にいるんですね!」という坂本美雨の印象的な発言からスタートしたプレ番組。村上春樹自身による肉声のメッセージ音声も放送された。内容は以下の通り。
<どうも。村上春樹です。んーっと、僕はだいたい毎日走ってるんですけど、走るときはiPodで音楽を聴いています。1台のiPodに1000曲か2000曲、音楽が入ってるんですが、これはもう吹き込むだけで本当に大変でした。それが、7台あります。8月5日の放送では、その膨大なラインナップの中から何曲かを選んでお聴かせしたいと思います。楽しんでいただけると、とてもハッピーです。>
小川哲は村上の声について「よく通る声で、ラジオ向きなのでは」と評価。坂本美雨は『村上RADIO』本放送に出演することと、事前に村上春樹と対面したことを明かした。そのときの感想は「本当に、いた」。本人の印象については「もっと神経質な方かと思っていたら、そんなことはなく、周りを緊張させるオーラ発しない方。優しく喋ってもらえました」と語った。
■プレ番組にはセカオワSaori、スガシカオらが登場。本番で「DJ村上春樹」は何をかける?
村上春樹についてのコメントを寄せた著名人は、藤崎彩織として小説を発表しているSaori(SEKAI NO OWARI)をはじめ、大西順子、スガシカオ、小澤征悦。
『スプートニクの恋人』をフェイバリットに挙げたSaoriは、「小説家だと思っていた村上春樹さんが、人生で初めてDJに挑戦するとのことで、本当にびっくりしました」とコメント。曲予想はシューベルトの“即興曲 Op.90/3”。村上と交流のあるジャズミュージシャン・大西順子はアート・ブレイキーの楽曲を予想した。
村上春樹が聴く数少ない日本のアーティストだというスガシカオは、対面した際の印象として「足の筋肉がめっちゃすごい。びっくりしました」と語ったほか、村上本人から聞いた『ノルウェイの森』執筆時のエピソードを披露。村上と対談した指揮者・小澤征爾の息子で、家族ぐるみの付き合いをしているという小澤征悦は、父と村上の対談時に実際に話を聞いた印象や『風の歌を聴け』に引用されたニーチェの言葉などについて語った。
またリスナーからの予想で、『村上さんのところ』で村上春樹が最近のお気に入りに挙げていたGorillazの楽曲もかけられた。
プレ番組はradiko.jpのタイムフリー機能で、8月5日16:59まで聴くことができる。
■過去には『村上ラヂオ』や読者からの質問募集も。「ラジオ的」な活動を展開してきた村上春樹
公の場に出る機会が少ない村上春樹にとって、エッセイは自身の生活や趣味嗜好を読者に伝える主な手段だ。その名も『村上ラヂオ』と題したエッセイシリーズもある。
また村上自身が読者からの質問に答える、参加型企画をたびたび実施。その記録は2015年刊行の『村上さんのところ』、2006年刊行の『「これだけは、村上さんに言っておこう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける330の質問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?』、2003年刊行の『少年カフカ』などで読むことができる。こういった交流の試みのルーツは新聞や雑誌の投書欄にあるのかもしれないが、軽妙で機知に富んだ語り口の返答はラジオの「お便りコーナー」を連想させる。
■『風の歌を聴け』から40年。ついに「本物のラジオ」に登場
紙の上で、あるいはインターネットを通じて、まるで架空のラジオ番組のように発信を続けてきた村上春樹が、ついに「本物のラジオ」で本物のディスクジョッキーになる。そして実際に音楽をかける。村上春樹作品には数多くの音楽が登場するが、その作品を通して新たな音楽を発見した読者も多いだろう(筆者もその1人だ)。当たり前すぎるほど当たり前の話だが、「本物のラジオ」では、村上春樹がおすすめする音楽を本人の紹介と共に聴くことができるのだ。
デビュー作『風の歌を聴け』の執筆が開始された1978年から、今年で40年。来年にはデビュー40周年を迎える。『風の歌を聴け』といえば、作中に登場するラジオのDJ、「犬の漫才師」はリスナーに向けてこう語る。
<山の方には実にたくさんの灯りが見えた。もちろんどの灯りが君の病室のものかはわからない。あるものは貧しい家の灯りだし、あるものは大きな屋敷の灯りだ。あるものはホテルのだし、学校のもあれば、会社のもある。実にいろんな人がそれぞれに生きてたんだ、と僕は思った。そんな風に感じたのは初めてだった。そう思うとね、急に涙が出てきた。泣いたのは本当に久し振りだった。でもね、いいかい、君に同情して泣いたわけじゃないんだ。僕の言いたいのはこういうことなんだ。一度しか言わないからよく聞いておくれよ。
僕は・君たちが・好きだ。
(村上春樹『風の歌を聴け』(講談社)より)>
「犬の漫才師」がリスナーからのリクエストに応えてかける楽曲は、エルヴィス・プレスリーの“Good Luck Charm”。『村上RADIO』で村上春樹が何を語るのか、何を選曲するのか、楽しみは尽きない。
■「パーソナルな番組にできれば。楽しんでください」本人コメント
番組の特設サイトでは村上春樹のコメントが掲載中。
<小さい頃から、レコード(とかCD)のコレクションが趣味で、おかげでうちにはそういうものが溢れかえっているんですが、「こんな素敵な音楽をいつも僕ひとりで聴いて、気持ちの良い時間を送っていて、世の中になんか申し訳ないよな」とよく思っていました。ときにはいろんな人たちと適当におしゃべりをしながら、ワイン・グラスやコーヒー・カップを手に、心地よい時間を分け合うのもいいかもしれない。
ラジオでディスクジョッキーみたいなのをやってみようかという気になったのは、そういうところが原点になっています。だから僕の好きな音楽ソースをうちから持ってきて、それを好きなようにかけて、そのあいだに好きなことを話させていただく……そんな感じのパーソナルな番組にできればと思っています。
他の番組ではあまり(まず)聴けないような曲を、でもできるだけ寛いで聴ける音楽を選んでかけていきたいと思います。むずかしいことはほとんど抜きで。そしてその合間にちょっとしたお話もできればなと思っています。楽しんでください。>