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ああ、かくも奥深きコスプレの世界!コスプレの完成度を高める造形レイヤーの実態に迫る

2018年07月21日 17:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『天元突破グレンラガン』ラゼンガン/空我 画像提供:空我
コミックマーケットや池袋ハロウィンなどで知られるコスプレイヤーは、“素敵なコスプレ写真”を生み出すことに注力しています。同条件を満たす定義は様々ですが、全体で見れば、原作のキャラクターにどれだけ寄せられているか、平たく言えば化粧や衣装、小道具などのクオリティーが高いかどうかが評価を左右する傾向が見られます。

その中でも、一般的に高難易度とされるロボットスーツや剣、盾、鎧などの製作で、一際高いクオリティーの造形物を生み出す“造形レイヤー”と呼ばれる人たちがいます。自らコスプレをするに留まらず、コスプレイヤーに向けた造形教室を開催することもある、一種の特別な存在です。

コスプレ業界全体のレベルの底上げをしている造形レイヤーを知るため、コスプレ衣装造形の材料などを販売する「コスプレファクトリー」の専属アドバイザーや造形教室講師を務めるコスプレイヤーの空我(@Qooga_13)さんとらぷらす(@laplace0920)さんの2人に話を聞きました。

■造形はハードルが高いわけではない
ーーまず知りたいのが、コスプレ衣装は手作りが推奨されているのかどうか。

空我
正直、人それぞれですね。製作時間がない人であれば買えば良いと思います。ただし、販売している衣装はそこそこのクオリティーなら比較的安く買えますが、クオリティーが高い物だと値段が跳ね上がることがあります。
自分たちの場合は、造りたい衣装がロボットスーツなので売っていても数万円ではすまない。それなら造ったほうが安上がりになります。なので、予算と時間のバランスを考えた時の各自の判断じゃないでしょうか。

ーー造形物は難易度が高いため手を出しにくい気がしますが。

らぷらす
まずはやってみる、動いてみることです。「何からやったら良いですか?」と言う人はまだ入り口に立っていないんですよ。
実際にやってみて壁に当たって、「こういう問題があったんですけど、どうすればいいですか?」には僕らも答えられる。けれど、どんなに造形が上手な方でも「0から教えてください」と言われたら難しいと思います。

空我
僕が始めた時も材料の知識が無かったので、捨てられた段ボールや発砲スチロールをもらって造ったんですね。
それを他のコスプレイヤーさんに見せたら、「それだったら、こういう素材が良いよ」と教えてもらいながら試行錯誤を繰り返した結果、現在はコスプレボードのようなウレタンを使ってロボットを造れるところまで辿り着けたんです。

ーーコスプレの剣や盾、鎧、ロボットなどはどのような素材で造っているんですか?

空我
自分達はコスプレファクトリーのものをよく使いますね。ウレタンや発泡ポリプロピレン(EPP)などの素材から、Gボンド、塗装前の下地に造形ベース、塗装後の光沢を出すのに造形トップなどでしょうか。
それ以外だとホームセンターや100円ショップで購入します。100円ショップはかなり材料が豊富なので利用しているコスプレイヤーは多いと思います。
衣装を造る際は布を買うので、 「okadaya」や「TOMATO」によく行きますし、通販ならやコスプレ衣装向けの布を扱う「キャラヌノ」をよく利用します。

らぷらす
道具に関してはハサミやカッター、両面テープ、あと若干の工作道具くらい。一般の方に馴染みが薄いとしたらカッターの刃ですかね。
多くは銀色の刃を使っていると思うんですけど、僕らは黒刃というものを使っています。切れ味が良いのでウレタンを切るのに適しているんですよ。
僕なんか未だに小学校の裁縫セットを使っているんで、道具は自分の使い慣れた物で大丈夫です。この道具を使わないと造れない物が出てきたら、都度、買い足せばいい。まずは自分の身の回りにあるもので始めるのが大事だと思います。

■塗装スプレーの匂いが一番大変だったのは過去の話
ーー造形では塗装でスプレーをよく使うと聞くのですが?

