2018年07月20日 18:12 弁護士ドットコム
旧・赤坂プリンスホテル跡地に、2016年7月に開業したホテル「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」(東京都千代田区)の厨房設備工事にかかわっていた都内の男性(当時52)が同年5月に自殺したのは、過労が原因だったとして、長野市に住む母親(80代)が7月20日、渋谷労働基準監督署に労災申請を行った。
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遺族側は男性の営業日報などから、亡くなる前の3カ月間は平均月100時間以上の残業があったと計算。納期をめぐる元請け企業からのプレッシャーなどもあいまって、精神障害を発病していたと主張している。
遺族側が主張する、発病前3カ月の残業時間は、直前1カ月が127時間35分、同2カ月117時間45分、同3カ月90時間20分。遺族側の主張が認められれば、労災認定が通る可能性が高い。
2020年の東京五輪・パラリンピックなど観光需要の高まりに合わせ、現在、東京など主要都市ではホテルなどの建設ラッシュが起きている。政府としても後押しする立場だ(観光立国推進基本法、観光立国推進基本計画など)。
申請後の記者会見で、遺族側代理人の川人博弁護士は「観光立国を目指す国策の結果として、労働者が犠牲になるようなことがあってはならない」と警鐘を鳴らした。
男性は大学卒業後、厨房設備の設置工事などを扱うタニコー(東京都品川区)に入社し、約26年勤務していた。
同社は、大手ゼネコン「鹿島建設」の一次下請けとして、「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」の厨房工事を担当。男性が現場責任者として、業務に当たっていたという。
同ホテルを担当するようになって、男性の残業時間は急増。納期に遅れが生じていたことから、鹿島建設の担当者からのプレッシャーもあったようだ。
男性は生前、会社の上司や同僚に「無理です」など助けを求めていたが、川人弁護士によると会社からのサポートは得られなかったという。
「現場監督は板挟み。二次請け、三次請けを指導しないといけないし、ゼネコンは一次請けに強く言う。こうした環境で精神的孤立を深めるに至ったことは想像に難くない」(川人弁護士)
男性の遺書には、母に宛てて、「苦しい思いばかりさせ、今日最大の苦しみを味あわせてしまう事、お許し下さい」などと書かれていたという。
記者会見に際し、男性の母らは、「今後、被災者と同じように、過労で命を落とすような人を出したくないと強く感じています」などとのコメントを寄せた。
タニコーの担当者は「男性が亡くなったことは残念で、必要があれば調査には協力する。ただ、残業時間の解釈について遺族側とは見解の違いがあり、長時間労働はなかったと考えている」。鹿島建設は「詳細がわからないので、現時点でコメントはいたしかねる」としている。
(弁護士ドットコムニュース)