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『半分、青い。』衣装担当が明かす、鈴愛が“ボーダー柄”の理由 「着こなし過ぎない部分も大事」

2018年07月28日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 折返し地点を過ぎ、主人公・鈴愛(永野芽郁)の妊娠・出産など、まさに「人生・怒涛編」が繰り広げられている連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK総合)。“朝ドラっぽくない”の声が度々上がる本作だが、その要素のひとつとなっているのが登場人物たちの個性豊かな衣装だ。鈴愛のボーダー柄、涼次(間宮祥太朗)の半袖にロンTスタイルなど、各キャラクターの衣装はどんな考えのもとに設定されたのか。


 リアルサウンド映画部では、衣装担当として18年のキャリアを持ち、手がけた朝ドラは本作が10作目となる澤谷良氏(東京衣装)にインタビューを行った。各キャラクターへの衣装設定の裏側から、衣装という仕事の喜びなど、じっくりと話を聞いた。


参考:『半分、青い。』美術デザイナーが語る制作の裏側 「必ずしも“再現”を重視するわけではない」


●鈴愛の衣装は「ボーダー」をキーアイテムに


ーー朝ドラは26週という大変長丁場な現場です。各キャラクターの衣装はどのように決めていくのでしょうか?


澤谷良(以下、澤谷):最初の段階では最後までの脚本はないので、全体のプロットから雰囲気を掴み、いただいているところまでの脚本を読んでイメージして、関わるスタッフさんや役者さんと衣装合わせする中で決めていきます。


ーー作品全体の色彩がカラフルなイメージがあるのですが、最初の段階でキャラクターごとのカラーを決められていたのですか?


澤谷:スタイリストによっては明確に登場人物のカラーを決める方もいらっしゃいますが、僕はカラーというよりも、アイテムで差別化を図ることができればと考えました。カラーで縛ってしまうと、どうしてもできることが限られてきてしまうので。とはいえ、律(佐藤健)は物静かで知的な要素から、幼少期から最終幕まで紺色を基調とした衣装にはなっています。鈴愛は、部屋のラジカセや、岐阜から上京するときに着ていた上着など、赤色のイメージがある方がいると思いますが、決して赤をメインカラーにと思っていたわけではないんです。80年代風の衣装を探しているときにたまたま赤色の上着をみつけて、それが鈴愛のイメージにぴったりとハマって。結果として、相対する登場人物や、部屋全体のバランスで鈴愛が赤い服を着ていることは多くなりました。あとは鈴愛はカラーというよりも、「ボーダーの服」ですね。


ーー高校生の頃から、30歳となった現在(7月26日放送時点)まで、ずっと着ているアイテムですね。


澤谷:鈴愛は高校を出てから「オフィス・ティンカーベル」に入り、その後は「100円ショップ大納言」と、いわゆるキャリアウーマン的な働き方は一度もしていません。その分、かっちりした衣装ではなく、常にどこかに緩さが出るようにはしたいと思っていました。とはいえ、永野さんはどんな衣装でも“着こなしてしまう”ので、わざと身体のラインが出ないように、着こなし過ぎない部分も大事にしています。


●ボクテも成長にあわせて“黒”の衣装に


ーー鈴愛とは対照的な衣装で異彩を放っていたのが、律の大学時代の恋人である清(古畑星夏)です。


澤谷:80年代のファッションを思い出しながら、鈴愛にはない女性としての色気、裕子(清野菜名)とは別の東京に染まっている感じを清には出すことができればと考えました。清も裕子と同じショートパンツでも、そこにニーハイを組み合わせることで何か個性が出ればと。


ーー「東京・胸騒ぎ編」では、清のほかに正人(中村倫也)も大きなインパクトを残しました。


澤谷:正人は衣装合わせのときに一番イメージが変わったキャラクターでした。律や鈴愛と同じように上京してきた立場ですが、2人よりも都会に染まっていて、もっと遊んでいるイメージだったんです。でも、実際に中村さんと打ち合わせをする中で、遊んでいる男というよりも、ゆるフワな雰囲気にしようと。それが正人のニットを基調とした衣装になっていきました。「東京・胸騒ぎ編」は10代後半から20代中盤の一番華やかな時期ということもあり、鈴愛のほか、ボクテ(志尊淳)、裕子も明るめの衣装になっています。


