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知られざる韓国モータースポーツ事情。トップカテゴリーの『CJスーパーレース』をレポート

2018年07月31日 19:21  AUTOSPORT web

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韓国で開催されているCJロジスティクス・スーパーレース・チャンピオンシップ。最上位クラスとなるキャデラック6000のスタートシーン
7月21~22日、韓国のCJロジスティクス・スーパーレース・チャンピオンシップに参戦する柳田真孝を応援するツアーが行われた。このツアーに帯同させてもらい、初めて現地でスーパーレース・チャンピオンシップを取材することができたが、日本ではあまり知られていないスーパーレースの今をお届けしよう。

■4クラス開催のスーパーレース
 韓国CJロジスティクス・スーパーレース・チャンピオンシップは、2006年から開催されている韓国のトップカテゴリー。過去にはオートポリスや鈴鹿、富士と日本で開催されたこともある。2018年は中国での開催の計画もあったようだが、ソウルから1時間ほどの距離にあるエバーランド・スピードウェイ、過去にスーパー耐久も開催されたインジェ・スピーディウム、そしてF1を開催していたコリア・インターナショナル・サーキットの3カ所を転戦するかたちで、年間に8戦が開催されている。

 シリーズは4つのカテゴリーで構成されており、最上位にあたるのが、キャデラックATS-Vのボディを使った『キャデラック6000』クラス。そしてヒュンダイ・ジェネシス・クーペを使った『ASA GT』クラス、BMW M4を使った『BMW M』クラス、そしてヒュンダイ・アバンテを使った『ヒュンダイ・アバンテカップ・マスターズレース』というシリーズが週末を通して開催されている。

 今回訪れたのは、エバーランド・スピードウェイ。エバーランドというテーマパークの中にあるが、もともと1995年にオープンしたコースだったが、2013年に大幅に改修。2018年からはメルセデスAMGによって、『AMGスピードウェイ』という名称に。春にはグッドスマイル 初音ミク AMGと谷口信輝が走行している。

 山間に設けられたコースだけに、雰囲気としては岡山国際サーキットに似た印象を受けるが、鈴鹿のように立体交差が設けられていたり、ランオフも広めで近代的な印象。ピットビルも清潔感があるものだが、ただピットの数がかなり少ない。

 CJスーパーレースの開催期間中は、パドックにはファンエリアも設けられ、BMW Mクラスを開催しているBMWのブースが出ているほか、さまざまなブースや飲食の出店が出ており、比較的賑わっている印象を受けた。ファンも比較的多いように見受けられた。ネットでの発信も積極的で、大いに見習う部分は多い。

■日本人が多く携わるキャデラック6000クラス
 トップカテゴリーであるキャデラック6000クラスは、長年このシリーズのトップとして開催されている。キャデラックATS-Vのボディを使ってはいるものの、中身は完全にパイプフレームを使ったストックカー。最近はあまり見かけないタイプのレーシングカーだ。これにGM製の6.2リッターV8エンジンを積み、6速シーケンシャルミッションが組み合わされたFRマシンとなっている。過去には2010年に番場琢がチャンピオンを獲得した。

 日本のスーパーGTに似ているのは、順位によるウエイトハンデキャップが設定されているほか、タイヤのコンペティションがある点だ。このクラスには今季ハンコックとクムホという韓国を代表する2メーカーが参加しており、その競争は熾烈。2018年はハンコックが優勢となっているようだ。

 そんなシリーズのなかで、トップチームと言えるのはハンコックのワークス格であるアトラスBXレーシングチーム、そしてクムホワークスであるエクスタ・レーシングチームと言われている。また、今回のエバーランドではハンコックを履くセオハン・パープル・モータースポーツも速さをみせていた。

 このクラスには多くの日本人が携わっており、ドライバーとしてはアトラスBXには柳田真孝が、エクスタには井出有治が参戦している。柳田のエンジニアを務めるのは、スーパーGTでARTA BMW M6 GT3を手がける安藤博之エンジニアが、井出のエンジニアはシンティアム・アップル・ロータスを手がける渡邊信太郎エンジニアが携わっている。また、CJロジスティクス・レーシングチームには、GULF NAC PORSCHE 911の中居邦宏エンジニアが携わっている。

■上位と下位には差が
 そんなキャデラック6000クラスだが、実際現場で観ていても決してレベルが低いわけではない。予選はノックアウト方式でQ1~Q3まであるが、ひとつのタイヤしか使用できない。つまり、なるべくワンアタックでタイヤを使わずにタイムが求められる難しさがある。

