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Yasei Collectiveが語る、NYレコーディングの充実感「一個の“盤”って感じが今までで一番強い」

2018年07月18日 14:02  リアルサウンド

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 Yasei Collective(以下、ヤセイ)のニューアルバム『stateSment』が素晴らしい。ニューヨーク・ロチェスターにあるスタジオ「The Green Room」に赴き、一週間で録音・ミックス・マスタリングまでをすべて終えたという本作は、もともとロサンゼルスでの松下マサナオと中西道彦との出会いを契機に2009年にスタートしたバンドが、9年かけてひとつの円環を描いたことを感じさせる、キャリアにおいての重要作である。


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 ヤセイはこれまでもジャズが現代におけるクロスオーバーであることを体現し続けてきたわけだが、今回改めて「Combination Nova」というテーマを掲げることによって、メロコアからトラップまでを自由に組み合わせ、非常にポップな、風通しのいい仕上がりへと結実させている。この“混ざり合うことで生まれる抜けの良さ”は、人種の坩堝であるニューヨーク、ロチェスターの空気がそのまま内包されているようであり、もう少し言えば、2020年に向けて坩堝化しつつある、未来の東京を描く作品でもあるかもしれない。(金子厚武)


■「最初のコンセプトはいろんなジャンルを混ぜること」(斎藤拓郎)


――アルバム、素晴らしい仕上がりだと思います。ヤセイがアメリカでレコーディングすると聞いて、「もしかしたら、ちょっとマニアックな作品になるのかも」と思ったけど、むしろこれまで以上にポップだし、でも決してストレートというわけではなく、演奏は非常に濃密で、とても一週間でマスタリングまですべてを終わらせたとは思えないなと(笑)。


松下マサナオ(以下、松下):ミチくん(中西道彦)と僕はもともとロスで出会って、帰国してからバンドを始めたんですけど、僕、頭が固い人間なので、「次アメリカに戻るときは、絶対プロミュージシャンとして戻る」って決めてて。旅行で行く分には良かったんですけど、たまたま機会がなくて、今回10年ぶりのアメリカだったんですけど、ロスで同期だったドラマーのマット・ラマーマンのスタジオで録れることになって、ニューヨークも初めてだったし、そこで録音すること自体が今回の僕の中のテーマだったんです。


別所和洋(以下、別所):音楽的なテーマで言うと、「Combination Nova」って曲があるんですけど、そのタイトル通り、それぞれの音楽的土壌というか、いろんなものをミックスする、混ぜ合わせるっていうのは意識してました。たとえば、「Silver」で後半2ビートになって、パンクっぽくなった裏で、僕がジャズの速弾きをしてたり。音をかなり重ねたので、どこに何を入れるかはすごく気を使って精査して、その上でアメリカに行って、バーッと録った感じ。準備期間は大変だったけど、“50m走のために、半年準備した”みたいな感じでしたね。


――作品の出来に関して、斎藤さんはいかがですか?


斎藤拓郎(以下、斎藤):いろんな意味で完成度が高いというか、ポップだし、ミックスの具合も好きな感じだし、すごく満足してます。別所くんが言ったように、最初のコンセプトはいろんなジャンルを混ぜることだったんですけど、それが結果的にすごく自由な広がりを見せたなって。これまでは曲を作るにあたって、自分たちに縛りを設けるというか、「あからさまにポップになり過ぎないように、難し過ぎないように」とか、微妙なとこを突いてたんですけど、今回のコンセプトを意識することによって、自由度が広がって、今までは一発録りにこだわってきたけど、オーバーダブもありになったり、個人的には、メロコア的なギターも解放されたり(笑)、今までで一番楽しかったですね。


中西道彦(以下、中西):オーバーダブに関しては、しようと思ってしたっていうよりは、自分たちが欲しいところに音を入れていったら自然とそうなっただけっていうか、今まで以上に“自分たちが聴きたいものを作る”って感じが強くて、それに尽きるのかなって。大枠で「Combination Nova」っていうコンセプトは決めてたけど、それって結局はこれまでもヤセイがやってきたことであって、それをどう表現するかって考えたときに、今回のやり方になった。その過程として、オーバーダブもあったって感じなんですよね。


――松下さんは今作の音楽的なテーマについてはどう捉えていますか?


