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韓国フィメールラッパーの本格シーズン到来? Jvcki WaiからEXID LE、Heizeまでの歴史を追う

2018年08月02日 13:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年6月末、韓国の新鋭フィメールラッパー、Jvcki Wai(ジャッキー・ワイ)が、lute株式会社と日本活動におけるエージェント契約を締結したことが発表された。luteは同月上旬にも韓国のヒップホップ専門レーベル<Hi-Lite Records>と業務提携したことを発表しており、これらの動きを通してますます韓国ヒップホップが日本で盛り上がっていくことが期待される。


(関連:Jvcki Waiとのコラボで脚光 DAOKO、あっこゴリラ楽曲など手掛けてきたPARKGOLFの手腕


 実際“韓流サードウェーブ”という言葉を最近よく耳にするようになってきた。韓流サードウェーブとは、韓国ドラマのブームを第1波、少女時代やKARAなどのK-POPブームを第2波とした上で、ヒップホップ・R&B・インディーロックなどの音楽、それからファッションを含むユースカルチャーにまで食い込んだ第3波目のブームを指す。今年に入っていくつものメディアが韓流サードウェーブを銘打った特集を組むなど、新たなムーブメントが起こっていることは間違いないようだ。


 その盛り上がりに大きく関わっているのが、韓国のフィメールラッパーたちの存在だろう。特に先述のJvcki Waiは、日本人受けするポイントをいくつも持ち合わせている。大胆なアイメイク、アニメキャラのようなピンクのヘアスタイル、ゴシックパンク系のファッション、キュートな顔立ちとは裏腹に男勝りで豪快なリリックとモーション。彼女が持つこれらの要素は、女性らしさがより強く求められる韓国社会と比べると日本では受け入れられやすいのかもしれない。オートチューンを強く効かせたシンギング・ラップ、特有の強気なトーンなど他の追随を許さない彼女の個性は、感度の高い若者たちを惹きつけて離さないのである。


 現に彼女が6月にリリースした日本人トラックメイカー・PARKGOLFとのコラボ曲「xaradise」は、Spotifyの「バイラルトップ50(日本)」で4位を記録した。全編東京で撮影されたミュージックビデオも、リリースから1カ月で67万回再生に到達。韓国の新人ラッパーが日本で初めて発表したトラックとしては好調な滑り出しだ。Jvcki Waiは今月に入って1stアルバム『Enchanted Propaganda』をドロップしたばかり。日韓の両国で今後も大きく活躍することだろう。


 ところで韓国のフィメールラッパーの歴史は、これまでどのように紡がれてきたのだろうか。この機会にその歩みを簡単に辿ってみたい。


 韓国で最初に名を馳せたフィメールラッパーといえば、問答無用でユン・ミレだろう。アメリカで生まれ育った彼女は、1997年に4人組グループ・UPTOWNのメンバーとしてデビューした。グループ解散後はソロ活動のみならず、クルーやユニット活動も展開。7月5日にニューアルバム『Gemini 2』をリリースしたばかりの彼女は、デビューから現在に至るまで20年もの長きにわたって“女王”の座を守り続けている。


 以降、2010年頃までに表舞台に出てきたフィメールラッパーは、いずれもメインストリームでテレビ向けの活動をしてきた。例えば元2NE1のCLとBrown Eyed Girlsのミリョは実力派として名高いが、その立ち位置はあくまで“アイドル”だ。CLと同じYGエンターテインメントに所属していた実力派ラッパー・LEXYも、大衆向けの活動を展開した。


 このように、いわゆるアンダーグラウンド的な活動(=自分でリリックを書き、ミックステープを制作し、ダンスは踊らず、テレビではなくライブを中心とした活動)をする者は長らく出てこなかった。もちろんそれが悪いということではない。CLのような人気も実力も伴ったカリスマ的存在こそが、韓国のフィメールラッパーの存在を世界に知らしめたのは紛れもない事実だ。


 2010年前後からはJolly V、KittiB、Tymeeなどのフィメールラッパーたちがアンダーグラウンドで少しずつ目立つようになってきた。男性中心のヒップホップシーンの中で人気ラッパーたちと肩を並べることは彼女たちにとって至難の業だったが、そんな中でも現EXIDのメンバー・LEは群を抜いていた。人気ラッパーが集結したJiggy Fellazというクルーに唯一の女性メンバーとして加入したのだ。Vasco、Deepflow、Basickなどの大物ラッパーたちに引けを取らないLEの堂々たるラップは、下記動画で確認できる(当時はElly名義)。


 しかしLEは2012年、ガールズグループ・EXIDのメンバーとしてメジャーデビューした。初めのうちはアイドルに転向することを批判もされたが、より大きな舞台で活躍することを望んだ彼女は自分の信じた道に進み、結果としてはそれが大成功となったのだ。EXIDは今や韓国を代表するグループにまで成長し、ミュージックビデオの再生回数が数千万回にも上ることはザラだ。今年8月に日本デビューも予定されている。


 そして2014年にラップサバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』(Mnet/2012年放送開始)がブレイクしたことをきっかけに、その翌年にスピンオフ企画として『Unpretty Rapstar』の放送がスタートした。フィメールラッパーのみを集めた同番組では、上述のJolly V、KittiB、Tymeeなどそれまでこのフィールドで地道に鍛え上げてきた者から、アイドル出身や期待の新人まで様々なバックグラウンドを持つ者たちが集結し、実力を競い合った。


 シーズン3まで放送された同番組によって、それまでアイドルを除けばほぼ男性ラッパーのみにフォーカスが当てられてきた韓国ヒップホップシーンに変化が見られるようになった。Cheetah(チーター)、Heize(ヘイズ)、Jessi(ジェシ)、Kisum(キソム)、Giant Pink(ジャイアントピンク)などのフィメールラッパーたちは知名度を一気に上げ、彼女たちが男性ラッパーたちと肩を並べる機会がようやく訪れたのである。


 中でもHeizeは目を見張る活躍ぶりだ。彼女は今やテレビに広告に引っ張りだこで、10~20代の同性が最も憧れる有名人のポジションにまで上り詰めた。Heizeのトラックはラップよりも歌モノが多いのだが、曲の合間に時折披露される短いラップでもその実力をはっきりと確かめることができる。


 同番組は実力派フィメールラッパーがヒップホップシーンでも日の目を見るきっかけとなっただけでなく、元SISTARのヒョリンやAOAのジミンなどといったアイドルのラップの実力を再評価する機会にもなった。時間をかけて大きく発展してきた韓国ヒップホップシーン全体から見た時、フィメールラッパーが長い間盛り上がりに欠けてきたことは事実だ。しかしJvcki Waiのような次世代ラッパーが登場するようになった今、個性の多様化や全体的なスキルの底上げなどを期待せずにはいられない。彼女たちの本格的なシーズンはまだ始まったばかりだ。(鳥居咲子)