2018年07月18日 18:22 弁護士ドットコム
知的財産戦略本部の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)の第3回会合が7月18日、東京都内で開かれた。ブロッキング反対派の森亮二委員(弁護士)が「もはや緊急措置をとるべきでないということを、この検討会の決議で示すべきだ」と提案したところ、ブロッキング賛成派の川上量生委員(カドカワ社長)が「海賊版サイト対策を邪魔することしかやっていない」と批判するなど、議論が紛糾した。
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違法アップロードされた漫画やアニメが無料で閲覧できる「海賊版サイト」をめぐって、政府は4月13日、特に悪質な海賊版サイトとして「漫画村」など3サイトを名指ししたうえで、法制度の整備までの緊急措置として、民間の事業者(プロバイダ)が自主的にブロッキング(遮断)することが適当とする決定をおこなった。
この決定を受けて、NTTグループ3社が、準備が整い次第、ブロッキングをおこなうと発表。一方、法律家やプロバイダ側から、憲法で定められた「通信の秘密」や「表現の自由」を侵害するという批判があがっていた。3サイトのうち、「漫画村」「Anitube」は現在サイト閲覧できなくなっており、「Miomio」もほとんどの動画が視聴できなくなっている。
こうした状況から、森弁護士はこの日の会議で「現時点でブロッキングに賛成という方も、(政府の)緊急措置をやれということではなく、法律をつくってしっかりしろという意見だと思っている」「緊急措置をすべきでないことをはっきり決議して、通信の秘密が侵害されることを確実に防止していただきたい」と提案した。
ところが、川上委員は「3サイトの後継サイトもすぐにつぶれている。今回の政府対策が『本気』だと思っているから。それに水を差す行為(決議)はメリットがまったくない」と批判した。ほかにも「戦略を立てる会議だ。いたずらに時間を使わずに本旨を議論してほしい」という声もあがった。
これらの発言を受けて、森委員は「できることを一つずつやっていくことが検討会の使命だ。著作権侵害だけ救済されたらいいということであればいいが、『通信の秘密』もこの検討会のテーマだ。何の弊害があるのかわからない」と語気を強めた。川上委員は「できることと言うが、森先生は、海賊版サイト対策を邪魔することしかやっていない。この会議の趣旨に反している」と声を荒げた。
この日の会議ではほかにも、川上委員が、「日本のインターネットの父」と呼ばれる村井純共同座長(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長)に対して、「非常に無責任だ」と噛み付くシーンなどがあった。
ブロッキングは、技術面からの問題点も指摘されている。その一つが、すぐに、ブロッキングの回避策(ブロッキングされたサイトを閲覧する方法)が、一般のユーザーにも知れわたるため、「効果がうすい」というものだ。川上委員は「本当に効果がないと思っているのか?」と問いかけた。
前村昌紀委員(日本ネットワークインフォメーションセンターインターネット推進部部長)は「ブロッキングの回避策はたくさんある。そのため効果は薄いだろう。ブロッキングした瞬間にいたちごっこになる。どうやったらブロッキングを回避できるか、検索すればすぐに手に入る」と述べた。立石聡明委員(日本インターネットプロバイダー協会副会長)も「わりとカジュアルにできてしまう」という認識を示した。
また、村井座長は「回避策はどんどんできていく。そういうものが出てくると思う。それ以上に、サイトブロッキングを含めて、DNSをいじるということは副作用がやばいということが心配だ。その副作用、オーバーブロッキングだったり、構造上の副作用がおきてしまう。それよりも別の方法で効果があり、技術的に追求できるのであれば一緒に考えていきたい」と述べた。
すると、川上委員は「今のお三方の発言は、きわめて無責任だと思う。回避策があるというのは理由にならない。あらゆる犯罪にも回避策がある。いたちごっこになるのは当然だ。回避策があったといっても、全員が使うわけではない。効果が確実にあっても、回避策がある、効果ないというのは詭弁以外の何ものでもない。インターネットの専門家として、非常に無責任な態度だ」と強い調子でまくしたてた。
村井座長は、会議のおわりに「やはり、力をあわせて、本来の海賊版サイト対策の仕組みはどうなのか、考えなければいけない。サイトブロッキングだけではない。日本のマンガ・アニメなどコンテンツがどう健全に発展していけるのか。その中での海賊版サイト対策だ。今後は、立場の違うステイクホルダーが力を合わせて、出口を模索していく方向で、議論をすすめることができればと思う」と話した。
(弁護士ドットコムニュース)