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日本勢が強いファンタジア国際映画祭、今年の結果は? 映画評論家・小野寺系がレポート

2018年07月26日 13:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「北米のパリ」と呼ばれる、カナダ第二の都市モントリオール。映画ファンの間では「モントリオール世界映画祭」が世界的に有名だが、もう一つ、同じくらい注目されている映画のイベントが、ジャンル映画を対象とした「ファンタジア国際映画祭」だ。


 いま開催中の2018年ファンタジア国際映画祭に行ってきた小野寺が、受賞結果、現地の様子などをレポートしていきたい。


参考:新シリーズ本来のコンセプトが明らかに 『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の“いびつさ”を読む


■行きやすくなったモントリオール
 雄大なセント・ローレンス川の中洲に発展した、人口300万人を超える大都市モントリオールは、カナダ東部のケベック州にある。今まで日本からは乗り継いで行かなければならず不便だったが、2018年6月から、エア・カナダによる成田ーモントリオール間の直行便が就航したことで、日本との行き来が容易となっている。※現在の情報です。公式サイトにてご確認ください


 川沿いの旧市街や、高層ビルが立ち並ぶダウンタウンなど、古さと新しさが融合する、情緒ある美しい街だ。市街地や住宅地の一部ではアート作品が風景を彩り、様々な文化施設がある。住民はフランス系が7割ほどだが、移民も多く多様な民族が暮らしており、開放的な雰囲気。


 ファンタジア国際映画祭の時期の近辺には、世界的に有名なモントリオール国際ジャズ・フェスティバルや、サーカスフェスティバルなどが行われ、観光には事欠かない。


 開放的な国民性が実感できるのは、2018年10月より、カナダが娯楽としての大麻合法化に踏み切ったことからも分かる。現在はまだ違法だが、フェスティバル会場ではすでに吸っている人が見受けられ、独特な匂いを漂わせていた。※日本政府は在外邦人の大麻使用に注意を呼びかけています。


 また、モントリオールまで来たら、もう少し足を延ばして、電車やバスで3時間ほどの距離にある、歴史ある街並みが堪能できる城塞都市ケベック・シティーも観光したいところだ。


 モントリオールやケベック・シティーでは、頻繁にハリウッド映画のロケ撮影が行われていることでも有名。アメリカやヨーロッパを舞台にした映画でも、じつはカナダで撮られていたというケースは多い。小野寺がモントリオールの街を歩いたときも、『M.M.』(おそらく伏せられた仮タイトル)の撮影現場に居合わせた。一体何の映画だったのか気になる…。


■「ファンタジア国際映画祭」とは
 さて、目当ての「ファンタジア国際映画祭」だが、これは「モントリオール世界映画祭」と差別化されており、主にジャンル映画、B級映画などを扱う個性的な映画祭である。


 チケットは指定席ではないため、会場周辺は、良い席を確保するために列ができ、監督や俳優と観客が交流するなど賑わっていた。もともとフランス系カナダ人以外に新しい移民も多いモントリオールでは、様々な人種が存在しているが、国際的な映画祭ということもあり、会場には、より多様な人種の映画好きや業界関係者が訪れる。


 アジア映画祭としてスタートした経緯から、いまもアジア映画が多く出品されることでも有名。『リング』などジャパニーズ・ホラーをいち早く上映し、北米でのブームの火付け役ともなった。第1回の最優秀作品賞に輝いたのは、湯浅政明監督のアニメ映画『マインド・ゲーム』だった。他にも園子温監督や中島哲也監督など、日本人監督の作品が最高賞を獲得している。また、海外作品では『ぼくのエリ 200歳の少女』、『息もできない』、『新感染 ファイナル・エクスプレス』などが過去に最高賞を受賞。


 2018年の日本からの出品作品は、上田慎一郎監督『カメラを止めるな!』、佐藤信介監督『BLEACH』、三木康一郎監督『旅猫レポート』などなど。なんと30作品もの日本のタイトルが出品されていて驚かされる。


■日本勢が強い映画祭。2018年の受賞結果は…
 今回、最高賞である「黒馬賞(シュヴァル・ノワール・アウォード)」に輝いた長編作品は、ロマン・デュリスとオルガ・キュリレンコ主演の『Dans la brume』。突如パリを覆った、“死の霧”の脅威と闘う家族を描くSF映画だ。


 佐藤信介監督は功労賞を受賞(会場では『アイアムアヒーロー』、『いぬやしき』も上映された)。これは三池崇史監督、押井守監督に次ぐ3人目の快挙だ。


 モントリオールでは、この時期にちょうどコミコンも開催されていたが、図書館では、日本の作品を含むコミック、アニメ作品が多数収蔵されていたり、また市内に日本のアニメファン向けのショップが存在しているなど、ポップカルチャーへの理解が大きい。今回上映された佐藤監督の『BLEACH』は、現地のコミックファンに原作が認知されているようだった。