松下:「Combination Nova」っていうテーマはあったけど、ミチくんも言ってたように、それって今までやってきたことでもあるんですよね。僕としては、新しい音楽なんてものはもうないと思ってて、結局組み合わせで新しいものができた風になるだけ。あとは見せ方によって聴こえ方が変わったりもするから、そこも含めて「新しい音楽」って言ってる人たちもいるけど、僕はそこに対する欲求はなくて。それよりも、新しい組み合わせをやってる音楽に対してかっこいいなって思うことが多いから、自分たちもそれをやってて、今回はそれがより色濃く出るようにした。こんなにプリプロを詰めたのは初めてだったけど、その分向こうに着いてからの一週間は、僕としては“作業”に近かったかな。


――レコーディングにおける、日本との違いをどんな部分で感じましたか?


松下:日本だと、「23時までやって、一回帰って、また朝11時に集合」みたいな感じなんですけど、向こうは23時になるとマットの友達が「乾杯しようぜ」ってスタジオに遊びに来て、一緒にバーに行くんで、「終わったら終わり、また明日」って感覚が日本とは全然違って。ある意味、逃げられないというか、楽しまざるを得なくて、ストイックになりきらないっていうのが、今までのヤセイとは全く違うところ。「録音中は録音だけだから、お前らマジ集中しろよ」ってスタンスで全員やってたのが、「その録音終わったら、また明日やればいい」って、エンジニアとその友人、こっちのスタッフ含めてみんなで飲みに行くっていう。ティザー映像でもわかると思うんですけど、すごくリラックスした感じでやれました。


――その雰囲気も作品の自由度に繋がったのかもしれないですね。現地の人たちはヤセイの楽曲に対してどんなリアクションをしてましたか?


松下:みんな口を揃えて、「こんなの聴いたことない」って言ってくれて、それは嬉しかった。俺らは本国(US)から盗んできたものを、俺らなりにアレンジして、ヤセイとしてやってきたわけだから、「この10年は間違ってなかったな」って思えましたね。僕は自分のルーツとしてジャズが大きくて、ヨーロッパのジャズもかっこいいけど、やっぱりアメリカでできた音楽だから、ニューヨークの全員が切磋琢磨してる中でできあがっていく、あの様が僕の中のジャズなので、ネイティブな連中にすげえって言ってもらえるのはホントに嬉しかったです。


中西:アメリカで得たものを、日本で熟成させて、もう一回向こうに持って帰るみたいな、ここ2人(中西と松下)はそういう気分が大きかったと思います。


松下:一緒に行ったミックスエンジニアの葛西(敏彦)さんのミックスに対しても、向こうのトップエンジニアの連中が「これはすごい」って言ってて、ものすごく嬉しかったし。アメリカから帰国した当時は、「やっぱり世界は広い」って思ってたけど、今はどんどん狭く感じるっていうか、世界のトップクラスのドラマーと日本で共演したり、今回ニューヨークに行ったりしたことによって、さらにそういう風に感じられました。


■「僕らなりの起承転結みたいなのが実はすごくある」(中西道彦)
――「Combination Nova」という大枠のテーマがありつつ、楽曲自体はこれまでのアルバム同様に一曲一曲を突き詰めていった感じでしょうか?


松下:そうですね。まずは単曲でのこだわりを強く持ってたんですけど、今回は最初から曲順も組んでアメリカに行ったので、これまでより作品感が強くなったんじゃないかと思います。実はマスタリングで曲順が変わっちゃうミスがあったんですけど、それも逆によかった。ダビングも含めて全部同じスタジオだし、結果として、一個の“盤”って感じが今までで一番強いと思いますね。


別所:今回はわりとそれぞれが曲を作ってるんです。今までは拓郎の比重が大きかったと思うんですけど、僕も2曲、ミッチも2曲、マサナオも1曲作ってて。


――松下さんが作ったのは「The Golden Fox」ですね。


松下:僕はみんな作ってるのにリーダーの自分だけ作らないのは申し訳ないと思って、80sのヒップホップみたいなのをスマホのアプリで打ち込んだだけなんですけどね。それをみんなでジャムったらすげえ曲になって、「ありがとうございます!」みたいな感じ(笑)。


