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産みたいなら「認知も養育費も求めない」誓約書を書け! 妊娠7週目の女性に非情な通告

2018年07月21日 11:02  弁護士ドットコム

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妊娠した子の父親である男性に「認知も養育費も求めない」という誓約書を書かされたという妊娠7週目の女性から、弁護士ドットコムに法律相談が寄せられました。


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女性は妊娠がわかった後、子の父親である相手男性に相談。しかし、相手男性からは、産むならば、認知も養育費も払わないと言われ、堕ろすことを求められたそうです。それでも産みたいと伝えると、誓約書を書くように言われました。


誓約書に悩むのは女性だけではないようです。別の男性からの相談事例も紹介します。


この男性によれば、妊娠させた相手の女性が「ひとりで育てていくから認知はいらない」と言ったそうです。そこで、男性は認知も養育費の支払いも拒否する旨の誓約書を作ることを考えていますが、誓約書の効力が気になるようです。


「認知も養育費も求めない」という誓約書は、法的に有効なのでしょうか。萱垣佑樹弁護士に聞きました。


●誓約書があっても、子どもには「扶養を受ける権利」がある

認知と養育費の支払いを拒否する旨の誓約書は有効なのでしょうか?


「まず認知についてですが、仮に、認知を求めないとの誓約書を作成したとしても、その約束は無効です。なぜなら、認知請求権を行使するか否かは、子の意思に関係なく決められることではないからです。このような身分上の権利である認知請求権については、放棄することができないというのが、判例の考え方です。


一方、養育費の支払いを求めないとの誓約書を作った場合については、一概にその誓約書は無効ということはできません。ただし、男性から無理やりそのような誓約書を書かされた場合には無効となることもあります」


誓約書はあるものの、その後、やはり養育費が必要になるというケースはどうでしょう?


「誓約書を書いたとしても、その後、母親側で、病気のため仕事ができなくなるなど、事情が変われば、養育費を請求できる場合があります。他方で、民法881条には『扶養を受ける権利はこれを放棄することはできない』とあります。


したがって、仮に、母親が養育費の放棄を約束したとしても、子どもは父親から扶養を受ける権利があり、母親が子どもの扶養ができない場合、子どもは父親に扶養料を請求できると考えられます(子の法定代理人として、母親が父親に請求できます)」


相手の女性が同意した場合であっても、誓約書の法的効力は否定されるのでしょうか。


「先ほど説明した通り、相手の女性の同意があっても、認知を求めないとの誓約書の法的効力は否定されます。一方、養育費の放棄については、一概に法的効力が否定されるとはいえません。


ただし、審判例は養育費を請求しない旨の合意を、扶養料算定の有力な斟酌事由になることは認めていますので、女性の側では、安易に、養育費を請求しないと誓約はするべきではありません」


●父親に無理やり誓約書を書かされた場合、無効にできる?

子の父親である男性には、いつから、どのような義務が発生しますか。また、この義務を免れることはできますか?


「今回のように、結婚していない場合の、子の父親である男性には、いつからどのような義務が発生するかについてですが、父親が胎児認知をした場合には、子が生まれたときから、子が生まれた後に認知をしたときには、『認知届』を提出したときから、父親には子どもを扶養する義務(民法877条1項)が発生します。扶養義務については、免れることはできません」


このような誓約書を書かされた場合、女性がとりうる法的手段はありますか?


「認知に関しては、説明したとおり、認知請求権放棄の約束自体無効となりますので、特に問題はありませんが、養育費については、無理やり誓約書を書かされたのであれば、その誓約書の効力について、法的に無効を主張することができます。


また、仮に、同意の上で書いたとしても、養育費請求調停や扶養請求調停を申し立てるなどし、誓約書を書いた後の事情の変更などを主張することが考えられます。


いずれにしても、誓約書を書く場合には、慎重によく考えてからにすることをお勧めします」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
萱垣 佑樹(かやがき・ゆうき)弁護士
平成25年登録。父親も弁護士で、小さいころから困った人を助けたいという気持ちが自然と養われ、現在、意欲的に弁護士としての活動に取り組んでいる。相談に来た人と同じ気持ちになって解決することが目標。
事務所名:万朶総合法律事務所