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大ヒットスタート『コード・ブルー』が示した、テレビドラマを映画化する際のロールモデル

2018年08月01日 19:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年に入ってから、『映画ドラえもん のび太の宝島』や『名探偵コナン ゼロの執行人』といったシリーズもののアニメーション作品は順調に好成績をあげていたものの、それ以外では苦戦が続いていた東宝配給作品から、久々に実写作品の大ヒットが飛び出した。7月27日から全国439スクリーンで公開された『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』が、公開から3日間で動員116万人、興収15億4800万円というロケットスタート。動員ランキングの対象となる土日2日間では、動員81万1000人、興収10億9600万円を記録。この数字は、2週前の土日2日間で動員83万3190人、興収12億1654万円を記録した『ジュラシック・ワールド/炎の王国』に肉薄する成績。『インクレディブル・ファミリー』や『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』といった8月公開の有力作の公開を前にして、早くもこの夏の『ジュラシック・ワールド/炎の王国』一強体制が崩れたかたちだ。


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 昨年、興収20億円を超えたテレビドラマ映画化作品が『昼顔』(興収23.3億円)の1作品だけであったことが象徴しているように、一時期までと比べるとヒット作の本数だけでなく、そもそも製作される本数自体が激減傾向にある民放テレビ局による自社ドラマの映画化企画。今回の『コード・ブルー』の公開初週土日2日間での10億円超えというのは、同じくフジテレビが製作に名を連ねている作品で、2004年から2012年にかけて4作品が公開された『海猿』シリーズでも届かなかった数字。最後に公開初週土日2日間で興収10億円を超えたのは、TBSが製作に名を連ねた2009年5月公開の『ROOKIES -卒業-』だから、実に9年ぶりのこととなる。ちなみにこれは「テレビドラマ映画作品」が対象ではなく、「すべての実写日本映画」を対象にしても同様だ。『コード・ブルー』公開直後のフジテレビの定例社長会見での「興収100億円を狙っていきたい」という発言は希望的観測にすぎるとしても、口コミなどの評判次第では80億円近くまで伸びる可能性は十分にあるだろう(初週土日2日間に12億2527万円の興収を記録した『ROOKIES -卒業-』の累計興収は85.5億円だった)。


 もっとも、今回の『コード・ブルー』の大ヒットをもって、単純に「テレビドラマ映画の復活」とするのは無理がある。そもそもテレビドラマ映画の製作本数自体が減っているので、この先もヒットが続くような現象は起こり得ない。1998年に公開された『踊る大捜査線 THE MOVIE』の成功以降、ここ20年間の実写日本映画のトレンドはテレビドラマ映画化作品→コミック原作映画化作品と移行してきた。近年、そのコミック原作映画が粗製乱造されてきたことの当然の帰結として、そのヒット率が著しく下がっていて、次の鉱脈を見つけられずにいるのが日本映画界の現状だが、今回の『コード・ブルー』は企画とキャストとタイミングが的確であれば、一時代前のトレンドであるテレビドラマ映画化作品にもまだ潜在力があること、そして観客層の広さからコミック原作映画よりも当たればデカいことを証明した。


 『コード・ブルー』の最初のテレビシリーズの放送が開始されたのは2008年7月。今回の映画化まで、10年間の年月と、3つのシーズンと、2つのスペシャルドラマを積み重ねて、フジテレビが自社製作の人気コンテンツとして大切に育ててきた経緯がある。その間にはプライムタイムのテレビドラマ界全体の恒常的な視聴率低下(『コード・ブルー』も例外ではなく、昨年放送されたシーズン3の平均視聴率は過去最低だった)、新垣結衣の大ブレイクなど、作品を取り巻く環境も変わってきた。それでも、人気キャストをつなぎとめて、シリーズの吸引力をキープし続けたことが、今回の大きな成果につながったわけだ。


 今後またテレビドラマ映画化作品がブーム的な復活をすることはないと思うが、ドラマの放送前から映画化を既定路線として企画を立てたり、目先の視聴率に惑わされることなく(とはいえ、視聴率があまりにも低い作品の映画化が無理筋であることは数々の作品で証明されているが)、数年単位でじっくりと腰を据えて映画化までの道筋を丁寧に整地していけば、テレビドラマの映画化も今なお有効な方法論であることを『コード・ブルー』は示してみせた。(宇野維正)