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戸田恵梨香が貫いた緋山美帆子の“愛情深さ” 『劇場版コード・ブルー』で見つけた進むべき道

2018年08月04日 11:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 山下智久主演の人気ドラマ『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)が劇場版となって帰ってきた。『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(以下、『劇場版コード・ブルー』)は、2017年7月期に放送された『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- THE THIRD SEASON』の3カ月後の物語である。ドラマを受けて、続編のようなポジションで製作されたこの映画では、ドラマで描かれてきた登場人物たちの魅力を残したまま、それぞれが新たなキャリアや、自分の人生との向き合い方、さらには家族との向き合い方についてどう乗り越えていくかが鮮明に描かれている。3rdシーズンまでで築いてきたキャラクターの背景は劇場版でさらに魅力を増し、それぞれの人生でスクリーンを彩る。中でもひときわ特別な魅力を放ったのは、緋山美帆子を演じる戸田恵梨香であった。


【写真】山下智久、新垣結衣らが“10年分の感謝”伝える 『劇場版コード・ブルー』初日にキャスト集結


 戸田は、2006年6月公開の『デスノート』でスクリーンデビュー。山下と初共演した『野ブタ。をプロデュース』(2005年、日本テレビ系)では学園のマドンナ的な役を演じ、一気に知名度を上げた。山下とはその後、『SUMMER NUDE』(2013年、フジテレビ系)でも共演している。戸田はシリーズ化されているドラマへの出演が多く、実力は折り紙つき。『コード・ブルー 』シリーズでも1stシーズンから3rdシーズン、さらには映画までしっかり緋山美帆子と向き合い続けた。同ドラマのキャスト陣は1stシーズンから映画までで10年の付き合いとなる。その間、それぞれが別のドラマでの共演などを経て『劇場版コード・ブルー』でまたその絆を深めている。


 『劇場版コード・ブルー』で緋山は、自身の恋人であり事故による障害を持つ緒方博嗣(丸山智己)との関係に思い悩む。悩みはそれだけではなく、自身のキャリアやフェローの指導について、ひいては藍沢の事故など、考えなければいけないことが多く、その一つひとつの小さなモヤモヤを、強気で不器用な態度ながらも一生懸命乗り越えていくのであった。緋山を演じた戸田の器用なところは、言葉でどれだけきついことを言っていても、表情から手に取るように心の動きがわかるところである。


※以降、一部ネタバレ要素を含みます


 緋山は藤川一男(浅利陽介)の結婚式で流すメッセージビデオの撮影を白石恵(新垣結衣)に強いられ、興味がないと冷たく突き返す。また、口に出して感謝を伝えたり素直に振る舞ったりすることの多い白石と並ぶシーンが多いため、余計にその強気な性格が前面に押し出されてしまう立ち位置でもある。恋人である緒方にも、料理中の口論でひどいことを言ってしまったというエピソードがある。そういったシーンの積み重ねがあるにも関わらず、戸田の演じる緋山は冷たくて性格の悪い女であるという印象は受けない。むしろ、不器用だが誰よりも愛情深く、面倒見が良く、責任感のある女性だと思わせる。それは、戸田自身が緋山と向き合い、強く感情移入してこそ成立する繊細な芝居があったからだろう。白石と築いてきた関係、後輩フェロー名取颯馬(有岡大貴)への接し方、緒方への愛情。どれをとっても、実際に1人の人間が何十年もかけて積み上げてきた強い信頼や愛情を感じさせる表情をする。それを撮影期間の数カ月間で気持ちを作り、さらには伝わるまでに繊細に演じきる器用さに感銘を受けた。


 その戸田の繊細な演技が一番光ったのは、事故に遭って意識不明であった藍沢の意識が戻ったシーンである。決して大げさな芝居ではなかった。静かに、しかし力強い表情で笑顔を見せる。その緋山の笑顔だけで思わず涙がこぼれた。藍沢の容態に関して緋山が感じていた不安、意識が戻ったことへの安堵の全ての感情の調和がとれていた。これだけの表現力を持った役者がしっかり物語の軸を固め、サイドストーリーを支えることで、この映画はさらに魅力を増す。戸田演じる緋山だけではなく、藤川、冴島はるか(比嘉愛未)もまた、その軸の固さに加担している。さらに映画では、結婚を控えた患者を演じた山谷花純、雪村双葉(馬場ふみか)の母親役を演じたかたせ梨乃など、ゲスト俳優までがその実力をふんだんに発揮し、とてもフィクションとは思えない繊細な気持ちの動きを描き出した。


 小さな物語が繋がりあって大きな物語を描く。ドラマで培ったその手法を映画でも取り入れ、さらに魅力的なフライトドクターとフライトナースの現場の姿を映し出した。彼らの決断や成長とともに、自分の人生を振り返るきっかけとなる前向きな作品であった。


(Nana Numoto)