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熱中症が懸念される甲子園「汗に感動、悪しき習慣」「ドーム開催を」「聖地変更ありえない」弁護士たちの声

2018年08月01日 10:22  弁護士ドットコム

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連日、猛暑が続き、学校の部活動での熱中症対策を懸念する声が高まっています。その中でも、特に夏のビッグイベントとして注目されるのが、全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)です。


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地方大会で熱中症になる選手が出ており、NHKによると、7月21日に行われた高知大会の2回戦で、3年生の選手が試合途中に足のけいれんを訴えて、病院に運ばれました。


ツイッターでは、「甲子園球場での開催を止めて、全国5大ドーム球場での持ち回り開催にすべき」「甲子園は秋にすれば良いのに」などの意見も出ています。


毎日新聞によると、大阪府の松井一郎知事も7月19日の記者会見で、「我々の高校生時代の夏の暑さと今は違う。状況の変化に応じて見直されていくべきだ」と話しており、大阪府教委は、時期をずらすのが難しくても、試合時間を変えるなどの対策を講じるよう日本高野連に要請しています。


甲子園球場でベンチの冷房を強化したり、水分補給の徹底を呼びかけたりするなど、既に対策も講じられていますが、猛暑の中、「夏の甲子園」はどうあるべきなのでしょうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に聞いた。


●「時間帯」「時期」「場所」変更で割れる

以下の4つの選択肢から回答を求めたところ22人の弁護士から回答が寄せられ、回答が割れる結果となりました。


(1) 時間帯を変更すべき→4票


(2) 時期を変更すべき→6票


(3) 場所を変更すべき→7票


(4)その他→5票


「時期を変更すべき」とした弁護士からは、「汗を流しながらプレーすることに感動を覚えるという悪しき習慣が議論を遅らせています」「開催時期を春か秋にずらした方が多く選手もベストを尽くせる」といった意見のほか、「スタンドの応援者はぜったいに具合が悪くなっているはず」と観客に配慮したコメントもありました。


「場所を変更すべき」とした弁護士からは、「ドームで行うのが安全」「(開催場所が)甲子園でなくなったことに対して、世間は数年間で慣れるのでは」といった意見がありました。「炎天下の甲子園球場で、野球をさせるのはある意味殺人的行為」といった厳しい声もありました。


「その他」を選択した弁護士からは、「全国大会は年1回涼しい時期にやればよい」と抜本的な見直しの必要性を説く意見がありました。一方で、野球経験者の弁護士からは、「甲子園球場はまさに『聖地』」「球児にとってもっとも価値のある大会」との声もあり、現在のあり方を可能な限り変更しないほうが良いという見方も示されました。



●時期を変更すべき

【秋山 直人弁護士】


日本の夏は、野外でスポーツを全力でやるには暑くなり過ぎました。開催時期を春か秋にずらした方が多く選手もベストを尽くせるし、応援する生徒にとっても炎天下での熱中症のリスクを避けられるよう思います。


このまま夏の炎天下で開催していたら、熱中症による痛ましい事故が起きるのではないでしょうか。「夏にやらないといけない」ということはないと思います。


【菅藤 浩三弁護士】


テレビに映っていないだけで、試合中、スタンドの応援者はぜったいに具合が悪くなっているはず。この暑さだともはや、試合中に突然テレビ画面の中で倒れるどころか、亡くなってしまう生徒が出てもおかしくはない。手遅れになる前に大人が英断をくださなければなりません。


時間帯で昼間を避けるのは大会期間を長くすることにつながり、賛成できません。


【大室 直也弁護士】


夏の甲子園という伝統と高校球児の健康をどのように調和させるかが問題となります。


確かに、炎天下の中、必死に白球を追う球児たちの姿は胸を打つものがありますし、多くの球児達も伝統の場で試合をすることを望んでいることでしょう。


しかし、いかに伝統が大切であっても、球児の健康を害してまで行うべきではありません。


平成30年7月23日、気象庁は。今年の猛暑を「災害と認識」しました。


そうすると、今年のような猛暑の中、炎天下で試合を行わせるのは、災害の中で試合を行わせることになり、非常に危険です。


多くの方がご存知のように、熱中症は死に至る危険があるものです。


高校野球を運営する者は、球児の健康を守る義務があるはずですから、死亡する危険のある環境下で試合を行わせてはなりません。


高校球児の健康を守るためにも、熱中症のリスクの少ない時期に行うべきです。


【鬼沢 健士弁護士】


高校野球といえば「甲子園」となっていますから、場所を変更されることは高校生にとっても本望ではないでしょう。


しかしながら、今年に限らず、夏の暑さは異常です。プレーしている人だけでなく応援席の人の健康を害するおそれが大きいと思います。また、プレー自体の質も下がりかねず、スポーツの大会としての意義も損ないかねません。


そうすると場所は据置で、時期を見直すのが妥当だと思います。


こうした議論が出るのが遅すぎるくらいで、とっくに変更されているはずのことです。汗を流しながらプレーすることに感動を覚えるという悪しき習慣が議論を遅らせています。


時間帯の変更については、諸々の理由から不可能だと思います。


●場所を変更すべき

【水野 遼弁護士】


スポーツは高校生の命を張ってまでしなければならないものではなく、あくまで安全を確保した上で開催されなければならないものです。


災害的に暑い今年の猛暑の中で、炎天下の甲子園球場において野球をさせるのはある意味殺人的行為というほか無く、空調管理の行き届いたドーム球場などで実施するべきでしょう。