――中西さんは「Okay」と「O.I.A.K.A」。


中西:僕のデモもラフで、「Okay」はテーマとサビだけ作って持って行って、「あとはバンドで広げて」って感じでした。でも、「O.I.A.K.A」のビートは指定で、あのビートの感じと、ベースがワブルになってたりするのは、最近のトラップとか、「そこ持ってくんの?」みたいなのを取り入れたくて、その辺はわりと意識的でした。


松下:「O.I.A.K.A」は未だに何拍子なのかよくわかんないまま叩いてる(笑)。一応4/4だけど、ドラムはすごくスリップしてて、そのスリップの仕方も普通じゃない。だんだんずれて行って、Bセクションで6/8になるんですけど、最初は形で覚えて、最終的にクリックと一緒に演奏したら、「こうなってるんだ」って感じでした。


――トラップを意識したのは、「Combination Nova」というテーマがあったからこそ?


中西:まあ、あれ聴いてトラップだと思う人はほとんどいないと思うんで、「てへ」みたいな感じです(笑)。トラップとかって、ちょっとチージーな見られ方をするじゃないですか。それをいかにハイコンテクストに持って行くかっていう。たとえば、今のジャズミュージシャンの中にも、トラップっぽいテイストを取り入れてるって公言してる人がいるけど、それを聴いても、「これはそのままですね」ってパターンが多くて。なので、“俺はもっとひねってやる”っていう。まあ、結局僕のプレイ自体は大したことやってないんですけど(笑)、僕は聴く人が解釈できる隙間があるものがいいなって思ってて、かっちりメトロノームみたいに音が置いてある状態じゃない、有機的なものを求めてるんです。そういう意味での、ハイコンテクストってことですね。


松下:機械的過ぎるとつまんないよね。打ち込みみたいなことを人力でやってるわけだから、もちろん機械的にはなるんだけど、そこは上手く線引きしないといけなくて、常にテイスティでありたい。本気でやってるんだけど、絶対ネタでやってるってわかるラインっていうか、音色もフレージングもギリギリ痛いけど、わざとだってわかる。そこには僕らなりのOKラインが常にあって、今回そこもすごく成功してると思います。


――斎藤さんが書いた「Splash」はアルバムのリード曲になっていますね。


斎藤:「Splash」はレコーディングの1~2カ月前に作りました。ディレクターと飲んだときに、「もう一曲書け」みたいなことを言われて、「あ、はい」って(笑)。メロディとかは今までの延長線上なんですけど、新しいサウンドを意識してデモを作って、サビやAメロの後で鳴ってるシンセの音とかは、今まで使ったことないような音をかなり重ねてるんで、新しいところに行けたかなって。


松下:シンセの音作りはSPECIAL OTHERSの芹澤(“REMI”優真)さんに相談したのもでかいよね。


別所:そうですね。あとすごくポップな曲ですけど、合間に何か必要だなってなったときに、コンテンポラリーなジャズっぽいピアノの音を入れて、それはすごくハマったなって。


――斎藤さんはブログで「アルバムの一番最後の曲に今僕の言いたいことが詰まっております」と書いてましたね。


斎藤:「David」は一番エモいというか、レコーディングのときに一番感傷的になった曲で、聴くと楽しかったレコーディングを思い出すんですよね。これがラストっていうのは、最初から決まってました。


松下:「Trad」で始まって、「David」で終わるっていうことだけは、制作段階から決まってたんです。


中西:「Trad」のイントロのカウントはデモからあの状態で、僕あれめちゃめちゃかっこいいなって思ってて、あのカウントも曲の一部ですね。


松下:でも、あのカウントと、その後にやってる内容全然違うからね(笑)。あれカウントする自分にカウントしないといけないんだけど、確かにかっこいい。あと「David」で最後に8ビートに行くのもかっこいいんですよ。ヤセイは最後に4/4に戻って解放される曲がよくあるけど、あれは特にその感じが強い。「O.I.A.K.A」も最後で「B’zか!」みたいなリフを弾いてたり、そういうのがいいんですよね。


