2018年、ホンダF1はトロロッソと組んで新しいスタートを切った。新プロジェクトの成功のカギを握る期待の新人ピエール・ガスリーのグランプリウイークエンドに密着し、ガスリーとトロロッソ・ホンダの戦いの舞台裏を伝える。
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ピエール・ガスリーのドイツGPは、完全に雨に翻弄されて終わってしまった。ホッケンハイムのコース自体は、決して嫌いではない。これまで2016年のGP2選手権で一度走っただけだが、その時もいきなりの速さを発揮した。予選は2番手、レース1ではスタートでエンジンをストールさせ14番手まで転落するが、怒濤の追い上げで最後は3位でチェッカーを受けた。ところがレース後の車検で消火器が空だったことが発覚し、失格処分を科されてしまう。どうも相性が良くないようだ。
しかし今回のドイツGPは、そもそもの速さにも欠けていた。ドライ路面での予選は、アタック中のミスもあって17番手でQ1落ちを喫する。だがQ1で15番手のセルゲイ・シロトキンとは、わずか0.04秒差。なので田辺豊治テクニカルディレクターの囲み取材の際、「普通に走っていれば、Q2に行けたのでは」と尋ねると、「いやあ……」と、あとは言葉を濁していた。ライバルたちが着実に速さを増しているのに対し、自分たちは依然として期待したレベルに到達できていないというのが、後日改めて田辺さんに訊き直した際の答えだった。
トロロッソ・ホンダのパッケージは、長い直線と回り込んだ低速コーナーを有するこの種のサーキットでは、ことさら苦戦することが事前にわかっていた。なのでレースで14位完走に終わったガスリーは、その後の取材でも特に悔しそうな表情も見せなかった。まさかのウエットタイヤを履かされたことに関しても、「驚いたけど、ギャンブルするしかなかったしね。それが外れただけのことだよ」と、淡々としていた。終盤、セーフティカーが出た際にはすでに周回遅れにされており、これではSCのチャンスをつかむこともできないと、完全にあきらめムードだったのだろう。
■ホンダF1のモーターホームをクビカが訪問
ここで話は、がらっと変わる。土曜日の予選後、ホンダのモーターホームにロバート・クビカが入って行くのを、偶然目撃した。ホンダの幹部が外で出迎えていたぐらいだから、単に日本食を呼ばれに来たのでないことは確かだ。ウイリアムズのリザーブドライバーを務めるクビカが、なぜホンダに招かれたのか。
その答えは翌日、山本雅史モータースポーツ部長が教えてくれた。クビカはかねがね、ホンダのモータースポーツ全般を統括する山本部長に会いたがっていたのだという。そこで以前からクビカと親しいある外人ジャーナリストが仲介し、話をすることになったという。
「30分ほど話しましたけど、特に具体的な話題は出ませんでした。純粋に雑談です。名刺をかわそうとしたけど、『ま、お互いに相手が誰だか知ってるし』(笑)。なので、連絡先も知りません」。
とはいえクビカが用事もないのに、わざわざホンダに来るはずもない。ラリーで大けがを負い、一時は現役復帰をあきらめたクビカだが、F1マシンを運転できるところまで回復を果たした。「五体満足のドライバーに、速さでかなうはずがない」という批判もあるが、ウイリアムズのテストでは二人のレギュラードライバーにコンマ7秒以上の大差を付けている。
けれどもロシアとカナダのスポンサーの額に及ばず、レギュラーシートを獲得できなかった。しかし彼のF1復帰の意思は、今もまったく衰えていないと考えるべきだろう。ではなぜ、ホンダだったのか。レッドブルやトロロッソのドライバー選択に、山本部長が大きな権限を持っていないことは、クビサも十分承知しているはずである。それに関しては、クビサを紹介した外人ジャーナリストからある程度事情を聴いているので、また別の機会に紹介できたらと思う。
■トロロッソ・ホンダの不振の一因は、チームとドライバーの経験不足
で、ここで再び本題に戻るのだが、トロロッソ・ホンダの現在の不振は、スタッフ、ドライバーともに、十分な経験がないことも関係しているのではないだろうか。ガスリーにしても速さがあることはまちがいないが、それが結果に繋がるためのもう1ステップに届いていない印象だ。だからこそクビカのような経験と速さと、技術的洞察力に優れた人材が傍にいるべきではないだろうか。
クビカが現役復帰にこだわる気持ちは、理解できるし尊重したい。しかし現実問題としてウイリアムズでやれることは限られているし、彼自身来季も残るつもりはあるまい。かといってレースシートが、突然どこかで空くとも思えない。だとしたら来季1年だけでも、トロロッソ・ホンダの手助けをしてもらうのもありだと思うのだが。