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薬物犯罪、刑事施設ではなく社会で治療…米国「ドラッグコート」の実態 成城大でシンポ

2018年07月30日 10:12  弁護士ドットコム

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法制審において判決の宣告猶予制度が検討される中、7月21日に都内の成城大学で開かれた治療的司法をテーマにしたシンポジウムにおいて、立正大学法学部の丸山泰弘准教授(刑事政策)が、米国で実施されている問題解決型裁判所(Problem-solving court)の1つである薬物犯罪を専門に扱う「ドラッグコート(以下DC)」の実態を紹介した。DCは、通常の刑事手続きとは異なり、被告人を「クライアント」とよび、刑事施設に収容するのではなく、社会で薬物の治療を義務づけるというものだ。薬物再使用を犯罪としてみなさず、回復につながるエラーとして捉えていることなどを紹介した。


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●薬物再使用を犯罪として見ず、「重要なエラー」ととらえる

日本においては、現在法制審において、「起訴猶予に伴う再犯防止措置のあり方」や「宣告猶予制度」の導入が検討されている。「宣告猶予制度」は、犯罪の証明があった場合、裁判所の決定で一定期間判決の宣告が猶予される制度が想定されており、その間に、被告人の治療や社会復帰支援の実施が期待される。


米国では、薬物犯罪者に何度刑罰を課しても刑務所に戻ってきてしまう「回転ドア現象」や刑務所の過剰拘禁が問題視されていた。そこで、1989年にフロリダ州にDCが創設され、裁判官の草の根活動によって米国に広がった。現在3000以上のDCが設置されているという。扱うのは、薬物依存だけでなく、薬物欲しさに犯した窃盗なども対象となる。DCでは、裁判官が治療プログラムを開始、集中監督し、全過程を無事に終えると、「卒業」となり、手続きが終わる仕組みとなっている。


丸山氏が強調したのは、再使用などの再犯の扱い。「DCでは再使用があっても、犯罪として見ずに、重要な次につながるエラーとしてみる」と紹介。DCでは、再使用が起きた場合、再使用してしまった状況を聞き、同じ状況が起きないよう対策を講じて、再使用を減らしていくという。その上で、丸山氏は「日本の再犯防止の流れだと、相当強力な監視状態に置き、再使用を犯罪とみることになりそうな点を危惧している」とした。


●同じ薬物問題の回復者がチームに加わることの意味

DCの特徴は、法曹三者に加えて、ソーシャルワーカーなども交えて、協力しながらチームを組んで取り組む点にもあり、「伝統的な刑事裁判とは違った役割をそれぞれの関与者があたえられる」と丸山氏。裁判官も独断で進めるのではなく、警察官やソーシャルワーカーのような職種とどうチームをまとめていくかを重要視しており、ホームレスの場合は食糧支援まで考えることになるという。


同じ薬物の問題を抱えて回復した人がスタッフとして関わることも重要視されている。「法が介入したタイミングで、かかえている問題を一気に解決して回復をやっていく」と紹介。その上で、日本で、法曹三者以外の司法専門のソーシャルワーカーなどの育成が重要になる点を指摘した。


DCの理論的支柱になっているのが、「治療的司法」と呼ばれる、回復を重視する司法のあり方。丸山氏が注意を促したのは、「治療」という言葉の意味。「『治療』という言葉は、必ずしも医療行為だけをさすのでなく、その人の生き辛さからの解放、回復を含む点を認識してほしい」とした。治療的司法は全体として「回復過程をたどるようなインパクトをたどる方が、法としての介入の意味があるのではないかという考え方」とした。DCの成功で、ギャンブル、DVなど他の問題解決にも応用する動きも出ているという。


(弁護士ドットコムニュース)