らぷらす
スプレーは絶対ではないです。造形製作は塗装と合皮貼りという大きく2つに分かれたやり方があるんですけど、合皮貼りは布をウレタンボードに貼り込む、塗装は下地処理をして上から塗るやり方です。
僕は塗装ではスプレーじゃなくて水性ペンキをよく使います。スプレーだと臭うし飛び散るので家でも作業場所を選びますが、ペンキだと場所を選ばないんです。
あとペンキなので絵の具みたいに混ぜることで色も作れます。臭いの元である有機溶剤も入っていないので臭いません。

空我
もちろん、スプレーによっては特殊なメッキ加工みたいに見えるものなどもあるので、多少は使いますが、自分もスプレー自体の頻度は多くないです。

ーー意外と少ないんですね。臭いが本当に大変だと聞いていたので驚きです。

らぷらす
実家とかで製作すると臭いで家族が困るという方が多いと思うんで、そういうのを考えたら水性ペンキですね。実際に入っている塗料の量を考えたらスプレーよりも安上がりだと思いますし。
結局、臭いはスプレーと合皮貼りに使うGボンドに関わってくることなんです。有機溶剤を大量に使うから臭いが強く出る。

なので、合皮貼りでもウレタンの一面にGボンドを大量に使うので、臭いが気になると思います。僕は水性ペンキを使った塗装仕上げでGボンドも接続部分にしか使わないので臭いが抑えられています。
また、そういう意味では造形トップと造形ベースが出たおかげで、塗装でもひび割れが抑えられて合皮くらいの強度が出せるようになりました。

空我
ただし、あまり光沢を出したくない箇所や、ぐねぐね曲がるなど負荷がかかる関節部の場合では、強度のある合皮がおすすめです。
逆に自分は合皮貼りをよくやるんですが、最近はGボンドをあまり使っていなくて、コスプレファクトリーが販売している建材用の強い粘着性の両面テープを重用しているので、臭いがかなり軽減されています。

らぷらす
さらに言うと、最近は合皮+塗装が流行っていて、白でも黒でも良いので塗りたい色に近い素材の安い合皮を選んで貼って塗るというやり方です。
合皮も色んな種類があって、値段もまちまちです。1メートル3000円からのものもあれば、1メートル300円のものまでもあるので、欲しい色を探す時間と費用を抑えるためにおすすめのやり方ですね。

空我
技術の発達で次々と問題が解決しているので、「臭いがきつい」「お金がかかる」など、これまでのようなネガティブなイメージは当てはまらなくなってきました。そう言った意味でも気軽に造形を始めやすくなっていると思います。

■自分で造れば材料費は安く抑えられるが、製作時間を見落としてはいけない
ーーそれでは気になる製作物の予算を教えてください。自分で造るとどれくらい安く済むのでしょうか?

空我
例えば、『天元突破グレンラガン』のラゼンガンのような全身の造形ですと、材料費は2万円前後ですね。ただし、造るのに半年くらい時間はかかっています。製作時間の労力は見落とさないでほしいです。
もちろん、今話したのは全身造形の話なんで、『Fate/Grand Order』 に出て来るような衣装の一部分だけが鎧パーツになっているものがありますよね。それであれば、材料費と製作時間はかなり抑えられると思います。

らぷらす
これから製作を始める人に絶対に勘違いして欲しくないのが、今言った材料費はあくまで一体を完成させるのにかかったものです。
実際には完成させるまでに失敗した材料費も発生しています。実際にかかる制作費の5~10倍は費用が増えると想定してください。新しい製作物にチャレンジする際は試行錯誤するので失敗もたくさんしますから。

僕のこのザクも失敗込みでトータル10万円くらいかかっています。あとは製作時間がかかるということですね。
僕らは受注を受けないのですが、よく製作依頼をしたら30万~40万くらいの見積もりが返ってきて高いと言う人の話を聞きます。一回で成功するはずがないですし、そもそも製作時間への対価を換算していないのでは?とは思いますね。
金額に関しては自分の時間を使うか人の時間を使うかで差が出ます。

ーー造形製作で大変なことはなんですか?

