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第3話でもクレジットは継続 ドラマ『この世界の片隅に』“Special thanks問題”を考える

2018年07月30日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 7月29日に放送されたTBS系列日曜劇場『この世界の片隅に』第3話は、昭和19年6月を迎え、徐々に戦争の気配が近付いてくる様子が描写されていく。空襲警報や配給の停止、防空壕を掘り、そして海軍の兵士たちは大きな任務に就く前に陸に上がり、仲間たちと酒を酌み交わす。


参考:『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のんが喋る特報映像【動画】


 そんな中で、すず(松本穂香)は夫・周作(松坂桃李)に以前結婚しようとしていた相手がいたことを知り、気になって仕方がない。そして砂糖を求めにヤミ市を訪れたすずは、そこで遊女のリン(二階堂ふみ)と出会うのだ。一方で周作は、軍の施設で偶然にもすずと同郷の海軍兵・水原(村上虹郎)と遭遇。今後彼ら4人の関係性が物語に大きな作用をもたらすこととなるのは間違いないだろう。


 それはそうと先日24日に、2016年に公開されたアニメ映画版『この世界の片隅に』の製作委員会が公式Twitterで、実写ドラマ版について「一切関知しておりません」という異例の声明を出したことに触れないわけにはいかない。こうの史代による同じ原作を用いた、ある意味では「リメイク」という位置付けにあたる今回のドラマ版。しかし、その表現の中にはやはり大ヒットを記録したアニメ映画版のイメージを踏襲した部分が少なからず感じられるのもまた事実である。


 それでも、あくまでもドラマ版はアニメ映画版への敬意を表しての「Special thanks」クレジットを明記したとも報じられており、元々具体的な定義がなく、一方的に記載されても大きな問題とならないのが感謝クレジットと呼ばれるものの実情でもある。しかしながら様々なところでネガティブな憶測が飛び交っているのは、優れた原作があって、それをアニメーションで映画化したほぼ完璧な作品があったからに他ならない。まだ始まったばかりのドラマ版へのある種の不安要素がこのような形で表出してしまったという気もしてならない。


 もっとも、その話題が出た直後でもある今回の第3話にも、継続して同様のクレジットが表記されていたことから考えるに、何らかの法的問題が生じる事態が起きているとも考えにくい。これまでの第1話・第2話を見ても、アニメ映画版へのリスペクトを込めて、原作漫画を実写のテレビドラマというメディアに移し変えてできるメリットを最大限に活かしていることはいうまでもない。


 だとしたら尚更に、アニメ映画版の公式Twitterが何故そのような声明を発表したのかは気になるところだ。その一因として考えられるのは、26日の午前に情報解禁された、約30分の追加シーンを加えた別バージョン『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が12月から公開されるというアナウンスだ。その中には、今回の第3話で出会いのシークエンスが描き出されこのドラマ版で重要な役割を果たすリンとすずとのエピソードが、新たに追加されていることが主要なトピックとして紹介されている。


 また、1年以上のロングランを記録している作品といえども、単純にメディアそのものの比較としてテレビと映画では認知度に大きな差が生じていることも否めないだけに、このタイミングでの再公開のニュースが、ドラマ版ありきだと考える人が出てこないとも言い切れない。しかし、クラウドファンディングで制作費をつのり、右肩上がりに興収を伸ばし、ひいては歴史的ロングランと海外での高評価を獲得した映画版は、支援してくれたファンの力があったからこそ再公開することができたわけだ。


 その「ファンの力」を無下にしないための、半ば決別とも取れるアナウンスが、アニメ映画版公式の決断であるとするならば尚更に、同じこうの史代の漫画を原作にし、同じマインドを持った作品であるドラマ版を、あえて否定的に捉える必要はないのではないだろうか。メディアの違いはあれど、どちらにも優れた部分がある。何よりも、諍いごとは『この世界の片隅に』にはふさわしくないだけに、何らかの追加声明がファンの元に届けられ、穏便に事態が収束することを願うばかりだ。(久保田和馬)