ーー年齢を重ねるごとに衣装のカラーも少し落ち着かせていると。


澤谷:そうですね。ボクテに関して言うと、オフィス・ティンカーベル在籍時はカラフルな色合いの衣装になっているのですが、出ていって人気漫画家になってからは白や黒のモノトーンの衣装になっています。オフィス・ティンカーベル内には秋風先生(豊川悦司)という絶対的な存在がいて、秋風先生は基本的に黒なんです。同じ空間で色味がかぶることを避けたかったというのもありますが、ボクテが白や黒を着るようになったことは、秋風先生と同じ売れっ子作家になったという部分を意図したところもあります。それでも先生と一緒に映るシーンでは、ボクテから黒を外して、秋風先生だけが黒を着るようにしていました。


ーー現在放送中の「人生・怒涛編」のキャラクターはどんな点に意識を?


澤谷:涼次(間宮祥太朗)は明るくてポップ、かわいいキャラクターのイメージがあったので、暖色系のシャツを着ているというのは最初に決めました。半袖のシャツにロンTを合わせているちょっと不思議な感じ。どこかしら鈴愛と似ている雰囲気を出せればと。逆に祥平(斎藤工)はあまり衣装に変化がない寡黙な雰囲気、立ち位置的には秋風先生の代わりとして、黒を基調とした衣装にしました。


ーー放送中の舞台は2000年代に入り、衣装に関しては限りなく現在と変わらないと思いますが、時代劇と現代劇ではどちらのほうがやりやすいのでしょうか?


澤谷:どうですかね……。時代劇の場合はどうしてもほしい素材がなかったり、再現する難しさがあったりします。一方、現代劇の場合は、無数に選択肢があるからこそ、もっといいものを、もっと何かあるはずだと、歯止めがきかなくなる部分があります。時間と予算と付き合いながら、一番いい落としどころをいつも探しています。どちらにも難しさがあり、楽しさがあります。


●“着こなし過ぎてしまう”永野芽郁


ーー物語の中で印象的だった衣装が、律と数年ぶりに「夏虫駅」で再会するときに鈴愛が着ていたワンピースです。鈴愛のサイズと合っていない感じや色合いなど、とても絶妙でした。


澤谷:「アッパッパ」(簡易に着ることができる木綿製のワンピース)で、という北川さんからの指定がまずありました。「アッパッパ」は浴衣をほどいて仕立て直したりするものもあるんですが、それだとあまり面白くない。「おしゃれ木田原」で1,980円で売っていたものという設定もあったので、それなら派手なやつがいいなと思って探していたところに見つかったのが、あのワンピースだったんです。どこかバブルっぽくもあり、ちょっとガバガバなサイズ感も面白いなと思いました。


ーー見つけたときはこれだ!と。


澤谷:最初から緑色のものを探していたわけではなかったんですが、夏虫色というテーマにも合致して、色味の少ないシーンだったので、あの色が絶妙に画面の中で生きてくれました。ただ……いわゆる“ダサい服”でも、永野さんが着るとそれっぽくなってしまうのが非常に難しい。


ーー確かに、全身が映るカットだと、準備に失敗してブカブカサイズを着るはめになった鈴愛の持ってなさが出ていましたが、上半身だけのカットだとオシャレに見えます。


澤谷:そうなんですよ。だから、いかに“着こなしてもらわないか”、というのを永野さんにはお願いした部分があります。役者さんによっては、何を着ても格好良くなってしまう方、着こなしてしまう方もいます。だからこそ、僕らの仕事があるとも思いますし、脚本に合ったもの、その役に合ったものを選び続けるのが大事なんだと思っています。


ーー今後、鈴愛には子供も生まれ、いよいよ物語は終盤へ。衣装の視点から見る後半のポイントは?


澤谷:鈴愛の娘・カンちゃん(山崎莉里那)の衣装は、鈴愛に似せた色やアイテムにしています。親子揃ってボーダー柄を着ていたり、同じ柄のシャツを着ていたり。カンちゃんは物語の中でも一番若いキャラクターになるので、元気な色のシャツをチョイスしています。鈴愛をはじめとして、主要キャラクターたちも年齢を重ねてまた違った雰囲気の衣装にしているので、その点にも注目していただければと思います。


(取材・文=石井達也)