らぷらす
僕はモチベーションの維持ですね。全身造形だと完成まで長い時間がかかる。それが放送中のアニメだと放送期間中に完成が間に合わないことのほうが多いですから。
もちろん、それを上回るキャラクター愛があるからこそ、皆さん完成させているんだと思います。僕らも25年前放送した『疾風!アイアンリーガー』のキャラクターを今造っているのですが、好きだからこそ続けられるのは大きいと思います。

空我
あとは、本当に大好きだからこそ完成度を高めたいので、何回も造り直してしまうんですね。
例えば、ラゼンガンのようなロボットですとフィギュアも出ているので参考にするんですが、その通りに再現しても、プロポーションの問題で人間が入らないんです。
なので、人間が着ることができて、なおかつ写真に映えるようなバランスを目指して試行錯誤を繰り返すことになります。

■完成した造形物はやっぱり多くの人に見て欲しいのでイベントに参加する
ーーお二人は一年間でどれくらい造っているのですか?また、製作物のお披露目イベントの照準は?

らぷらす
僕は全身造形ばかりなので量は少ないですね。

空我
全身造形クラスだと1体造るのに半年くらいかかるんですが、平行して小さい造形物はけっこう造っていますね。『Fate/Grand Order』に出て来る武器だとすぐ造れるものもあるんで。

らぷらす
イベントに関しては、造形をテーマにしたワンダーフェスティバルに照準を合わせる人もいますが、僕らは3日間続くコミックマーケットのほうを楽しんでいます。
来場者の数もすごいですし、コスプレイヤーも多く参加するので皆に会えますから。やっぱり造ったからには色んな人に見てもらいたい思いがあります。

ーーコスプレイヤーだと荷物はキャリーバック一つにまとめられることが多いですが、造形だとそれじゃすまないですよね?

らぷらす
すまないですね。それ(部屋の隅に山積みされたザク装備を指差して)全部がザクです。
車に乗せて会場に向かいますが、全身造形だと更衣室に運び込むのも一人じゃ無理なんで、仲間と一緒に行動します。
装着も大変なので気軽にイベントに持っていって着られる物ではないと思います。

空我
夏は熱中症対策も必要ですから全身造形のコスプレは推奨できないですね。ただし、日光は完全に遮断できるし、メイクをする必要がない利点はあります。
ロボットだと中に空間があるのでファンを仕込んだり、身体に冷えピタを貼ったりといった対策をしています。
コミックマーケットは例外ですけど、自分の場合は暑くなってくる6月くらいからコスプレを控えて製作に専念し、9~10月頃から再開しています。

■ファンタジー作品の人気が強いのもあり、造形をやりたい人が増えて来た
ーーお二人も講師をするなど、業界全体で造形教室が最近は増えています。それだけ造形をしたい人が増えたと言えますか?

空我
それはあると思います。理由としては大まかに二つあって、まずコスプレファクトリーのように造形に必要な材料を安く販売する所が増えたのが一つ。
次に最近流行っているコスプレとして、『Fate/Grand Order』や『刀剣乱舞』など、衣装のどこかに造形物が入っている作品のキャラクターが増えた影響が大きいのではないかと思います。

らぷらす
目が肥えて、売っている物では満足しない人が増えたのもあると思います。例えば、衣装を買ったけれど、肩のパーツの部分が原作とは違って布になっている。
衣装はそのまま使うけど、肩のパーツだけ造り直したいとなった時に造形の知識が役に立つ。既製品を改造することで自分らしさが出せるんです。
造形は表現の幅を広げるための手段なので、僕らも造形レイヤーというよりは、造形をしなくては満足できなくなったコスプレイヤーです。

空我
あとは以前と比べてコスプレに対する姿勢も変わって来ているのを感じます。
昔はコスプレイベントに専属のカメラマンさんを呼ぶこともなく、コスプレイヤーが集まってワイワイやりながら自分達で記念撮影するというノリでした。今はスタジオやロケーションの良い建物、自然の中で良い写真を作品として残すようになってきています。そうなると、造形の完成度も求めるようになるんじゃないかと思います。

■造形において情報交換を大事にしている
ーー造形をする人達同士で交流は盛んですか?

