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sumikaの歌は、いつも“みんな”の傍にあるーー日本武道館公演で確かめ合ったファンとの絆

2018年07月27日 22:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 計16公演をまわる全国ツアーの終盤。前日に行われた無料イベントも含めれば日本武道館3Days中2日目あたる、6月30日公演。アンコールのMCで片岡健太(Vo/Gt)が一気に言葉を溢れさせた。


参考:sumika、劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』主題歌初披露 片岡健太「15回も書き直してしまった」


 前身バンドの活動休止後、それでも音楽の道を諦められず、荒井智之(Dr/Cho)、黒田隼之介(Gt/Cho)とsumikaを結成したのだということ。しかし歳を重ねるほど、夢を追う自分たちが少数派になっていく感覚を味わい、それを恥ずかしく思う時もあったのだということ。そんななか、小川貴之(Key/Cho)やスタッフら、同じ志を持つ人たちに出会えたのだということ。だからこそ、自分たちのお客さんに対して後ろ指さしたりは絶対にしない、音楽で抱きしめるんだ、と約束したのだということ――。湧き上がった拍手の音を切り裂くように鋭くギターを鳴らしてから始めた「彗星」。曲中、片岡は自分を奮い立たせるように「どうなんだよ!」と何度も叫んでいた。


 「彗星」の歌詞はそのMCと重なるものだが、この曲だけが特別そういう内容なわけではない。例えば、終演後BGMとして流された「雨天決行」(2013年リリース『新世界オリハルコン』収録)。サビでこう唄っている。


〈やめない やめないんだよまだ/はいはい、理屈は分かっても/やめない/覚めない夢の中で〉


 また、先に挙げた「彗星」(2014年リリース『I co Y』収録)にはこんなフレーズが。


〈僕ら数年経って大人になって/まだまだ終われない/意地っ張りな自分がまだ居るんだ/もう大好きよ。大嫌いよ。〉


 さらに「グライダースライダー」(2015年リリース『Vital Apartment.』収録)では、このように唄っている。


〈分母をたくさん増やしました/そこからひとつの道だけ選びました/1分の1じゃなく100分の1を選ぶ人に/なれるように正直に欲望を描いた〉


 ちなみにこの曲、この日は荒井の刻むビートを強調した演奏に。「ここがゴールではないですけど、ちゃんと重く受け止めてます」と語るバンドの意思を反映したアレンジになっていた。結成の背景を鑑みれば、いわゆる初期曲がそういう内容になるのは納得できるだろう。しかし比較的最近にリリースされた曲も例外ではない。この日は演奏されなかった曲だが、「アイデンティティ」(2017年リリース『Familia』収録)には以下のようなフレーズがあるのだ。


〈走れば走る程に傷ついて/負け 罵声も増えていって/でも僕は僕で在りたいから/やめたくない〉


 ツアーの規模が拡大しようとも、大型フェスに出演するようになろうとも、企業とのタイアップソングを手がけるようになろうとも、彼らは“自分の欲望に正直であること”、そして“選んだ道を諦めないこと”を唄ってきた。ここまで一貫して同じことを唄っているのは、かつて後ろ指をさされた経験が、このバンドにとって拭っても消えない傷のようなものになっているからだろう。本当は不安だったのだと打ち明けながら「ちゃんと(あなたの)想像を超えられていますか?」と泣き出しそうな表情で客席へ確認していたのも、おそらくその傷が由来だ。


 そしてそれは、結成5周年のタイミングで立つ晴れ舞台であろうとも変わらなかった。だからこそ彼らは「sumikaを好きになったことを絶対に後悔させないし、俺たちもそれに負けないほど、音楽を、あなたを、愛していきたいと思います」と語り、それを体現するようなライブを行った。


 ミュージカル的な華やかさのある「MAGIC」「Lovers」にオープナーを任せ、客席からの歌声や手拍子と一緒に合奏した前半戦。リハーサル時に客席に座り、ステージの見え方を確認しただけあって、普段よりもさらに大きめなメンバーの身振り手振り。サーカステントを思わせる可動式のステージセットからは、スタッフも含めたチームとしてのこだわりを読み取ることができた。


 また、「五月病明けてちょっと心配だなあと思ったので、この時期に唄いたい曲を唄います」という片岡の前置きがあった「明日晴れるさ」、片岡の歌+小川の鍵盤による二重奏で届けた「ほこり」、そして本編ラストの「フィクション」も印象深かった。「おかえり」も「いってらっしゃい」も言えるバンドでありたい、会場のドアをくぐったあとのあなたの生活こそが大事なのだ、という点はこれまでのライブを通じて彼らが伝え続けてきたこと。そういう意味でも〈さあ 今日も始めましょうか〉というフレーズで本編を締め括った意義は大きかった。


 アンコールは「スタッフ、声出せますか!?」「メンバー、声出せる!?」と舞台裏/上にまで呼びかけながらコール&レスポンスするシーンが感動的だったし、そうして気合いを入れ直したからか、直後の「「伝言歌」」はいつも以上に勢いが増していて良かった。「武道館めっちゃ暑い……ライブハウスと同じ熱量なんて想定外だ……」と片岡は冗談っぽいテンションで呟いていたが、客席いっぱいの笑顔を見る限り、その言葉もあながち嘘ではない。物理的な意味でも心理的な意味でも観客側が“あのバンドが遠くへ行ってしまった”という実感を抱きがちなこの会場において、相も変わらずsumikaの音楽は、私たち一人ひとりの傍にあったのだ。


 この武道館公演を境にアリーナ規模の会場でライブをする機会も増えるかもしれないが、彼らはきっと変わらないだろう。素晴らしいライブだった。(蜂須賀ちなみ)