FIA F2選手権はF1よりも一足早くシーズンの折り返し地点を迎えた。このハンガリーはシーズン後半戦を占う上で非常に重要なラウンドになる。
というのは、全マシンのエンジンがベンチに掛けられて公平にシャッフルされた上に、問題が多かったクラッチも対策品がデリバリーされ、各チームに1日のプライベートテストが許可された上で迎えた、いわば再出発のラウンドだったからだ。
そのハンガリーで光明を掴んだのはアーデンの福住仁嶺だった。
フリー走行からマシンの感触が良く、その感触にラップタイムも呼応してきた。これまではエンジンパワーで劣る感があり、自分が良い走りをできたと感じられてもラップタイムが伴わないという苦しい状況が続いていたが、フリー走行から7位につけて福住の表情にも笑顔が戻ってきた。
予選ではターン1のブレーキングでリヤがロックするなどミスもあって11位に終わったが、マシンの相対的な競争力は確実に上がっていた。
「フリー走行でP7って言われた瞬間、『はぁ、やっとか!』って思いました(苦笑)。他に比べれば決して良いとは言えないんでしょうけど、それでも(今までに較べれば)マシってことですよ」
「これまでのようなワケの分からないタイム差っていうのはなくなったし、まだトップとは0.6秒差がありますけど、自分なりにこの走りならこのくらいのタイムだろうっていう感覚は合致していました」
豪雨に見舞われたF1の予選後に行なわれた土曜のレース1はウエットコンディションでの難しいレースになったが、福住はそれとは全く違う問題に直面しフラストレーションを募らせていた。
「ステアリングが右に曲がっていて、コースインしてすぐに気付いたんですけどもうどうすることもできなくて。ウエットコンディションではなんとか騙し騙し走ることができましたけど、ドライになってからは周りについていくのは厳しかったです」
レース1を10位でフィニッシュして10番グリッドから臨んだレース2でもまだその問題が修正されておらずグリッド上で応急処置を施したが、マシンはまっすぐにブレーキングできずステアリングを切る量も左右で異なる手負いの状態。
チームへの不信感を滲ませながらも、酷暑のコンディションのなかでレース前半は上手くタイヤを労り、後半に何台ものマシンがリヤのデグラデーションに苦しむ中で次々にポジションを上げ、最終ラップの最終コーナーからの立ち上がりでレース1勝者のニック・デ・フリースに並びかけて0.001秒差で6位を勝ち獲った。
福住は「周りのペースが落ちただけ」と言うが、それでも今季ここまでの低迷が嘘のような力走に、光明が見えてきたのは事実だ。
「そうですね、今までに比べれば前の方で戦えましたし、予選で前に行けたというのは大きい要素でした。(エンジンシャッフルの効果で)自分自身の加速もそうだし、他車にとんでもない速度差で抜かれることもなかったし」
「昨日・今日は本当に久しぶりにレースをしている感覚があったし、チームとの間にはまたフラストレーションも溜まりましたけど、全体として見ればポジティブな週末になったと思います」
■牧野に思わぬ落とし穴が
一方でロシアンタイムの牧野任祐は思わぬ落とし穴に嵌ってしまった。
フリー走行を走り始めてわずか5周目でターン3でコースを外れタイヤバリヤにクラッシュ。今週末のロシアンタイムはハンガロリンクに対してセットアップを外してしまっていた。
「コースに出て行った1周目からマシンが結構オーバーステアだなぁというのは感じていて、車高も低かったみたいでボトミングもしていて。そのまま2周目のアタックラップに入っていったターン3でオーバーステアが出ているところにボトミングが重なってすごく大きなスナップが出てしまって、その反動でクルマが左を向いてそのまままっすぐ行ってしまったという状況でした。あとはもうどうすることもできませんでした」
ほとんど確認走行もできないままぶっつけ本番の予選ではギヤボックストラブルが出てしまい、なんとか修復しセッション終了直前にアタックに臨んだがぶっつけ本番ではターン1でも最終コーナーでもオーバーシュートしてしまい最下位だった。
それでもレース1では果敢に先陣を切ってウエットタイヤからドライタイヤに履き替え、ファステストラップを連発して9位までポジションを上げた。
「ドライに換えるのはちょっと早かったかなという気もしましたけど、後ろの方を走っていたので失うものもありませんでしたしね」
「最初はタイヤが温まらないしまだウエットパッチも残っていたのでコントロールするのが大変ですぐにはタイムが上がりませんでしたけど、ピットアウトした周からセクター2はグリーン(自己ベスト)だったらしいんで、ウエットではビックリするくらいクルマがダメでタイヤもボロボロになって余計にペースが上がらないっていう状況だったので、換えるしかなかったというのが正直なところでしたね」
予選7位から8位フィニッシュがやっとだったマルケロフも全く同じ状況だったといい、ロシアンタイム勢はドライ寄りのセットアップだったとはいえウエットコンディションへの対応は充分ではなかった。
レース2ではスタート直後のターン1でコントロールを失ったラルフ・ボシュングに追突され17位まで後退し、衝撃でステアリングが曲がってしまったことで牧野レースは福住同様に厳しいものとなった。
「スタートが良くなくて、さらにターン1でMPモータースポーツのクルマ(ボシュング)が後ろからぶつかってきて、両側からサンドイッチされるようなかたちになってしまった。それで左フロントにぶつけられてステアリングが曲がってしまったし、そういう状態ではブレーキングでも攻めることができないし、タイヤマネージメントのためにペースを抑えて走っているというよりもあれ以上ペースが上がらないっていう状態でした」
それでもレース1をマシントラブルでリタイアして後方から追い上げてきた選手権リーダーのジョージ・ラッセルにずっとついていくことができたほど、牧野のペースは決して悪くはなかった。
リバースポールからスタートしたマルケロフはレース中盤からリヤのデグラデーションが酷く進み、最後は13位まで順位を落とすほどセッティングとタイヤマネージメントを外していた。そのなかでも牧野は12位まで挽回する走りを見せた。
牧野もエンジンシャッフルの効果については「まだはっきりとは分かりませんけど、状況としては全然普通になったと思いますね」と語る。
ロシアンタイムとしてはハンガロリンクに対するマシンセットアップが全体的に上手くいかなかず、牧野としてもフリー走行で躓いてしまったのは痛かった。しかしそれを差し引けばマルケロフと同等の走りができたこともまた事実だった。
マシンの不利が小さくなったからこそ、ここからは本当の意味でチーム力が問われる。光明が見えてきたからこそ、福住は「こんなミスが続くようではいつまで経っても上位チームにはなれない」と苦言を呈する。牧野もこれからは課題のタイヤマネージメント力がより明確に問われることになる。
ともあれ、ひとまず再出発のスタート地点にはきちんと着くことができた。そんなふうに感じられた日本人ドライバー2人のハンガリーラウンドだった。