空我
自分たちの周りはわりと交流する人が多いですね。製作物は自分が造って良い仕上がりだと思っても、周りが見た時にそうじゃないこともあるので、意見やアドバイスを聞きたいです。
造形はある程度は方向性が同じでも、細かい所は人によってやり方が全然違うので、情報交換はとても貴重です。自分一人だとどうしても煮詰まってしまいますから。

らぷらす
お互いの製作物を見せ合った際は、表に見えない裏の部分を確認し合っていますね。クオリティーとして見せる部分ではない、時間や予算の節約するための工夫した箇所です。そういう意味ではとくに女性の造形が得意な人は尊敬していますね。

ーー女性は手先が器用なイメージがありますよね。

らぷらす
ここまで造形レイヤーというくくりで話をしてきましたが、厳密にはそんなくくりはないと思うんです。シンプルに言うなら、造形が得意な人と縫製が得意な人に分けられるんじゃないかと。
そこで言うなら、僕は縫製が苦手なんです。ミシンはあるのである程度まではできますけど、複雑な切り返しなどはできません。
女性は造形が上手な人は縫製も上手である人が多いですね。どっちも得意なのがすごい。実は僕の中で勝手に七英雄と呼んでいる女性のコスプレイヤーがいるんです。

ーー七英雄!?かっこいいですね!

らぷらす
あくまでも僕の考えですけど、男性と女性で大きく違うのが、細かい仕事を淡々とできるかどうか。例えば僕なんかは同じ腕パーツを2つ造るだけで辛い。
同じだと飽きちゃうんで。ところが、女性の方で同じ鱗パーツを300個とか平気で造れる方もいるんですよ。自分にできないことができる人は尊敬できる人です。

■新しい技術を発見して広めて行きたい
ーーお二人の今後の目標は?

らぷらす
電気を使った仕掛けが知識として全然ないので、今造っている『疾風!アイアンリーガー』のキャラのサングラスにディスプレイで目を表示させたい。
今の知識だけじゃ絶対できないことですけど、目標にして取り組むプロセスの中で色んな派生の知識が得られるので、今の自分ができないことにどんどん取り組んで行きたい。

空我
電飾関係はコスプレイヤーでやっている方はあまりいらっしゃらないので、そういった他の方も知らない技術をどんどん開拓して、広めて行きたいのはやっぱりありますね。

らぷらす
例えば、コスプレファクトリーで人気が高いEPPフォームは最初から社長が意図していた使い方じゃなかったんです。
普通、発泡スチロールにボンドを付けたら溶けちゃうんですね。ところが、社長に「コスプレの造形として使えそうなんだけどどう?」と送られた発泡スチロール系のサンプルに、Gボンドを試しに塗ったら全然溶けなかったんです。
しかもスプレーも吹きかけられる。ただ曲げても割れにくい発泡スチロールと言う紹介で渡されたのに、そんなすごい素材だったのが判明したんです。

造形トップだって、相性の良い合皮に塗れるんですよ。合皮にエナメルのような光沢が欲しい時は、造形トップとの相性が良ければいける。
それも最初は社長が想定していなかったんですけど、「やってみたらできた!」と。コスプレファクトリーには新たな材料をたくさん試させてもらっています。副作用を見つけたり、社長が意図していなかった効果が得られたりしたことを他の方に伝えられるのは喜びなので、これからも広めて行きたいです。

空我
また、全く何から手をつけて良いか分からない方へのアプローチとして、「とりあえずこれを造りながら学んで行きましょうか?」という提案も必要だと思うんで、そういった意味でも造形教室は今後も続けて行きたいと思っています。(了)


ここまで空我さん、らぷらすさんの話を聞いて、コスプレにおいて造形レイヤーというくくりはないのだと感じました。恐らく昔の造形をする人が少なかった時代で、造形を本格的にやっている人がめずらしかったことから生まれた造語だと思います。しかし、現在のコスプレでは大小、何らかの造形物が欠かせないことが多いため、造形がより身近になりました。そういった意味では、かつてあった“造形レイヤー”という呼び方は今後なくなっていくのかもしれません。

■プロフィール
空我(@Qooga_13)
FGOのおじさんキャラから懐かし系のロボット、着ぐるみ等多ジャンルで活動中のコスプレイヤー。甲鉄城のカバネリ公式『イラスト&イメージ写真集』に造形物作成や一部モデルとして参加。定期的に造形教室も開催しています。また、イベントでのステージ出演、コスプレ修理ブース等の依頼も随時受け付けております。

らぷらす(@laplace0920)
三度の飯よりサンライズ系ロボット作品が好きなコスプレイヤー。洋画からゲーム作品、ネタ系と幅広く好きなものだけをやっています。主にコミケにて「らぷらすちっく」というサークル名でグッズや写真集を頒布しております。今年の夏コミも空我さんと共同のFGOジャンルサークルを金曜日P-4abにて行いますのでぜひお越しください。