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月蝕會議、Avec Avec、サイプレス上野……『ヒプノシスマイク』支えるクリエイター陣に注目

2018年07月20日 13:52  リアルサウンド

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 2015年に放送開始の『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)や、フリースタイルラップの甲子園こと『高校生ラップ選手権』の人気拡大を皮切りに、国内でラップブームが再燃したのは記憶に新しい。そんななか昨年発表されたのが、男性声優キャラによるラップバトルプロジェクト『ヒプノシスマイク』だ。同作では、登場MCたちがイケブクロ・ヨコハマ・シブヤ・シンジュクの4ディビジョン(地区)に分かれ、ラップバトルが展開される。


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 そんな『ヒプノシスマイク』は、2017年9月のプロジェクト始動直後から徐々にアニソンシーンでの頭角を現し、今年7月18日には4thシングル『Fling Posse VS 麻天狼』をリリースするまでに及んだ。本稿では、そんな同作の人気の要因の一つに楽曲制作を担うクリエイター陣の存在があると捉え、彼らのプロフィールや制作楽曲を紹介する。『ヒプノシスマイク』ファンには、ラップやダンスミュージックに、ヒップホップヘッズには同作への興味を誘えれば幸いだ。


■月蝕會議


 月蝕會議は、パンクバンド・GEEKSのエンドウ(Gt)を中心に、元NIRGILISの岩田アッチュ(Key)らで構成される音楽クリエイターギルドバンドだ。メンバー全員が作詞・作編曲家として活動しており、これまでに上坂すみれ「踊れ!きゅーきょく哲学」や、ももいろクローバーZ「トリック・オア・ドリーム」などを制作。大半のメンバーのバックグラウンドにパンクやロックがあるためか、担当作品からは青天井な爽快感や明るさよりも、明るさのなかに仄めく“ダークさ”を感じさせられるものが多いようにも思われる。


 『ヒプノシスマイク』では、山田一郎(CV:木村 昴)「俺が一郎」をはじめ、本稿執筆時までに最も多くの楽曲を制作。次なる楽曲提供にあわせ、月蝕會議としての作品リリースや、今後のアニソン業界に与える影響が楽しみだ。


■Avec Avec


 Avec Avecは、ポップユニット・Sugar’s Campaignのメンバーとしても活動するトラックメイカーだ。同ユニットのパートナーであるSeihoは、三浦大知に「Cry & Fight」を提供、ラッパー・Kid Fresinoとは昨年「Cherry Pie」を発表するなど、ブレイクビーツやダブステップを中心に制作。一方のAvec Avecは、アーバンテイストなポップスやエレクトロ、ベースミュージックを得意としており、作編曲を担った『ヒプノシスマイク』のFling Posse「Shibuya Marble Texture -PCCS-」では、カラフルな音色で組み合わされたエレクトロを基盤に、Fling Posseの拠点とする“シブヤ”に絡めたのであろう、“渋谷系”バンドサウンドまで手広く抑えている。


 また、近年はアニソン・声優アーティストへの楽曲提供も行なっており、牧野由依「Pastel Town」、中島愛「Odyssey」などは声優エレクトロナンバーの秀作。今後も同カルチャーとの関わりを深めることだろう。


■□□□(クチロロ)三浦康嗣


 三浦康嗣は、いとうせいこう擁するポップユニット・□□□のメンバーだ。2009年リリースの『everyday is a symphony』では、日常に存在する環境音をサンプリングし、楽曲を生み出すという妙技を提示。


 『ヒプノシスマイク』では、「G線上のアリア」をサンプリングした山田三郎(CV:天﨑滉平)「New star」を手掛けており、同じ声優モノでは、女性ユニット・イヤホンズにラップナンバー「あたしのなかのものがたり」を提供している。


 同曲では、トラップ普及後に広まった三連符のフロウが刻まれており、世界のトレンドにも通ずるディレクションがなされていることから、プロデューサーとしての三浦の顔が伺え、次なる楽曲提供も一層楽しみにさせられる。


■サイプレス上野


 サイプレス上野は、横浜を中心に活動するラッパー。サイプレス上野とロベルト吉野として発表した「PRINCE OF YOKOHAMA」など、横浜への愛を強く歌う作風が特徴的だ。


 『ヒプノシスマイク』で作詞を担った碧棺左馬刻(CV:浅沼晋太郎)「G anthem of Y-CITY」においても、〈横には45ラビッド 何をしでかすかわからない〉など、横浜市の市外局番「045」を拳銃の名前になぞらえたボースティングをするなど、サイプレス上野ならではのリリックセンスを光らせている。


 また、『フリースタイルダンジョン』出演時には、初代モンスターとして活躍して人気を拡大したのち、自身監修の漫画『サウエとラップ~自由形~』の連載や、声優・戸松 遥とともに音楽情報番組『ハルカウエノセカイ』(TOKYO MX2)に出演するなど、その活動は漫画・声優カルチャーにまで及んでいる。今後、アニメとヒップホップ文化が強く結びつく際に、キーパーソンの一人になるのかもしれない。


 もちろん、以上のようなクリエイター陣のスター性が楽曲のクオリティに直結するとは必ずしも言えないが、彼らの音楽性が『ヒプノシスマイク』に投影されることで、同作の今後目指すべき方向性も徐々に明らかとなるだろう。


 また、その滑舌の良さと声幅の豊かさを持つ声優だからこそ、監修ラッパーのフロウを自在に演じられることや、既存のアニメ・声優音楽ユニットに対して、音楽構造的な観点から明確な住み分けを行なっていることも、人気の要因に挙げられるだろう。後者において、既存のアニメ輩出ユニットによる“全員曲”では、各メンバーが1~2フレーズを交代で歌うのに対し、『ヒプノシスマイク』では8~16小節のヴァースが割り当てられる。多くのJ-POPがAメロ→Bメロ→サビと展開するのに対し、ラップではAメロ(ヴァース)→フックに直接進行するため、両者の楽曲は同じ数分間のものでも、全く違う構造を伴っている。『ヒプノシスマイク』の楽曲が、各MCのキャラクターを前面に押し出せるのは、このような理由からだろう。


 声優による巧みなフロウ、ヴァースを歌うラップの強み、そして錚々たるクリエイター陣の尽力により、様々な人気要因を兼ね備えた『ヒプノシスマイク』。今後はどのようなクリエイターやラッパーとコラボし、作品展開を行うのか楽しみだ。(青木皓太)