2018年07月18日 20:32 弁護士ドットコム
精神科病院で8日間にわたって身体拘束を受けたことが原因で死亡したとして、東京都の女性(当時54)の遺族が7月18日、病院を運営する医療法人(東京都)に約6200万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
【関連記事:痴漢の高齢男性に女子高生が「回し蹴り」…正当防衛と過剰防衛の線引きは?】
提訴後に東京・霞が関の司法記者クラブで開いた会見で、原告の一人である女性の妹は、「主治医には『こういう事例はよくあることで、この病院でも過去に起きています』と言われましたが、一体姉は何人目の犠牲者でしょうか。不信感と憤りしかない」と語った。
訴状などによると、女性は2016年1月中旬、夜中にひとりごとを言うなどの状況が続いたため、夫に連れられ同月21日に精神科病院を受診。躁状態と診断され、その日に入院した。入院日から両手と腹部をベッドに固定され、8日間にわたり身体拘束を受けた。拘束が解除された28日、心肺停止状態となり、大学病院に搬送されたが、7日後に肺血栓塞栓症のため死亡した。
肺血栓塞栓症は、肺動脈に血栓(血液の塊)が詰まる病気。その血栓の9割以上は脚の静脈内にでき、それが肺動脈に運ばれることで起こる。エコノミークラス症候群とも呼ばれる。
精神保健福祉法にもとづく基準では、身体拘束は(1)自殺などの危険性が切迫しており (2)代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない一時的な処置、として限定的に認められている。女性側は「女性に自殺などの恐れは全くうかがわれず、加えて、予防措置を取る必要性があった」と主張。
また、遺族は、医療事故が発生した医療機関で院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関が分析する「医療事故調査制度」の実施を求めたが、病院側は「制度の適用なし」と報告しなかったことから、死因解明義務違反があるとしている。
女性の妹は「主治医からは『血栓が飛んじゃったんですよー』『飛ぶとは思わなかったんですよね』などと言われ、衝撃を受けました。主治医は立場の弱い無抵抗な姉を一方的に拘束し、家族から遠ざけ、最低限の安全を確保することもしなかった。悔しい気持ちでいっぱい」と話した。
会見に出席した医療問題弁護団の事務局長を務める木下正一郎弁護士は、「2004年からの10年間で、精神科病院で身体拘束される患者数は2倍以上に増加している」と指摘。
「身体拘束は現在も懲罰的側面を持って行われている側面があり、職員の人手不足も一因となっている。本当に必要な身体拘束だったのか。あとで検証できるようにならないといけない」と訴えた。身体拘束に関する意見書を厚労省などに提出する予定だという。
(弁護士ドットコムニュース)