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新しい地図は未来という真っ白な地図に彩りを添えていく 香取慎吾『T-FACTORY』を体験して

2018年07月30日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾による“新しい地図”のホームページに掲げられているのは「皆さんと一緒につくる集いの場所」という言葉だ。その言葉通り、新しい地図の取り組みは、彼らと共に体験する喜びをいくつも提供してくれた。SNSでダイレクトなコミュニケーションを可能にし、インターネットテレビの生放送で毎月同じ時間を過ごす。映画『クソ野郎と美しき世界』が上映されれば、次回作を目指して動員数の行方にワクワクしたり、彼らが歌う「雨あがりのステップ」を通じてチャリティーに参加したり……。自由意思で、柔軟に、同じ“好き”を持つ人たちとつながっていく。そんな経験が、まだ見ぬ未来という真っ白な地図に彩りを添えていくのだ、と教えてくれる。


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 なかでも、これまで以上に香取の画家としての活動が充実したことにより、アートに対する親しみを高めてくれたように思う。香取の呼びかけによって、写真の加工やぬり絵に挑戦し、SNSで再発信をしてそれぞれのカラーを楽しむ。いつのまにか私たちの中にある遠慮や固定観念を解き放ち、人生をより豊かにしていこうというポジティブなエネルギーをくれるのだ。


 そして、この7月には、Tシャツをカスタマイズするプロジェクト『T-FACTORY』が開催された。場所は、香取が新進気鋭のアーティストたちと期間限定でギャラリーを行なった帝国プラザ1F・JANTJE_ONTEMBAAR。床には、そのとき描かれた楽しいイラストも残っている。“こうじゃないとダメ”という感覚にとらわれることなく、自分の直感を信じてフリーになれる空間。そこで、香取が描き下ろしたアートピースを選び、Tシャツにレイアウト。すると、ブラザーのガーメントプリンター「GTX」で、すぐにプリントされるというものだ。


 先日、筆者もこのプロジェクトに参加してきた。タテ5マス×ヨコ6マスのエリアに、1マス×1マスの数字を最大4つ、2マス×2マスのイラストを最大1つ、1マス×1マスまたは1マス×3マスのモチーフを最大1つ。アートピースをどれにしようか、そしてどこに配置しようか……と目移りしていると、あっという間に時間が経ってしまった。完全予約制なので、余裕を持ってじっくり選べるのも、うれしい配慮。シートに鉛筆で書き込んでは“やっぱりこっちにしようかな”と消しゴムで直す。“迷う”という行為を楽しむのは、大人になって久しぶりな気がした。忙しい日々では、“迷ってられない”とあくせくしがちだ。だが、たくさんの楽しい選択肢を前に“これもいいな”、“あれもいいな”とウキウキするのは、実に贅沢な時間であることを思い出す。


 「迷っちゃいますね」目が会った方に思わず話しかけると、「もう1回来ようかなって思ってて(笑)」という笑顔が返ってきた。さっそくプリントしたTシャツを、床に描かれた似顔絵イラストに着せるように置いてみたり、入口付近にある“T-FACTORY”のロゴの前に立ったり、順番に場所を譲り合って写真を撮っている様子にも温かい気持ちになった。こうしたやさしさに溢れた空間の発見こそ、新しい地図を書き込む冒険なのだ。


 実際に、その場でプリントされた世界にひとつだけのTシャツを手にすると、もっといろんなデザインを試してみたいという気持ちになった。筆者が選んだアートピースは、ハートのイチゴをメインにしたもの。ハートフルで楽しい体験ができたこの空間を忘れたくないという想いで選んだ。そして、今年を示す“2018”と香取のアートピースであることを示すモチーフ。きっと、多くの人がデザインにかける想いがあったのだろう。ほかの人はどんな想いを込めてアレンジをしたのか、その感性に触れたくなる。草なぎも「トラちゃん」とつぶやいて、Tシャツアレンジを楽しんでいるのを見て(引用:草なぎ剛オフィシャルTwitter)、より人としての愛らしさを感じた。そんなふうにアートへの好奇心や人の輪が広がっていくのだろう。この先も、ぜひこうした参加型のプロジェクトを開催してほしい。願わくば気軽に東京へ来れない方が参加できるような企画も。すぐにではなくとも、きっといつか実現してくれるのではないかと期待してしまう。“もっとこうなればいいな”という模索こそ、新しい地図らしさなのだから。(文=佐藤結衣)