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あの有名事件でも…依存症治療で注目の「条件反射制御法」、衝動抑える「おまじない」

2018年08月02日 10:42  弁護士ドットコム

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薬物など依存症の治療法として近年、「条件反射制御法」という手法が注目されている。歌手のASKAさんや元プロ野球選手の清原和博さんも試したとされている。


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開発したのは、精神科医・平井愼ニさん(下総精神医療センター)。成城大で7月21日にあった「治療的司法研究センター」の設立1周年シンポジウムでの講演を取材した。


●「パブロフ」の学説がベース

ベルを鳴らしてエサを与え続けたら、ベルの音を聞くだけで唾液が出るようになったーー。条件反射制御法は、この「パブロフの犬」の原理で構築されている。


条件反射が起こる理由は、外界に「適応」するためだと考えられる。そのため、成功した行動は再現されやすく、そうでないものは再現されづらい。「失敗した行動はだんだん出なくなる。これが条件反射制御法で重要な発想です」(平井さん)


たとえば、薬物乱用者の中には生理食塩水を注射しただけでも、様々な反応をする人がいる。しかし、実際は覚醒剤の作用はないので、回数が増えると反応は薄れていく。こうした原理を利用して、成功しない行動を反復させ、特定行動が発現しないようにしていくという。



●「おまじない」の繰り返しに効果がある?

具体的には大きく2つの方法があるという。1つめは、今紹介したように報酬自体をなくし、反射の連鎖を「弱める」というもの。薬物でいけば、針のついていない「擬似注射」をする、アルコール依存症なら焼酎ビンに入れた水を入れるといった具合だ。


もう1つは、「制御刺激」を入れて、反射の連鎖を起こらなくするというものだ。平井さんは患者に対し、動作と言葉で構成した「おまじない」を教えている。


おまじないとは、(1)胸に手を当て「私は今」、(2)手を握りしめ「覚醒剤はやれない。大丈夫」などと唱えるもので、20分以上空けながら、1日20回以上させている。



依存症患者は「分かっちゃいるけど、やめられない」状態に陥っていることが多い。これは刺激に対して、動物的に反応する「第一信号系」が、思考をつかさどる「第二信号系」に対し、優位になっていることを示すそうだ。


●2006年にできた理論だが、徐々に広がりを見せている

依存症の治療では、認知のゆがみに働きかける「認知行動療法」が広く採用されている。一方、条件反射制御法は2006年にできたばかりの新しい理論で、統計的なデータはまだ少ない。


それでも、すでに新潟刑務所では「特別改善指導(薬物依存離脱指導)」のプログラムとして実施されているほか、薬物依存症回復支援団体のダルクでも、プログラムとして取り入れている施設があるという。



条件反射制御法は、薬物やアルコール依存以外にも利用されている。この日の講演では、ストーカー問題に取り組むNPO法人ヒューマニティ理事長の小早川明子さんが登壇した。


通常、ストーカー加害者にはカウンセリングで対応しているという。しかし、危険度が高まったときは、平井さんと連携して、条件反射制御法による治療も施し、効果をあげていると話していた。


(弁護士ドットコムニュース)