ホンダが究極のFFスポーツカーとして生み出した、シビック・タイプR。このクルマのサーキットでのポテンシャルはさまざまなメディアが太鼓判を押しているし、レースでの活躍はオートスポーツwebでもお伝えしているとおりだ。
乗ったことがある人ならご存じだろうが、シビック・タイプRは“硬い”印象がある。では、新型のFK8型の一般公道での乗り味はどうなのだろうか。編集部で各方面を検証してみた。
2017年の9月に満を持して登場したFK8型のシビック・タイプR。日本市場でシビックのタイプRが一般発売されるのは、台数限定で発売されたFN2型、FK2型を除くと2010年に発売が終了したFD2型以来、7年ぶりとなる。
シビック・タイプRは6速マニュアル・トランスミッションのみの設定で、車両価格も450万円と、国産車としては簡単に手を出すことが難しい価格帯となっている。また、走りのパフォーマンスを向上させるための空力パーツをこれでもかと盛り込んだデザインにも、賛否が分かれるところだろう。個人的には、ひと目見たら誰もが振り向くようなアグレッシブなデザインは嫌いではない。
“R”の名が示すとおり、シビック・タイプRはサーキットという環境下でこそ走りの楽しさを存分に味わうことができる。一方で、今までのモデルは一般公道での乗り心地は“キツい”と評価されることが多い。筆者は2008年型のFD2型を運転した経験があるが、一般の道路を長時間運転した後の疲労感はかなり応えるものがあった。また、路面からの衝撃もひとりで運転するときはあまり気にならないが、助手席や後部座席に乗る人には大きな負担となってしまう。
新型のFK8型も一般公道での乗り心地は“キツい”のか。実際にドライブして体感してみた。
■強力なエンジンパワーが滑らかな加速をもたらす
シビック・タイプRと対面し、いざコクピットへ。シートに座り込むと視点は低く、ドライビングポジションはスポーツカー然としていることに気づかされる。標準装備の赤いスポーティーなシートもほどよく体を支えてくれて、長距離ドライブでも疲れにくい印象を持った。
エンジンを始動すると、表示される赤いスピードメーターがやる気を掻き立てる。しかし、今回は一般公道でのインプレッションのため、スピードを出したいという気持ちを抑えつつ、ギヤをニュートラルから1速に入れ、走る出すと__。本当に驚いた。オートマチック車のように滑らかに加速することができたのだ。
FK8型のシビック・タイプRには、最高出力320馬力、最大トルク400N・mを発揮するタイプR専用設計の2リッターVTECターボエンジンが搭載されている。前輪駆動であることを踏まえると、驚異的なパワーを発揮するエンジンだけに、慎重にアクセルを踏まなければならないのかと考えたが、まったくの杞憂だった。 むしろ、このパワーが発進や加速をスムーズにしてくれる。
ギヤチェンジする際のシフトの感触も良好。マニュアル車にあまり慣れていない筆者でも、シフトダウンする際は、標準で備わっているレブマッチシステムがエンジン回転数を自動でシンクロさせてくれるおかげで、自ら完璧なヒール&トゥを決めたような錯覚に陥ることもできる。
■普段使いも充分可能なFFスポーツカー
もっとも懸念していた乗り心地も驚くほど快適で、うねりや段差が多い路面を走行してもガタンっとくる大きな衝撃は感じなかった。また、コーナーを曲がる際もロールが少なく、非常に安定してる。このとき筆者に加えて2名が同乗していたが、そのふたりも、予想していたよりも振動や衝撃も感じず、後部座席でも乗り心地は悪くなかったという。
FK8型のシビック・タイプRには、『COMFORT』、『SPORT』、『+R』と3種類のドライブモードが選択でき、デフォルトでは『SPORT』が設定されている。このドライブモードを『COMFORT』にして走行してみると、路面からの衝撃はさらに軽減され、ステアリングも軽くなり、より快適に運転することができた。
特に大きな変化をもたらすのが『+R』で、このモードに設定すると、今までの乗り味から大きく変化する。路面からのインフォメーションは増し、ステアリングも重くなってタイヤの挙動がより把握できるようになるのだ。アクセルレスポンスもシャープで、アクセルを少し踏んだだけですぐに法定速度に達してしまう。一般公道でこのモードを使うときはいろいろな面で注意が必要になるだろう。
マニュアル車でたまにやってしまう“エンスト(エンジンストール)”時の再始動手順も少し不安があったが、これも杞憂だった。エンストしてしまった際は、クラッチを奥まで踏み込めば自動でエンジンを再始動してくれる。この機能は初心者やマニュアル車をひさしぶりに運転するドライバーには嬉しい機能だろう。
一般公道を中心にFK8型のシビック・タイプRを試乗したが、このクルマは、サーキットだけでなく、一般公道でも走りの楽しさを存分に味わうことができることは間違いないと感じた。また、乗り心地も快適で普段使いも充分対応することができる。“タイプR”で乗り心地に不安がある人や、家庭を持つクルマ好きも買って後悔することはないはずだ。
しかし、450万円はすぐに手が出せる価格ではないのも事実だ。過去を知る人にとってはシビックで450万と聞くと驚くユーザーも多いはず。ただし、空力パーツや最新の電子制御、インテリア、タイヤ、ホイール、ブレーキなどの装備面を考えれば、価格にも納得できるだろう。
しかも、3種類のドライブモードのおかげで普段使いとサーキット走行もこなしてくれるため、シビック・タイプRだけで1台2役を実現してくれる。そう考えると普段使い用、サーキット走行用と2台のクルマを所持するよりかは購入費、維持費を考えるとシビック・タイプRを1台だけ所有するほうが断然安いだろう。また、家庭をお持ちでシビック・タイプRの購入を考えている方は、まず乗り心地の面を前面に押し出して、購入の交渉をしてみてはいかがだろうか。
■主要諸元
項目内容タイプTYPE R車名・型式ホンダオプザユーケー・DBA-FK8駆動方式FFトランスミッション6速マニュアル全長/全幅/全高4.560m/1,875m/1,435mホイールベース2.700mトレッド前/後1,600m/1,595m最低地上高0.125m車両重量1,390kg乗車定員4名客室内寸法長さ/幅/高さ1,905m/1,465m/1.160mエンジン型式K20Cエンジン種類・シリンダー数及び配置水冷直列4気筒横置弁機構DOHCチェーン駆動 吸気2 排気2総排気量1.995L内径×行程86.0mm×85.9mm圧縮比9.8燃料供給装置形式電子制御燃料噴射式(ホンダPGM-FI)使用燃料種類無鉛プレミアムガソリン燃料タンク容量46L最高出力235kW[320PS]/6,500rpm最大トルク400N・m[40.8kgf・m]/2.500rpm-4,500rpmJC08モード走行燃料消費率(国土交通省審査値)12.8km/L主要燃費向上対策直噴エンジンアイドリングストップ装置可変バルブタイミング電動パワーステアリング最小回転半径5.9 m変速比1速/3.6252速/2.1153速/1.5294速/1.1255速/0.9116速/0.734後退/3.757減速比4.111ステアリング装置形式ラック・ピニオン式(電動パワーステアリング仕様)タイヤ前・後245/30ZR20 90Y主ブレーキの種類・形式 前/後油圧式ベンテレーテッドディスク油圧式ディスクサスペンション方式 前/後マクファーソン式/マルテリンク式スタビライザー形式 前・後トージョン・パー式