2018年07月17日 10:42 弁護士ドットコム
同級生からゲイであることを暴露(アウティング)された一橋大の法科大学院生(当時25)が2015年8月、校舎から転落死した「一橋大アウティング事件」。7月16日、明治大学で支援者らによる集会が開かれ、遺族側代理人の南和行弁護士から裁判の経過が報告された。
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遺族は今年1月25日付で、アウティングをした男子学生と和解したが、大学側との裁判は続いている。裁判は終盤で、7月25日には大学関係者らの証人尋問が予定されている。
裁判のポイントは、男性からアウティングについて相談を受けていた、一橋大の対応が充分だったかどうかだ。
男性は2015年6月に同級生でつくるLINEグループ上でアウティングをうけた。以来、心身に不調をきたし、心療内科を受診した。
その後、男性は大学の(1)ハラスメント相談室、(2)教授、(3)保健センターにも被害を相談している。しかし、大学はアウティングを「ハラスメント」とは捉えていなかったと、遺族側は考えている。
たとえば、南弁護士によると、大学側の記録などに男性の相談について「ハラスメントというよりも学生委員会での対応がよいかもしれない」(相談員)、「学生間のトラブル」(教授)といったメールの記述があるという。
また、相談員や保健センターの医師は、男性に対し、性同一性障害の治療で有名なメンタルクリニックをすすめている。
しかし、性同一性障害は、自身がどの性別に属するかという「性自認」の問題。一方、同性愛は、どの性別を好きになるかという「性的指向」の話で別物だ。遺族側はここから大学側の知識不足を主張する。
男子学生からしてみれば、相談しに行っているのに、加害者側への働きかけが乏しく、むしろ治療をすすめられる――。自分に問題があるかのように扱われ、「孤独感を味わったと思う」と南弁護士は話す。
そうであれば、大学はどういう対応を取るのが望ましかったのだろうか。明治大の鈴木賢教授は、「大学はアウティングされた後の学生と、クラスメートとの関係を新たに構築し直す必要があった」と指摘する。
これまで異性愛者として認識されていたクラスメートが、同性愛者であることが分かる――。関係性が変化して当たり前なのに、大学は男性とアウティングした男子学生との二者の問題と捉え、男性の孤立化を招いてしまったというのだ。
この事件から、大学や企業の相談窓口は何を考えるべきか。NPO法人Rainbow Soupの五十嵐ゆり代表は、相談員の知見などのレベルアップが必要だと指摘する。そのためにも、組織として対応するとともに、ガイドラインなどを明文化することが重要だと述べた。
2016年8月にこの事件が報じられて以降、筑波大や大阪大、龍谷大などではLGBTなどセクシャルマイノリティーの学生への対応ガイドラインなどが策定されている。一橋大がある国立市では今年4月、全国初の「アウティング禁止」条例も施行された。
男性の妹は、集会に寄せたビデオメッセージの中で、「大学は社会がなぜ動いたか考えてもらわないといけないと思っています」と語った。
12時32分「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」(同級生)
12時40分「たとえそうだとして何かある?笑」(男性)
14時00分「これ憲法同性愛者の人権くるんじゃね笑」(男性)
これは男性がアウティングされた、2015年6月24日のLINEグループのやり取りだ。一橋大OBでNPO法人グッド・エイジング・エールズの松中権代表は、報道でこのスクリーンショットを見たとき、呼吸が速くなり、吐き気がしてきたという。
「アウティングをとっさにうまいことごまかそうとして、『笑』をつけて、そこから80分間、何の反応もないLINEグループの仲間たちがいて。なんてコメントすれば良いんだろうとか、何が正解なんだろうとか。どう答えれば、一瞬の笑いで終わって、これまで通りの仲間たちに戻れるんだろうかとか…」
誰か助け舟を出してくれないだろうか。まずは否定しないと。逆に否定したら怪しいかもしれない。みんなとの関係が崩れる――。「亡くなった彼の心の声が聞こえてくるようでした」
松中代表はその後、勤めていた電通を退職。並行して活動していたNPO法人を運営しつつ、性的指向による差別を禁止する法制度を目指している。
「今の日本社会では、同じようなことは誰にでも起こりうる状況で、私も含め、セクシャルマイノリティ―の方は毎日『綱渡り』のような生活をしているんじゃないかなと思います」
「綱渡り」を強いる要因の1つ「アウティング」とは何なのか。今年4月『カミングアウト』を出版した明治学院大学の砂川秀樹氏(国際平和研究所研究員)は「暴力だ」と指摘した。
(弁護士ドットコムニュース)