 最優秀アニメーション賞に輝いたのは、 石田祐康監督『ペンギン・ハイウェイ』! ちなみにファンタジア国際映画祭では、2012年より最優秀アニメーション賞の名称を、「コン・サトシ(今敏)賞 」としている。映画祭立ち上げ当初から『パーフェクトブルー』などを上映していた運営側が、2010年に亡くなった今敏監督の功績を称えてのこと。他国のアニメ監督にここまで敬意を表する映画祭は珍しいだろう。


 また、最優秀アニメーション賞は日本作品が強く、過去には片渕須直監督『マイマイ新子と千年の魔法』、窪岡俊之監督『ベルセルク 黄金時代篇III 降臨』、新海誠監督『言の葉の庭』、 横嶋俊久監督(神風動画)『COCOLORS(コカラス)』などが受賞している。


 もう一つ。今回の新人作品賞では、21歳の山中瑶子監督『あみこ』が、スペシャル・メンション(審査員特別賞)を獲得しているのにも注目だ。


■最優秀男優賞に輝いた『RELAXER(リラクサー)』とは?
 今回小野寺がチェックしたのは、上映作のなかで最も個性的と思われるアメリカのコメディー映画『RELAXER(リラクサー)』。汚く散らかされたリビングルームで、延々とTVゲーム『パックマン』をプレイし続け、ソファーに座ったままというルールを守りながら、256ステージ到達を目指す男の物語だ(物語といってもゲームをしているだけだが…)。


 スティーヴ・ブシェミを思い起こさせる、ぎょろっとした目が印象的なジョシュア・バージは、映画の最初から最後までゲームをし続ける男の役をユーモラスに、また悲劇的に演じ、今回最優秀男優賞に輝いた。


 ステージに運ばれたソファーに座りながら話すジョエル・ポトリクス監督(写真右)によると、本作は99年に実在のゲーマーが『パックマン』でハイスコアを記録したという出来事が基になっているという。また『パックマン』をやり続けるという内容は、部屋から出られないパーティ客という不条理な状況を描いた、ルイス・ブニュエル監督の『皆殺しの天使』の現代版ともいわれている。


 劇中では、クエンティン・タランティーノ監督やケヴィン・スミス監督作を思い起こさせるような、サブカルチャーのムダ話が飛び交っているように90年代のインディーズ映画へのリスペクトが感じられる。近年、映画では80年代カルチャーのブームが起こっているが、ぼちぼち90年代の空気を扱った作品が増えてきている。本作が伝えるのは、その波の到来でもある。


 ソファーに座りながらゲームをやり続ける男の悲劇が示すのは、まさにファンタジア国際映画祭に代表されるようなポップカルチャーに耽溺する、私を含めた観客たちの姿に重なる。狂ったように映画やアニメを見続けて一体どうなるのか?という漠然とした不安。でもそこには何か意味があるのかもしれないという、うっすらとした希望が同時にある。『RELAXER』が提示するのは、そんな我々のリアルな姿だった。変わってはいるが素晴らしい作品なので、『パックマン』を生み出した日本で公開されたら嬉しい。


【おまけ】映画祭メイン会場への行き方
 ケベック州は北米にも関わらず、歴史的な経緯からフランス語を公用語としている。文化的ルーツを守るため、看板の字もフランス語でなければならず、英語で表記する場合は、それより大きいサイズのフランス語の文字を併記しなければならないという法律まである。そのため、多くの日本人にとって、街の案内は分かりにくいかもしれない。


 タクシー以外では、地下鉄が便利。「ギー・コンコルディア(GUY-CONCORDIA)」駅を降りて、「メゾヌーヴ通り(Boulevard de Maisonneuve)」を北上すると、駅から徒歩で5分かからない場所に、メイン会場となる「コンコルディア大学」がある。芸術学部のある大学ということもあって、構内に複数の映画館があり上映会場として利用されている。会場のスタッフは学生ボランティアも多い。


 普段は大学として使われている会場なので、導線が悪く(私のように)迷う場合がある。ちなみに公式サイトの地図は、現在一部間違っているところがあるので、メインの上映会場以外での鑑賞は、インフォメーション・デスクなどで案内を受けた方が良いと思われる。


 比較的便利になった、カナダ・モントリオールへの渡航。観光地も多く、人も優しい街モントリオールで、ぜひ次回のファンタジア国際映画祭や、モントリオール世界映画祭を堪能してもらいたい。(小野寺系)