2018年から新シリーズとして開催されているTCR UKに強豪ウエスト・コースト・レーシングから参戦し、ここまで全戦全勝を記録しているダン・ロイド(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)が、7月14~15日にイギリス・キャッスルクームで開催された第4戦に挑むも、そのレース1でトップチェッカーをくぐりながらまさかのペナルティで後退。記録更新の夢が閉ざされる結果となった。
中世の美しい教会や街並みが残る、イングランド南部ウィルトシャー州の小さな村に位置するキャッスルクームが第4戦として組み込まれたTCR UKは、この週末もロイドの連続ポールポジション、そしてシリーズ全勝記録が更新されるかに注目が集まった。
しかしその出鼻をくじくかのように、週末最初のレース1に向け7戦連続の勝利を狙うロイドを抑えてトップタイムをマークしたのは、パイロ・モータースポーツのFK8型ホンダ・シビック・タイプR TCRに乗るオリー・テイラーで、わずか1000分の3秒差でロイドを上回り、連続ポールポジション記録を阻止する力走を見せた。
この時点で「わずかに違和感を感じていた」というロイドはフロントロウ2番手からレースをスタートすると、彼のフォルクスワーゲンはうまく立ち上がることができずに失速。
セカンドロウに並んでいたチームメイトのアンドレアス・バックマン(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)と、エセックス&ケント・モータースポーツのルイス・ケント(ヒュンダイi30 N TCR)に先行され、オープニングで4番手にドロップする苦しい展開となってしまう。
「スタートでは、なんだかクルマにうまく荷重を掛けることができなかったんだ」と振り返った、BTCCイギリス・ツーリングカー選手権レギュラーでもあるロイド。
「正直に言うと、スタートの瞬間は少し違和感を感じたんだ。ライトが消えたとき、なぜかうまくトラクションを得られなかった」
そのオープニングラップでは後続でも波乱が起こり、ウエスト・コースト・レーシング3台目のゴルフGTIに乗る女性ドライバー、ジェシカ・バックマンが、フィンレイ・クロッカー(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)と絡んでクラッシュ。
彼女のフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRはその反動で弾かれ、アウト側のタイヤウォールに激しく衝突。コントロールを失ったクロッカーのシビックRはコーナーのエイペックスを横切り、マキシマム・モータースポーツのスチュワート・ラインズ(セアト・クプラTCR)を巻き込んでコースオフする事態に。このアクシデントで、レースは早々のセーフティカー・ピリオドとなる。
これでコース上にわずか6台となったレースは、リスタートからテイラーのシビックがリードを維持して進むと、30分のディスタンスが残り半分を迎えたところで、スタートで出遅れたロイドが逆襲のスパート。
終盤を迎えてケントのヒュンダイをかわして3番手に浮上したロイドは、続けざまにチームメイトのアンドレアス・バックマンを捉えてついに2番手へ。首位を行くテイラーとのギャップを猛然と詰めていく。
迎えたファイナルラップ。シビックのテールに迫ったゴルフGTIは、クオリー・コーナーでシビックのインサイドに飛び込みサイド・バイ・サイドに。アウト側のラインとなったFK8のテイラーは、ロイドにわずかに接触されたことでマシンがスライドして前に進まず、ロイドが最後の最後で逆転に成功し、そのままトップでチェッカードフラッグをくぐり抜けた。
この時点では集まった観客もパドック全体も、ロイドの勝利と連勝記録の更新を疑わなかったが、唯一レーススチュワードだけが異なる見解を示した。
「最終ラップまでは、とてもうまくレースを運べていたと思う」と状況を語ったテイラー。
「そこまではレースペースをうまくマネジメントしていたけど、終盤にいくつかミスを犯した。それがダンを近づける原因になってしまったんだ」
「クオリー・コーナーではオーバーシュートしないことだけを意識していた。それでインを死守していたんだけど、次の瞬間にはマシンに衝撃を感じた。クルマが大きくスライドし、瞬間的にマシンをトラック上に留めることだけを考えたよ」
「そのまま並んでシケインに入ることになり、両者のマシンがコースオフしないように、自分が後ろに下がるしか方法がなかったんだ」
しかしロイドの方は、これを一般的な“レーシング・インシデント”だと主張する。
「そのコーナーは僕がレース全周にわたってもっとも速く走れたコーナーだった。確実にスペースを残したけれど、彼は少しタイトに寄せてきた。それで僕らはミドルコーナーで接触したけれど、これは典型的なツーリングカーレースのオーバーテイクだったと考えている」
レーススチュワードはテイラーの考えを支持し、ロイドに対し1秒のタイムペナルティを通告。これにより最終リザルトは2位となり、テイラーがTCR UKの歴史上で二人目の勝者となった。
シリーズ全勝記録の挑戦が途絶えたロイドは、続くレース2に向け意地のポールポジションを獲得すると、そのまま全ラップリードを維持して優勝。全8レース中7勝を挙げ、レース1での1秒加算に加えて15ポイント剥奪の憂き目に遭いながらも、シリーズランキング独走状態を維持している。
これで前半戦を終えたTCR UKはサマーブレイクに突入し、次戦第5戦はナショナル・サーキットのオールトンパークを舞台に、8月4~5日に再開となる。