現在、空前の猫ブームだなんて言われている。日本ではペットの飼育頭数は長らく犬が首位だったが、ここ2、3年でとうとう猫がその座に就いた。
が、そうは言っても日本の住居環境ではペットの飼育には適さないケースも多く、ペット飼育不可の物件も多い。そういう物件に住むものの、猫が好きで触れ合いたいと考える方々にとってのオアシスが、猫カフェだ。
今や全国に無数に点在している猫カフェでは、管理している猫の健康状態を良好に維持することは、これは当然の責務である。ワクチンの摂取に加え、病気の有無を検査でチェックし、猫カフェ内での病気の伝染を防ぐというような努力は、努力とも呼べないレベルで当たり前のことだ。その当たり前のことが出来ていなかった猫カフェがあった。(文:松本ミゾレ)
「ただちに社長を中心とした対策チームを組成」と言葉だけは真摯だが……
8月2日、猫にとっては致死率の高い感染症の一種、猫パルボウイルスが『猫カフェ MOCHA』立川店において流行し、数頭の猫が死亡したと報じた。これによって『猫カフェ MOCHA』は立川店のみならず、関東に展開していた全ての店舗を臨時休業したと発表し、謝罪した。
同猫カフェの公式ホームページに社長名義での謝罪文が掲載されているが、これによると7月26日に立川店で猫パルボウイルスの感染が確認された。その後感染が広がり、8月1日までに5頭が死亡したということだ。謝罪文によると、この5頭以外に猫パルボウイルスに感染した猫はいないとしている。
肝心の初期対応については、「7月27日に社長である私及び提獣医師を中心とした対策チームを組成し~」とある。これだけ見ていると「まあ迅速な対処に尽力したのかな」とか思えてしまうが、ちょっと待って欲しいのだ。
結局立川店を閉鎖したのは、それから数日後の8月1日である。率直に言って「この社長、まともじゃない」という思いしかしない。
猫カフェにおいて猫というのは、大事な主役であり、商品である。その商品のコンディションを考慮すれば、しっかりとワクチン接種をしていれば良いだけだし、こうすれば感染症リスクは極限まで下がる。
謝罪文では「猫に対し生後2~4ヶ月間と毎年1度のワクチン接種」を実施したとあるが、こんなに密にワクチンを接種させているのに、なぜ……というのが僕の本音である。適切な接種がしっかりと実施されていたとは信じたいが、その適切な接種が本当に実施されていたんなら、そもそも発生しないトラブルなのである。
ネット上に書き込まれていたスタッフの"悲鳴"
とまあ、ここまではいわゆる同猫カフェの経営姿勢についての率直な疑問点について触れてみたんだけど、最大の争点はそこではないと思っている。
社長が謝罪文を発表するよりも早く、ツイッター上では『猫カフェ MOCHA』のスタッフと思しき人物によるアカウントから、内部告発に近い形での投稿がなされていた。「猫パルボウィルスが蔓延していて、4日間で4匹死んだ」であるとか「他の猫も感染している疑いがあるのに、社長は営業を中止してくれない」といった内容だ。
さらには「社長は猫0匹になっても営業しろって言ってる」など、前項で触れた社長の真摯な文面とは、随分異なる姿勢を覗かせている。
これを「所詮ネット上の戯言」と取る人は、今の時代そう多くないだろう。内情についての告発が実際の発表と類似している部分も少なくないし、そもそもこの告発ツイートがなければ、隠蔽する気が満々であったとも捉えることができる。
加えて何度も書くが、今回蔓延したパルボウイルスは一般的なワクチン投与で防げるものであり、本来なら猫カフェで流行することが言語道断なレベルだ。しかも店内での流行リスクだけでは話は終わらない。
来店したお客さんたちが媒介となって、他所の猫カフェや、自宅の猫にも感染させるという二次被害まで発生させていた可能性がある。「謝罪して臨時休業ではい解決!」ではあまりに動物の命を蔑ろにし過ぎている。これでは動物を対象にした極限の搾取ではないか。告発ツイートが万が一にもガセだとしても、ウイルスの蔓延する中で営業を続けていた期間があるのは事実だ。社長はその間に商品である猫が衰弱死しても良いと思っていた、と言ってもこれは過言ではない。
このような経営者の、命を命とも思っていないような経営なんて、もはや経営とは呼べない。