仮に熱中症で搬送されたり、不幸にも亡くなる方が出た場合、主催者の責任問題にもなりかねません。


【林 朋寛弁護士】


選手等の熱中症による死亡事故等を避けるため、まずは時間帯の変更で対処するべきでしょう。時期や場所の変更は、今年度や来年度での実施はおそらく困難だからです。


ただ、時間帯を変更するだけでは、日中の気温のピークを避けるだけになるでしょうから、選手等の安全に配慮した運営とはいえないように思います。


時期の変更となると、遅くすると高校3年生の進学や就職に支障がありそうですし、早めるのもチーム作りや予選の開始時期から難しいのではないかと思います。


そうであれば、将来的には、場所の移動をすべきです。「甲子園」とは呼ばれるものの「全国高校野球選手権大会」ですから、甲子園で開催する必然性はありません。


連日の試合日程の中でチームを移動させるのも難しいでしょうから、ドーム球場の持ち回りか、札幌ドームで開催することに変更すればいいです。


毎年開催場所が変わるのは運営上好ましくないのであれば、札幌ドームで行うのが安全でしょう。別に私が道民だから札幌ドームと言っているわけではないです(笑)。


場所が「甲子園」でなくなったことに対して、世間は数年間で慣れるでしょうし、「全国高校野球選手権大会」に参加することになる若い世代には「甲子園」でないことは関係ないでしょう。


 「甲子園」でないとならないというのは、おじさん世代の単なるノスタルジーでしょう。


 選手等の安全のために、できるだけ近いうちに札幌ドームでの開催に変更すべきです。


●その他

【大和 幸四郎弁護士】


元高校球児からひとこと。夏の試合はきつかったです。たしかに今もすごいですが、当時は福岡県大会は今はなき平和台球場を使用しておりました。この球場は人工芝球場であり、グランドは40度を超えていたと思います。当時は水を飲んではいけないと言われていました。


私としては、3回と6回の終了後に休憩時間を設け、その間に水分や塩分等を補給し、休息をとってから試合に臨むことを提案します。なお、各チームに野球等経験者である医師がいて、常に選手の状態をチェックできることも追加いたします。


夏の甲子園大会は、球児にとってもっとも価値のある大会ですので、できるだけ、従来のスタイルを変えない方が良いと思います。


【佐藤 克洋弁護士】


全国大会は年1回涼しい時期にやればよい。「汗と涙」の「美談」を毎年十年一日のごとく繰り返しているが、うんざりしている野球ファンもおおいはずだ。甲子園に行くまでの過程で、無能な監督の酷使に耐えたばかりに登板過多で肩を壊し、選手生命を絶たれた高校生は、これまでに無数にいるはずだ。一昔前だがガラリと主催者を変えた将棋の名人戦のように、全国大会は年一回朝日毎日の共催でやればよい。それで十分だ。


【竹之下 義弘弁護士】


「夏の甲子園」は高校生の大会であり夏季休暇中に行われるべきであるので、時期の変更は難しい。場所を変更しても暑さを避けるのは難しい。従って、午前中やナイターを活用すれば、特に暑い時間帯を避けることは可能であるが、一日に行うことのできる試合数を減らさざるを得ないので、全体の日程が延びることを避けることはできない。


こう考えると、現在のスケジュールを維持することを前提に熱中症対策を考えると、選手については、ダッグアウトでの飲み水や扇風機の使用で十分暑さに耐えられると考えられる。地方大会ではダッグアウトの設備が不十分と思われるのでその対策を注意喚起すべきである。


最大の問題は、観客の熱中症対策といえる。各高校の応援団については、自分の高校の応援だけなので、各高校に対し熱中症対策を徹底してもらえればよいと考えられる。一般の観客は、一日中観戦する可能性もあるので、これらの観客に対する熱中症対策を十分検討し、注意喚起を怠らないようにする必要がある。


【濵門 俊也弁護士】


まず、「場所を変更」することはあり得ないでしょう。高校球児にとって甲子園球場はまさに「聖地」ですし(高校球児だったこともある当職もその認識に変わりはありません。)、「死のロード」(現在はそうでもなさそうですが)を強いられる阪神タイガースに対し申し訳ないからです。


次に、「時期を変更」することも難しいでしょう。ほぼ同時期に開催される高校総体(インターハイ)の時期を変更するという話は出ませんし、高校3年の秋までずらされますと、大学受験を希望する学生は準備が間に合いません(この場合、予選は結局一番暑い時期に行わざる得ず、日程をずらした意味がなくなります)。


そうしますと、「時間帯を変更」するのがもっとも実際的な気がしますが、日程の消化等問題が残りそうです。


結局のところ、現場でしっかり熱中症対策するほかないかもしれません。悩ましいです。


【居林 次雄弁護士】


地球温暖化で、気候条件が悪化しました。このままでは、夏の甲子園は、無理でしょう。


夏の北海道で開催するとか、12月から年末年始に、沖縄で開催するとか、抜本的改革が必要でしょう。


日本の野球界の健全な発展のためにも、高校野球は必要不可欠なものと考えられます。


日本の野球界の健全な発展のためにも、高校野球の存続は必要なものだと思われます。