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間宮祥太朗の決断がもたらした苦すぎる結末 『半分、青い。』鈴愛が“死”を要求した背景を探る

2018年08月02日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「死んでくれ、涼ちゃん。」


 8月に入って一発目の『半分、青い。』(NHK総合)の衝撃的展開は、全国の視聴者に動揺をもたらした。涼次(間宮祥太朗)が抱える夢への憧憬と、鈴愛(永野芽郁)が訴える家族の理想の衝突がかくも残酷な運命をもたらすとは予想だにしなかったであろう。いわゆるダメンズとして描かれた涼次であったが、鈴愛の叱咤激励を受けて、二人三脚の夫婦生活を進めてきたように思われた。それが、一体なぜここにきて2人に亀裂をもたらしたのだろうか。ここで、涼次が本格的に映画の道を志し、それを諦め(たかのように見え)、そして今回また映画の世界に心を奪われるまでの流れを、鈴愛という存在を交えながらレビューしていこう。


参考:間宮祥太朗と斎藤工、師弟関係の結末 『半分、青い。』鈴愛と涼次が遂に親に


 これまで涼次が映画の道で右往左往するときには、常に鈴愛の存在、あるいは言葉が多分に影響をもたらしていた。1度目は、そもそもシナリオを執筆しようとしないところを、鈴愛の「支えたい!」という思いに感激して映画監督の道を歩む決意を固くする。2度目は、『名前のない鳥』を書き上げたものの、元住吉(斎藤工)の手に渡ってしまい、怠惰な生活を続けるところを、鈴愛の妊娠がきっかけで、今度は逆に映画から“足を洗い”、家族を支えていくことを決意する。


 これら2回の涼次の転機に共通していることは、先述の通り、いずれも鈴愛が大きく関わっているということだ。読書感想文すらまともに最後まで書き上げられなかった涼次は、鈴愛と出会うまでの人生では幾度となく三日坊主ぶりを見せてきたという。では、一体鈴愛の存在の何が、彼を奮い立たせる原動力になりえたのか。その答えを、涼次の生い立ちと性格を交えながら紐解いてみる。


 涼次は幼い頃に両親を亡くしてしまった。そんなこともあって、彼は3人の叔母のもとで“愛し殺される”日々を送ってきた。少なくとも“広い意味での”愛には不足のない人生であったのかもしれない。しかし、第97話で鈴愛が光江(キムラ緑子)らに「これからは、“人のために”生きようと思って」と打ち明けるのを聞いた涼次。もちろんここでいう「人」には涼次が含まれているのであって、彼は我に返る。叔母たちからの“溺愛”ではなく、鈴愛からの“献愛”という全く質的に異なった愛を享受しているのだということの大きさに気づいたのだろう。それはただ一方的に受け取っていればいいものではなく、対価として自分もまた鈴愛に何かの形で、幸せを差し出さなくてはならないものなのだと悟ったのかもしれない。だからこそ、しっかりと結果を残さなくてはならない、目に見える形で変化を起こさなくてはならない。そんな思いが、ダメンズから一歩遠ざかるきっかけとなったように思われる。


 元住吉のアドバイスも受け紆余曲折を経て、ようやっと『名前のない鳥』を書き上げた涼次。しかし、監督の座は元住吉に渡ってしまう。すっかりやる気を失ってしまい、再びダメンズに回帰しはじめる。さて、ここで、家族のために生きる決意をする出来事として鈴愛の妊娠があるわけだが、それは涼次にとって“自分よりも大切な存在”をしっかりと認識した出来事であったに違いない。「その子のことが、“一番”大事だよ。その子の未来と鈴愛ちゃんの今が」という台詞に表れているように、ダメンズ性の払拭だけでなく、自分が父親という存在になることで、ある種の責任感を自覚し始めた。自分だけの幸せを追い求めるのではなくて、鈴愛と子供を何より幸せにしなくてはならない。


 これには、先ほどの第97話の鈴愛の台詞からみえる彼女の姿勢とどこか重なるところがある。鈴愛もまた、何よりまず自分のために有名漫画家になるべくまい進してきたが、挫折したという経験を持っていた。鈴愛も涼次も、そこに至るまでの経緯は違えども、どちらも“自分ではない他者”のために生きることの大切さを学んだ。


 第104話での鈴愛と母親の晴(松雪泰子)の会話で、晴は「子供を持つっていうのは、そういうことやな」とつぶやくと、鈴愛が「ん?」と聞き返す。晴は続けて、「自分より、大事なものができてまう」と答えるシーンがある。要するにそういうことなのだ。鈴愛は涼次が夢を持つこと自体を全否定しているわけではない(事実、第105話で鈴愛は「結婚したまま撮るわけにはいかないの?」と聞く)。ただ、鈴愛も涼次も今や、“自分よりも大切な存在”ができたはずなのに、どうしてそれを相談もなくあっさり手放そうとするのか(相談しなかった理由は、涼次曰く「夢を引き返してはいけないと思った」からだとか)。それが鈴愛には皆目理解できなかったのであろう。「一番大事」だというあの誓いは何だったのか?


 とはいえ、そんな涼次に対する鈴愛のリアクションはあまりにも辛辣だ。「死んでくれ」だけではない。続けて「裏切り者! 許せない! いつまで夢見てる! 目覚ませ! 私たちは、年取ったんだよ! もう若くないんだよ! 親なんだよ!」とまくしたてる。鈴愛自身は秋風塾を去るときには、相応の覚悟を決めて新たな人生を歩むことを決意した。夢を断ち切るときの葛藤は鈴愛だって分かっているのだ。それだけ一層、いつまでもあっちへ行ったり、こっちへ行ったりする涼次が受け入れられないのであろう。


 離れ離れになっていくのであろう今後の2人は一体どうなっていくのだろうか? ここまで見解の相違が表出した以上、そう簡単に2人が手を再びつなぐことはないだろう(というより、もうないと言い切ってもいいかもしれない)。今やどんよりと沈み込んだ鈴愛の人生にどんな形で光が差し込むのか、持ち前の力強さで前に進んでいくことを祈りつつ、物語を見続けていきたい。(國重駿平)