 また、エンジニアリング面でもエクスタ・レーシングチームの渡邉エンジニアは「スーパーGTでロータスを触ってから、このマシンを触るとびっくりする」というある意味で前時代的な車両ながら、「エンジニアとしては電子制御もあって、カーボンパーツのマシンをいじれなければいけないけれど、こういう基本的なマシンも理解しなくてはいけない」という。

 そして、渡邉エンジニアも安藤エンジニアも「決して簡単なシリーズではない」と口を揃える。特にアトラスBXは3台体制で、3回のチャンピオンを獲得しているスティーブン・チョウをはじめ、韓国人の若手で現在ランキング首位のキム・ジョンキュンも、柳田も目を見張るスピードをもつ。また、チームも日本のニスモで経験を積んだ韓国人スタッフがチーム代表など要職を務めており、勝者のメンタルをしっかりと植え付けている。

 こういった強豪チームと、下位との差は今回のレースを観れば一目瞭然だった。エバーランドでのレースは、チョウと柳田のマッチレースとなり、ジョンキュンと井出の3番手争いが白熱。最後は井出が3位表彰台を獲得し、チョウ、柳田、井出というトップ3となったが、上位争いと後方集団の差はどんどんと開く一方だったのが印象的だった。

■2メーカーが強いからこそのガラパゴス化?
 日本には及ばないものの、一定の盛り上がりをみせているCJロジスティクス・スーパーレース・チャンピオンシップ。筆者はどんなスポーツであろうと、国内のリーグや競技人口が盛り上がりをみせない限り世界的な選手は生まれないと思っているが、その点では今後シリーズがさらに盛り上がれば、韓国人ドライバーが海外で活躍する可能性もあるだろう。

 ただ、このシリーズで行われているレースはいずれも韓国オリジナルのものばかり。現在の世界的な潮流とはやはり離れており、その点では海外に出ることを難しくしているとも言える。近年はヒュンダイがWRC世界ラリー選手権に参戦したり、ヒュンダイ、キアがTCRにカスタマーレーシングカーをリリースしており、TCRコリアもスタートするが、こういったカスタマーレーシングカーでスーパーレースを代替することは不可能なのだろうか。

 その難しさは、市街を見渡すと良く分かる。韓国の自動車のシェアはヒュンダイ、キアが大半で、韓国GMがそれに続く。ヨーロッパ車ではメルセデスベンツ、BMWはよく見かけたが、日本車やメルセデス、BMW以外の欧州メーカーは数えるほどだった。キャデラックはシリーズスポンサーでもあり、シリーズの運営を考えても、これらのメーカーの“形”を使った車両を使わざるを得ないのは仕方ないことなのだろう。

 日本のモータースポーツ界も一時ガラパゴス化したと言われていたが、韓国の場合も日本に近い理由でのガラパゴス化が強いられていると言える。このあたりは、日欧のメーカーのクルマが多い東南アジア各国とは異なる“自動車メーカーがある国”ならではの事情だろう。

■日本からの訪問は大歓迎
 ちなみに、今回の韓国での取材だったが、アトラスBXレーシングチームをはじめ、非常に温かく日本からのツアーを迎え入れてくれたのが印象的だった。チームスタッフも「日本語を覚えたい」というメンバーが多く、1ヶ月ほど大阪を訪れていたレースクイーンも、「また日本に行きたい」というほどだった。手前味噌ながら、メディアオフィサーもオートスポーツwebのことを知っており、「取材に来た」というと驚きながらも歓迎してくれた。

 また、先述のとおり韓国はヒュンダイ、キアがほとんどだが、今回スティーブン・チョウの所有するキア・スティンガーに乗ることができた。2017年にリリースされたばかりのスポーツセダンだが、これが驚くほどのクオリティ。聞けば500万円ほどで買えるそうだが、このクオリティの高さは日本車もうかうかしていられない。タクシーもほとんどヒュンダイだが、これも乗り心地が良かった。

 ソウルの街中には日本の商品も多く、観光客向けにカタカナも多い。韓国に訪れるのは2013年にインジェを訪れて以来3回目だが、以前は「?」と感じる部分が多かった韓国ながら、モータースポーツの発展とともに、時代の変化も感じさせられた取材だったことを付け加えておこう。