中西:僕らなりの起承転結みたいなのが実はすごくあるんです。自分たちの中ではめちゃめちゃ整合性が取れてる。それが伝わってるかどうかはわかんないけど。


――“結”の爆発力っていう意味では、以前の取材で松下さんが「下半身の練習をめちゃめちゃした」って言ってて、その成果がすごく出てるように感じました。


松下:そうかもしれない。音量も全然変わったし、スティックのウェイトも上げたし、ペダルの設定とかにしても、今わりとロック寄りなんですよね。でもやってる内容は前よりも細かいっていう。ドラムに関しては、結構アンサンブルの中のドラムっていうか、今回は別所のシンセとかの方が前に出てる。ほかのインストバンドよりはそれでも目立ってるけど、でも僕がガーって出るアルバムではなく、控えめです。その代わり、ツアーでは無茶くそ叩いてやろうと思ってるんですよ。


――(笑)。


松下:「何でそんな怒ってんの?」とか「何でそんな楽しそうなの?」って言われるくらいの演奏がしたい。もともとマーク・ジュリアナとかネイト・ウッドに憧れてヤセイを始めたけど、今はどんどんフィジカルなドラマーっていうか、何が起こるかわかんないタイプのドラマーになりたいんですよね。今まで以上におもちゃ箱をひっくり返した感を出したいけど、でもそれをよく聴くと、全部ちゃんとハマってるみたいな。「馬鹿そうにしてる頭いいやつ」ってドラムを叩きたくて、今回のツアーではそれをちょっと出せるかな。


■「ロチェスターでの経験すべてがサウンドに帰結してる」(松下マサナオ)


――別所さんが書いたのは「Snow」と「Three Heads」ですね。


別所:僕のデモはミチくんが言ってたレベル以上にすごく簡単で、メロディとコードと、ドラムがちょっとってくらい。でも、「Three Heads」はマサナオがそのビートをそのまま叩いてくれました。「ドラマーの考えない変なビートだ」って。


松下:あれはビートオブザイヤー。


斎藤:「Three Heads」の曲中に入ってる声は、街を歩きながら録ったんです。ニューヨークはサンプリングする音に困らなかったですね(笑)。


松下:「Three Heads」はロチェスターにあるブリュワー、ビール屋さんの名前で、マットの大親友がやってるので、毎晩レコーディングが終わるとビールケースを持ってきてくれるんですよ。「The Golden Fox」は毎朝行ってたダイナーの名前で、そこもすごくよくしてくれて、最終日は「金は要らねえ」って言ってくれたり。ロチェスターって「コミュニティが機能するとこうなるんだな」って街なんですよね。あそこでの経験すべてがサウンドに帰結してる感じはあるかな。


――「コミュニティが機能している」というのは?


松下:みんなオープンなんですよ。ホントに「多様性」って言葉がそこにあるような感じ。全員違うことをやってるんですけど、全員が認め合ってて、同時にジャッジし合ってる。音楽も食文化も、その中から自然に生まれてて、そこがすごくよかったんですよね。逆に言うと、自分たちがやってきた音楽に間違いはないと思えたけど、日本ではちょっと意固地になってたなっていうのも認識して。昔LAにいたときは、単純に「かっけえことやりてえ」って思ってたけど、どんどん汚れて行ってる部分もあったなって。


斎藤:デトックス的な感じはあったよね。


松下:そう、だから年に一度は行かないとなって思いました。


中西:向こうの人が何であんなオープンなのかって、正確にはわかんないですけど、余裕を持って他人と接して、分け与えるってことがかっこいいことなんですよね、たぶん。しかも自己満足じゃないから、嫌味に感じない。ああなりたいなって、心底思いました。包容力があるっていうか、そこはやっぱり日本と違うなって。


――やはり、人種の坩堝であるニューヨークならではというか。


中西:「多様性を持たないといけない」って自分で思ってるのかもしれない。


松下:やっていけないだろうしね、そうじゃないと。


中西:今回のレコーディングって、大都市のスタジオを使って、ホテルとスタジオの往復みたいなのとは全く違ったんですよね。ジャケットもそのままスタジオの正面の写真にしたんですけど、ローカルに入っていくことによって、いわゆる海外レコーディングの濃さとは比べものにならない濃さがあった。このアルバムにはそれが出てるんじゃないかと思います。


(取材・文=金子厚武/写真=稲垣謙一)