第41回鈴鹿8時間耐久ロードレースの決勝レースが7月29日にいよいよ始まる。2017年まで3年間、YAMAHA FACTORY RACING TEAMが3連覇を記録している。このヤマハ3連覇の立役者、中須賀克行は3大会でエースライダーとして活躍し、ライダー個人としても3連覇を達成した。
中須賀の記録は、40回の鈴鹿8耐ヒストリーのなかで、1993年から1995年まで3連覇を果たしたアーロン・スライトに並ぶものだ。2018年、中須賀はスライトの記録を超えるライダー個人の4連覇という記録更新がかかっている。
その中須賀のチームメイトは、2017年3連覇を果たしたマイケル・ファン・デル・マークとアレックス・ロウズのふたり。去年のチャンピオンチームそのままだ。その上、ファン・デル・マークもロウズも、スーパーバイク世界選手権(SBK)で2018年シーズン、優勝を経験している。ヤマハのSBKマシンもライダーふたりも上り調子、ヤマハは盤石だ。
7月26日、木曜日、レース前のフリー走行が全3セッションで行なわれた。3セッションのうち2セッションで、ヤマハ・ファクトリー・レーシング・チームはトップタイムをマークした。タイムは2分7秒台の前半。2番手は、今年からファクトリー体制での鈴鹿8耐参戦となったカワサキ・チームグリーンだ。
ベストラップだけを見ると、ヤマハとカワサキの差はわずかだ。そのカワサキは、SBKの3年連続チャンピオン、ジョナサン・レイの参戦を早々に発表した。チームメイトは2年連続で2位に入賞したレオン・ハスラムと、鈴鹿8耐の参戦経験が豊富で、2016年のル・マン24時間耐久レースで3位に入賞している渡辺一馬。事前テストからここまで、本命のヤマハに対して、対抗はカワサキと思える状況になってきた。
今シーズン、国内で10年ぶりにファクトリーチームの参戦を再開したホンダ。全日本ロードレース選手権のJSB1000でマシンの開発を進めながら、最終目標はこの鈴鹿8耐のタイトル奪還だ。ホンダにとって重要な2輪モータースポーツはMotoGP、世界モトクロス、ダカールラリー、そして鈴鹿8耐と言われている。2015年、ヤマハが国内とSBKでファクトリー活動を再開して以来、鈴鹿8耐の連覇をしているが、ホンダとしてもこれ以上負け続ける訳にはいかないのだ。
JSB1000のファクトリー復活で起用されたのが、ハルク・プロの高橋巧。マシンもフルモデルチェンジに近いCBR1000RR SP2、最後発のスーパースポーツバイクと言われている。これにファクトリーチューンを施したマシンは2018年シーズン、高橋のライディングで何度も中須賀の乗るヤマハYZF-R1を追い回し、全日本では互角の走りをするまで、ポテンシャルを上げている。ここに、日本人唯一のMotoGPライダー、中上貴晶が加わる。MotoGPライダーの底力に期待が集まる。
だが予選を前にして、万全の体制で4連覇を目論むヤマハ、指定席の2位からさらにランクアップするためのジョーカーを切ってきたカワサキに対し、ホンダは手札が足りない。夏の鈴鹿を戦うために重要な3枚目のカード、つまり第3ライダーの決定が遅れたのだ。
ホンダは直前まで、いくつかの候補が噂されていた。まずは中上のチームメイト、カル・クロッチロー。だが、MotoGPで1勝はしたものの、その後、今ひとつ歯車がかみ合わないため、鈴鹿8耐参戦を断ってきた。MotoGPのサマーブレークに開催される鈴鹿8耐は、ライダーにとって大きな負担になることもあるからだ。
さらにMotoGPのテストライダー、ステファン・ブラドルの名前も上がっていたが、事前テストに現れたのは、ホンダのSBKライダー、レオン・キャミア、パトリック・ジェイコブセン、そして元MotoGPライダーのランディ・ド・プニエ、Moto2のドミニク・エガーター。
また、2017年まで10年間、ホンダのトップチームとして鈴鹿8耐を戦ってきたハルク・プロは、高橋巧に代わり水野涼がエースライダーとなったが、彼のチームメイトが必要だった。こちらも、直前までライダーの発表はなかったのだ。ホンダファクトリーチームと、ホンダプライベートのトップチームが、最後の最後までライダーが決まらないという事態が起きていた。
さらに、本戦直前のホンダプライベートテストで、ファクトリーチームの候補だったキャミアが転倒、負傷。最終的にファクトリーチームは高橋、中上とジェイコブセンという発表がされた。決勝の10日前、7月19日のことだ。
公式練習が行なわれたのは26日、木曜日の午後。多くのチームは前日の水曜日に機材、マシンをピットに搬入する。ヤマハファクトリーチームはこの日、早速ピットロードで、ホイール交換のシミュレーションを行なっていた。盤石の体制と言っていい。
もちろん、レースなので何が起きるか分からないし、絶対はない。だが、レッドブルと日本郵便の看板を背負ったホンダファクトリーが、盤石の体制で臨むヤマハと、早々に体制を決めて25年ぶりの優勝をねらうカワサキに対して、どんな戦いを挑むのか、想像がつかない。
折しも、非常に微妙な動きを見せる台風12号がこの週末に本州上陸と報道されている。決勝日の朝は雨、スタート後、間もなくすると晴れてくる、そんな天気予報にもなっている。
ロードレースは天気に大きく影響され、悪天候が波乱を呼ぶこともある。圧倒的な速さを誇るヤマハの敵は、小さなミスからのほころびか、あとは不運だけ。これに対してカワサキは、世界チャンピオン、ジョナサン・レイの速さをどれだけ生かせるかに勝敗のカギがある。
10年ぶりのファクトリー参戦となったホンダは、最後の切り札がどれだけ有効なカードかで、大逆転もありうる。
ホンダは燃費がいいという話も聞く。単純な8スティント、7回ピットではなくなったとき、この好燃費が功を奏するかもしれない。
41回目の鈴鹿の夏、どんなドラマが見られるか。