2018年07月21日 11:02 弁護士ドットコム
もしも交通事故にあったとき、相手が「無保険」だったらどうなるのでしょうかーー。
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ツイッターでは5月末、「田舎に引っ越したときに衝撃的だったこと」というツイートが9000回以上RTされました。高齢者が免許の返納や失効を忘れて、無免許・無保険で運転していることがあるというのです。
高齢者に限らず、無保険の自動車やバイクは存在しています。国交省と警察が2016年度に街頭で約2万2000台を調べたところ、加入が義務付けられている「自賠責保険」に0.31%(67台)が未加入だったといいます。
また、損害保険料率算出機構の調査によれば、「任意保険」の対人・対物賠償ですら、普及率は各74%ほどなのだとか(2017年)。
交通事故を専門としている弁護士のもとにも、「無保険」事故についての相談が寄せられているそうです。新田真之介弁護士に、事故の相手が無保険だったとき、どういう手段があるかを解説してもらいました。
まず、無保険には、(1)任意保険には入っていないパターンと、(2)自賠責保険にすら入っていない「まったく保険なし」のパターンがあります。
ごくまれに、任意保険には加入しているものの自賠責切れになっていたというパターンもありますが、ここでは除いて考えます。
自賠責保険では、物的損害はカバーされませんので、任意保険の対物賠償に入っている必要があります。およそ保険に何も入っていない場合はもちろん、任意保険の対物賠償がない場合にも、物的損害は保険がきかないので、加害者に直接請求するしかなくなります。
あくまで経験的にですが、任意保険に入っていないような人が数十万円以上の車両修理費を一括で支払える資力があることは極めてまれです。長期間の分割払いでの示談をするか、判決が出ても、その後の執行(たとえば差し押さえなど)に大変苦労することになります。
備えとしては、以下のようなリスク防止策があります。
(A)車両保険
これは自分の車両の損害をカバーできる保険です。相手方からの回収が難しい、または過失割合などで時間がかかりそうだというときに、先に車両保険を使って修理することができます。その後、保険会社が相手方に賠償を求めることになります。
注意点は2つ。(1)そもそも保険料が比較的高いので、あまり多くの人が入っているわけではないという点と、(2)その後の保険料が上がるため、車両保険を使うことが躊躇われる場合があるという点です。
(B)弁護士費用特約
弁護士費用特約は、相手方への請求に関する交渉や訴訟などの弁護士費用をカバーしてくれるものです。比較的保険料も安いため車両保険はないが弁護士費用特約はあるという場合は多いようです。
ただし、弁護士の費用を負担してもらえるだけで、自分に直接金銭が支払われるものではありません。「訴訟、強制執行と弁護士に頼んでたくさんの弁護士費用を保険から払ってもらったが、結局相手方からはほとんど回収できなかった」という結末になることも残念ながらないわけではありません。
人身損害については、加害者側に自賠責保険があれば、その範囲内では自賠責に直接請求をするなどして支払いを受けることができます。
もしも、相手方が自賠責にすら入っていない場合には、「政府保障事業」といって、無保険やひき逃げ(加害者不明)のケースでも、自賠責保険と同程度の基準で損害のてん補が受けられる制度があります。
また、自賠責や政府保障事業では足りない損害については、基本的には相手方に請求するしかありません(この場合も弁護士費用特約を使うことがあります)。自分でできる備えとしては、「無保険車傷害保険」や「人身傷害保険」に入っておくことが考えられます。
いずれも自分の怪我などについてカバーできるものですが、最近では人身傷害保険がかなり普及してきています。両者には細かな違い(被害者側の過失を考慮するかや、損害の算定基準が異なるなど)がありますが、基本的にはこれらに入っていれば、自分の怪我や後遺障害などの人的損害について一定の支払いが受けられます。
このほかに、ケースによっては相手方(運転者本人)が無保険でも、その他の人に請求が可能な場合があります。
(A)各種の公的給付が受けられないかを検討する
健康保険や国民年金・厚生年金などの給付や、通勤中や業務中の事故ならば労災がおりないかを検討するなどです。また、後遺障害が残った場合には介護保険法上の給付なども検討すべきです。
(B)車両の保有者がいないか(「自動車損害賠償保障法」の運行供用者責任)
たとえば、親所有の車を子が運転していたというような場合、親に資力があるケースもあり、保有者の「運行供用者責任」に基づいて請求ができる場合があります。会社所有の車を従業員が運転した場合も同様です。ただし自賠法上のものなので物的損害については適用がなく、人身損害のみが対象となります。
(C)使用者がいないか(使用者責任)
会社の従業員がその会社の業務について運転していたときの事故について適用があります。上の運行供用者責任と実質重なりますが、違いとしては、使用者責任の場合は民法上の制度なので、人身損害だけでなく物的損害についても対象となります。
(D)監督者がいないか
民法の監督者責任(714条)に基づいて請求ができる場合があります。近年、子どもが加害者となった事故について親の責任や、認知症などの要介護者の徘徊中の事故についての介護者の責任など、社会の注目を集める事件もこの点が争点となっていました。
(E)所有者の管理過失がないか
たとえば、車に鍵をさしたまま路上などに放置していて、その間に無断で運転されて事故になったような場合に、管理の状態に過失が認められれば、事故時に運転していない管理者の過失が認められる可能性は理論上はあります(実際上肯定されるのはかなりまれですが…)。
無保険者を相手に賠償請求していく場合には、今回説明したさまざまな仕組みを使いながら、なるべく多く損害がカバーされるように弁護士としては戦略を立てます。
また、どうしても相手方本人に請求するしかないという場合も、請求の方法やタイミング、裁判上の手段をどのように使うかについて日々知恵を絞りながら進めています。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
新田 真之介(にった・しんのすけ)弁護士
交通事故(人身事故、物損事故、損害保険、過失割合)の訴訟・示談交渉を専門に取り扱う。特に、遷延性意識障害や高次脳機能障害、脊髄損傷などの重度後遺障害事件に注力。福岡県出身。東京大学法科大学院修了。
事務所名:新田・天野法律事務所
事務所URL:http://www.nitta-amano-law.com/