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キンキが“ふたりで歌う”意味の大きさ 『KinKi Kids CONCERT 20.2.21』映像作品を見て

2018年07月27日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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“Everything happens for a reason(すべての出来事には意味がある)”


 そうサブタイトルが添えられた『KinKi Kids CONCERT 20.2.21』のDVD・Blu-rayが、7月25日に発売された。このサブタイトルを考えたのは堂本光一だ。「今やれることをやれば、そこから何か生まれることもある」目の前に降りかかる困難や苦悩を受け入れ、そこに意味を持たせることができる人が“表現者“と呼ばれるのだろう。「無理して立ちたい場所、過ごしたい時間がある」と病を押して、できる限りを尽くした堂本剛の姿に、命を燃やすとは何かを感じた。この瞬間も、私たちは命の炎を燃焼し続けている。人生は不可逆な“今”の連続だ。だからこそ、何度でも振り返りたくなる大切な瞬間がある。CDデビュー20周年の集大成となったこのコンサートは、KinKi Kidsとふたりを支えてきたファンやスタッフの20年に大きな意味をくれる時間となった。その瞬間を留めた本作は、まるで太古の時間を閉じ込めた宝石のようにファンの手元で輝き続けることだろう。


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 20年の歩みを振り返るような名曲揃いのセットリスト。それだけでも心を打つものがあるが、このコンサートを特別なものにしたのは、突発性難聴を発症した剛の体調に配慮した形で進められたという点だろう。耳への負担が少しでも軽減されるようにと取り入れられたオーケストラ演奏。122名にも及ぶ東京ドーム史上稀に見る大編成のオーケストラに、いつもとは違う雰囲気が漂う。ムービングステージなどの大掛かりな仕掛けはなし。観客のペンライトも応援うちわもなし。さらに、剛が歌うことだけに集中できるようにと、ふたりはステージの上から移動せず、極限まで演出を削ぎ落とした。その結果、見えてきたのは“ふたりで歌う“ということの意味の大きさだ。


 自分の歌声の行方に集中する剛の表情は、まるで真剣を扱う武士の如く厳しい。その一点を見つめて歌う姿に、決して体調が万全でないことが十分伝わってくる。だが、それでも彼の歌声はドームを響かせ、約6万人の観客を魅了する力を持っていた。自分の声が脳内でハウリングし、周りの音も聞こえにくい中で、あれほどの歌を披露するには、どれほどの精神力を必要とするのか。そのギリギリな状況から放たれる剛の歌声。それに共鳴する光一の歌声にも、一切の遠慮はない。ふたりのエネルギーをまとったハーモニーは、流れ星のように暗い会場を駆け抜け、その尾が煌めくようにオーケストラの音色が広がる。


 なんて幻想的なコンサートなのだろう。過酷な現実に向き合ったふたりが、これほどの希望に満ちた空間を生み出すとは。そこに加わるのは、6万人のファンによる「もう君以外愛せない」の大合唱。まるでひとりが歌っているかのように聞こえる、クリアな歌声。それは、ときにKinKi Kidsがレコーディングでひとりの歌声に聞こえるほど、シンクロする様と似ている。東京ドームという空間がファンの母性に近い愛情で包み込まれ、次の20年に向かうKinKi Kidsを育む母胎のように感じた。


 そんないい雰囲気になると茶化してしまうのは、シャイなKinKi Kidsのお決まりパターンでもある。MCになれば「見えにくい席も一律料金でやらせてもらってます(笑)」と、光一のいつもと変わらぬ自然体な振る舞いに、空気が一気に和らぐ。お約束となっている、ファンと憎まれ口を叩き合うイジりも健在。長い時間を共に過ごしてきたからこそ育まれた信頼関係。だからこそ光一にはわかるのだろう、剛の様子を固唾を飲んで心配するファンの気持ちが。そんなときこそ、光一の口数が多くなる。自由奔放に見える光一の言動が、剛の笑顔を引き出し、ファンを安心させる。それは「大丈夫」という言葉よりも、ふたりの微笑ましいやりとりこそが、“大丈夫なのだ”と思わせてくれることを知っているからに違いない。


 その奥ゆかしい愛情に応えるべく、剛が披露したソロコーナーは圧巻だった。人は誰かのために動くときに、もっとも強くなれる。そんな哲学に近いものを感じさせる渾身のパフォーマンス。「PINK」にのせた舞いは、視覚で感じられる音楽だ。思わずミュートでも見返してしまったほど、彼の動きから音が見えた。そして〈あたしたちはね 歩んでいるの 一歩一歩と人生って道を〉と綴られた「これだけの日を跨いで来たのだから」は、まさに魂の歌声。困難こそ、クリエイティブの種になる。苦悩こそ、他者の愛に気づくきっかけになる。全ての出来事に意味を見出せるのは、応えたい愛があってこそ。このコンサートのサブタイトルに込めた光一の想いに、アンサーを示すかのような熱唱だった。


 光一は『KinKi Kids CONCERT 20.2.21』のタイトル内にある“20.2.21”についても明らかにする。一旦は「感じて!」と突き放すも、“20 to 21”の“to”をふたりの“2”とかけて、20年と21年の間にKinKi Kidsのふたりがいる、という意味があると語る。「お前らが喜びそうなやつや!」と照れくさそうにする光一。そう、すべてに意味があるのだ。意味を持たせるのが“強さ”ならば、それを見出す姿勢は“愛”なのだろう。KinKi Kidsのファンは、彼らの「感じて!」を受け取ろうと、どんどん感受性が豊かになっていく。わかりやすい言葉ではない何かで伝わったときこそ、愛の深さを感じるものだ。憎まれ口は最大の「I LOVE YOU」になるし、“2”というひとつの数字は永遠にも近い意味を持つ。だからこそ、KinKi Kidsのコンサートは笑顔が絶えない。ここに集まるスタッフもファンも、きっと血の繋がらない“堂本ファミリー”という家族なのだ。家族の直面する厳しい現実も、ちょっと笑える話も、年を重ねることも、全部だきしめて。その揺るがない愛を、何度でも再確認できる。この『KinKi Kids CONCERT 20.2.21』のDVD・Blu-rayは、家族アルバムのような作品だ。(文=佐藤結衣)