2018年07月28日 11:12 弁護士ドットコム
福井県坂井市の動物繁殖業者(ブリーダー)が、一時、約400匹の犬猫を過密状態で飼育して、繁殖させていた事件で、福井地検は7月下旬、動物愛護法違反(虐待)の疑いで書類送検されていた法人としての業者や、代表者の男性らを不起訴処分とした。
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工場で大量生産するように、犬を繁殖させる繁殖業者は「パピーミル」(子犬工場)と呼ばれており、母犬の健康面への悪影響などがあるため、専門家から批判されている。坂井市の繁殖場では、約400匹の犬猫をいくつかの部屋に分けて、「すし詰め状態」で飼育していたという。
坂井市の業者を刑事告発した公益社団法人「日本動物福祉協会」は今後、検察審査会への申立てを検討しているということだが、はたして現行の動物愛護法では、パピーミルでの「虐待」を止めることはできないのだろうか。
坂井市の業者は今年3月、動物愛護法違反(虐待)などの疑いで刑事告発され、5月には、動物愛護法違反や狂犬病予防法違反の疑いで書類送検されていた。そもそもどんな行為が虐待にあたるのだろうか。動物問題にくわしい細川敦史弁護士は次のように解説する。
「『動物虐待』というと、人によって定義はさまざまだと思いますが、法律上の『虐待』とは、次の(1)~(4)のように、動物愛護管理法44条2項で定義されています。前回2014年改正で、ある程度明確になりました。
(1)給餌給水をやめ、酷使し、または健康および安全を確保することが困難な場所に拘束することにより衰弱させる
(2)疾病・負傷した動物の適切な保護をおこなわない
(3)排せつ物が堆積し、または他の動物の死体が放置された施設で飼養保管する
(4)その他」
坂井市の業者の代表者は今回、狂犬病予防法違反(登録不申請、予防注射不接種)の疑いで略式起訴された。狂犬病予防法はどんな法律なのだろうか。
「狂犬病予防法は、狂犬病の予防、まん延防止、撲滅を図ることを目的とした公衆衛生のための法律です。狂犬病予防法が定める犬の所有者に対する主な規制として、(a)登録申請義務と(b)狂犬病予防注射を受けさせる義務、があります。
(a)は、犬を取得したら30日以内に市町村に登録申請をしなければならないというものです。
(b)は、毎年1回狂犬病予防注射を受けさせなければならないというものです。いずれも違反者には、20万円以下の罰金刑が定められています。
ただ、犬の飼育頭数の推計と自治体の登録数から計算される登録率(70%程度)や、厚生労働省が公表している予防注射率の統計(70%程度)からすると、十分に守られているとはいえない状況です。
また、違反者に対する罰則も厳格には運用されておらず、通常の飼い主が登録をせず、または狂犬病予防注射をしていなくても、警察が捜査をして罰金刑で処罰されるケースはまずないように思われます。
これに対し、今回の福井県の業者のように、虐待が疑われる事案を捜査した場合、虐待罪とあわせて、あるいは虐待罪は不起訴とするが、狂犬病予防法違反で処罰されるケースは多い印象です」
今回のケースで明らかとなった現行法の問題点とはなんだろうか。どうすれば改善されるのだろうか。
「まずは、虐待罪の構成要件のさらなる明確化です。先ほど述べたとおり、前回の法改正で、虐待罪の行為類型について、ある程度例示されて具体化されましたが、これらに該当しないものの、多くの人にとって『虐待』であると認識できる行為があります。
たとえば、暑い日に車内に動物を放置する、狭いケージで過密に飼育する、不衛生・不適切な環境(抜けた毛、食餌、ゴミが散らかる。大音量の音楽。過度の照明)で飼育されている、爪が異常に伸びたまま放置されている、などです。
これらの行為を『虐待』の一類型として定めることにより、実際にあったときに捜査機関が『虐待』に該当するとして検挙が可能となります」
「次に、数値規制の導入です。
動物虐待罪とは別の話になりますが、動物取扱業者が遵守すべき基準が法令で定められています。もっとも、その内容を見ると、たとえば『動物の種類及び数は、飼養施設の構造及び規模並びに動物の飼養又は保管にあたる職員数に見合ったものとすること』『ケージに入れる動物の数は、ケージの構造及び規模に見合ったものとすること』とあいまいな表現です。
具体的にケージの大きさや動物の世話をする職員数がどのくらい必要なのか、どの状態になると違反として指導監督の対象となるのかわかりません。そのため、自治体としても指導監督がしづらく、指導監督権限の行使が消極的になりやすいことが問題です。
ただ、福井県の繁殖場については、すし詰め状態で多頭の犬を入れること、狭いケージに入れること、2、3名で400頭近くの犬猫を管理していたことについては、『法令があいまいであること』では説明しきれないのではないかと思います。今回の問題が社会的に注目される前に、適切な指導監督がされるべきだったと考えます。
いずれにせよ、法令があいまいであるために、自治体による指導監督が消極的になり、その結果、多くの人が虐待状態と思うような繁殖場が出てきてしまうことは、今後は避けなければなりません。
そのためにも、ケージの大きさ、管理者1人あたりの頭数制限の数値規制は必須です。それ以外にも、繁殖回数や繁殖年齢等について、明確な数値規制が必要でしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
細川 敦史(ほそかわ・あつし)弁護士
2001年弁護士登録。交通事故、相続、労働、不動産関連など民事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。ペット法学会会員。
事務所名:春名・田中・細川法律事務所
事務所URL:http://www.harunatanaka.lawyers-office.jp/