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『グッド・ドクター』好調支えるフジ木曜劇場への信頼感 『ゆがみ』『となかぞ』『モンクリ』の功績

2018年08月02日 10:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『グッド・ドクター』に追い風が吹いている。視聴率は第1話11.5%、第2話10.6%、第3話11.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と3週連続で2桁超え。フジテレビの新作ドラマでは、2015年6月15日に放送された『ようこそ、わが家へ』最終回(15.0%)以来の15%超えも見えてきた。


参考:患者の“たった1人の医師”となった上野樹里 『グッド・ドクター』“救えなかった命”が伝えるもの


 『グッド・ドクター』は、主演・山崎賢人の繊細な役作りや、ストレートに心を揺さぶるストーリーを称える声をよく見かけるが、実際は「全ての人々に響くタイプの作品」ではなく、「好みの差がはっきり分かれるタイプの作品」という印象がある。


 「コミュニケーションに難があるが、驚異的な記憶力を持つ」サヴァン症候群という主人公の設定、命を救う相手がかわいらしさと弱さで感情移入しやすい子供であること、韓国ドラマ原作らしいハッキリとした対立構図。いずれもドラマ業界では禁じ手に近い設定であり、これらが引っかかる視聴者は拒否反応を起こしやすい作品とも言える。


 ここまでの視聴率を獲得しているのは、『グッド・ドクター』の魅力だけでなく、『木曜劇場』そのものに活気が戻ってきたからではないか。


●視聴率のベースラインは6%台まで下降
 たとえば、ここ3年あまりの平均視聴率を振り返ってみると、2015年は『問題のあるレストラン』9.3%、『医師たちの恋愛事情』8.5%、『探偵の探偵』8.1%、『オトナ女子』8.7%。


 2016年は『ナオミとカナコ』7.5%、『早子先生、結婚するって本当ですか?』5.6%、『営業部長 吉良奈津子』7.1%、『Chef ~三ツ星の給食~』7.1%。


 2017年は『嫌われる勇気』6.5%、『人は見た目が100パーセント』6.4%、『セシルのもくろみ』4.5%、『刑事ゆがみ』6.5%。


 2018年は『隣の家族は青く見える』6.3%、『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』6.2%。


 年を追うごとに下がり、昨年から6%台がベースラインになっていたのだが、一方で『刑事ゆがみ』『隣の家族は青く見える』『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』と3作連続で視聴者の心をがっちりつかんでいた。


 実際、今年に入ってから、「ネットメディアは低視聴率報道ばかりしているけど、『木曜劇場』はいいドラマばかり」「刑事モノのシリーズばかりのテレ朝や、焼き直しのようなドラマばかりの日テレより面白い」という声は少なくない。


 「視聴率なんてどうでもいい」という視聴率アンチや、「自分の見ているドラマはこんなに面白い」という思いもあってか、上記3作の視聴者は積極的にSNSでポジティブなコメントを発信していた。


 『木曜劇場』、引いてはフジテレビのドラマそのものが見直されはじめている状況で、ストレートなテーマと分かりやすい物語が武器の『グッド・ドクター』が放送されたのは、まさにグッドタイミング。やはり『グッド・ドクター』だけでなく、『刑事ゆがみ』『隣の家族は青く見える』『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』で視聴者の信頼を勝ち取ったスタッフとキャストの成果に見えるのだ。


 ちなみに2014年の『木曜劇場』は、『医龍4~Team Medical Dragon~』12.1%、『続・最後から二番目の恋』12.9%、『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』13.9%、『ディア・シスター』11.3%。現在、平均視聴率11.3%の『グッド・ドクター』は、4年前のベースまで戻った感があるだけに、今後も信頼を損ねない制作スタンスが求められている。


●目先の結果より挑戦の姿勢を貫いた成果
 では、『木曜劇場』が信頼を得た理由は何だったのか。


 その理由は、連ドラ本来の魅力である“多彩な品ぞろえ”に尽きる。前述したラインナップを見れば、いかに『木曜劇場』が作品ジャンルやテーマも、各話のストーリーも、バラエティに富んでいるかが分かるだろう。低視聴率に沈んでいた時期も、手を変え品を変え、さまざまな世界観の作品で視聴者を楽しませようとしていた姿勢がうかがえる。


 単純に視聴率のみを狙うのなら、ちまたで言われているように、テレビ朝日の戦略が最も手っ取り早い。たとえば、『特捜9』『警視庁捜査一課長』『遺留捜査』『刑事7人』『ドクターX ~外科医・大門未知子~』などのシンプルな勧善懲悪をベースにしたシリーズ作が、視聴率2桁をキープする最も手堅い方法であるのは明白だ。


 しかし、すでに賢明な視聴者たちは、視聴率と満足度や熱狂度、愛情や興奮が別物であることに気づいている。それだけに、視聴率のベースが6%台にまで下がってなお、目先の結果を求めて無難な作風に逃げることなく挑戦を重ねる『木曜劇場』の姿勢が評価されているのではないか。


 ここ3作は視聴率こそ低かったが、『刑事ゆがみ』と『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』を手掛けた演出・西谷弘の映像は美しく洗練されていた。さらに、『刑事ゆがみ』は浅野忠信と神木隆之介のバディ、『隣の家族は青く見える』は深田恭子と松山ケンイチの夫妻、『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』はディーン・フジオカを筆頭に20人超の俳優をそろえるなどキャストも素晴らしかった。そして忘れられがちだが、挑戦の姿勢を貫き、スタッフとキャストを導いたプロデューサーの手腕も称賛されるべきものだろう。


●よほどの失策がない限り安泰か
 何かとネガティブに捉えられがちな月9も、『海月姫』『コンフィデンスマンJP』で視聴者の信頼をつかみつつあるなど、このところフジテレビのドラマ全体がイメージアップしている。


 それだけに今期はシリーズ作であり、しかも主演変更という強引な手段を用いた『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』は、ややもったいない感がある。キャストの熱演に加え、映像のクオリティも高いが、その制作姿勢は挑戦ではなく無難。「そろそろ視聴率がほしい」とでも言っているような戦略に映るのだ。


 最後に話を『木曜劇場』と『グッド・ドクター』に戻すと、直近3作への信頼を力に、2桁視聴率という追い風が吹いたことで、よほどの失策がない限り、評判も数字も上がることはあっても落ちることはないだろう。


 山崎賢人の演技は回を追うごとにフィットし、視聴者も見る前の段階から「感動しよう」という準備が整っている。幸せな関係性が生まれているだけに、クライマックスはとびきりの大団円で、多くの視聴者に涙を流させてほしい。(木村隆志)


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記