F1第11戦ドイツGPはルイス・ハミルトンが逆転勝利。ポールポジションのセバスチャン・ベッテルはまさかのクラッシュリタイアとなってしまった。F1ジャーナリストの今宮純氏がドイツGPを振り返り、その深層に迫る──。
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右か左か――『運命の分かれ道』、ハミルトンはピットレーンからコースへと、左に横切って戻った。52周目、雨が落ちてきているホッケンハイム、メルセデスはステイアウトかピットストップか浮き足立ち、混乱した。
これは明白なルール違反だ。レース終了後、雷雨のなかFIAは本人とチーム関係者を呼び出した。何らかのペナルティーが下れば母国ドイツGPで初めて達成した“1-2フィニッシュ”が水の泡に。現地時間19時半過ぎに裁定が出た。タイムペナルティも罰金も降格もなく、戒告処分で済み彼らの勝利は“守られ”た。ハミルトンやチームスタッフとともに優秀な弁護士が立ち会っていたのだろうか(?)。ともあれこの完全勝利によってハミルトンとチームは再び首位を奪還できた。
地の利という言葉がある。ホッケンハイムとメルセデス本社のあるストゥットガルトは近い。8コーナーには巨大なメルセデス・スタンドがあり、今年は社員やゲストでいっぱい、親子連れでの観戦・応援が目的だ(ちなみに今年観客総数は前回を超え16万5000人)。
この日は微妙な天候になると予測されていた。だからこそ別の目的(任務)を持った『スポッター』をサーキット周辺に配置。チームは公式天気予報会社『メテオ・フランス』の情報以外にリアルな、ピンポイント情況を独自に入手できたのだろう(他チームはレーダー映像に頼るしかない)。
天候不順なイギリスGPでは英国系チームがスタッフをスポッター役としてあちこちに置いていた。それと同じかそれ以上に多くの人員を周辺に配備すれば、雨雲レーダー画像などよりもさらに細かな生の状態が把握できるはずである。
TVでオンエアされたメルセデスの天候変化に関する無線の内容は、他チームのそれよりはるかに具体的だった。いつから、どこから、どれくらい雨がくるか。42周目には「6コーナーからちょっと来そうだ」(でもこの周にハミルトンはウルトラソフトに交換)。50周目には「ステイ・アウトでいいんだ(大雨は来ない)」。彼らの“サキヨミ”はとても正確、下位チームがギャンブルに出るのがハイリスク・ノーリターンの素人の賭けに感じられた(失礼)。
個人的にはホッケンハイム周りに、気象担当のスポッターをメルセデスは周到に配備していたのではと想像する(これもチーム総合力)。
旧ザックス・ヘアピンでクラッシュしたベッテル。オランダ応援団席のすぐ横だったからどよめきが彼の背中に刺さった。軽くバンク角度がついているアウト側にはみ出る寸前、やや右方向に滑った。わずかなオーバースピードか、白煙はなかったがややロックアップし、ベッテルをもってしてもコントロールできず、まっすぐアウトだ……。
この周の前からハミルトンにぐいぐいギャップを詰められていた。ラップタイム差を見れば歴然である。44周目から毎周1.5~2秒もハミルトンがまさり、22.892秒あったギャップが51周目には12.164秒差。いっきに10秒も短縮されたのだ。これをフェラーリ側が彼に無線でどう伝えたのか、伝えないはずはないだろう。
この前に2度、28周目と37周目には右前輪をロックアップ、後輪のオーバーヒート症状も訴えていた。さらに47周目にはフロントウイングの左上部パーツが最終コーナーではじけ飛んでいる。
「すべて自分のミス」と自戒するベッテルだが、部分ごとに濡れ乾きの路面コンディションで彼のフェラーリはハミルトンのメルセデスに比べ、“苦戦”を強いられていたと読みとれる。今後、ウェット・パフォーマンスの差異の参考になるかもしれない。
――2年ぶりホッケンハイム、ハミルトンとベッテルの運命を分かつような、流転の18年チャンピオンシップを我々は見た。敗れたベッテルが8歳だった95年、雨の第1シケインでミハエル・シューマッハーを初めて見たというエピソードを想い出す。近くのヘッペンハイム生まれの彼はまた地元で勝てず、来年もうその機会がなさそうなドイツGPが終わった。