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「空飛ぶクルマ」2020年代に実用化へ 本当に実現するのか、経産省担当者を直撃

2018年07月16日 10:22  弁護士ドットコム

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映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に描かれたような未来が、すぐそこまで来ているのだろうかーー。


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経済産業省は今年3月、2020年代に「空飛ぶクルマ」を実用化するための検討を始めた。6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、年内を目途に官民による協議会を立ち上げ、ロードマップを策定することも決まっている。


しかし、現在は2018年だ。あんなに重たいものが10年以内に空を行き交うことなんて、本当にあり得るのだろうか。プロジェクト担当者の1人、経産省製造産業局の牛嶋裕之氏(30)に空飛ぶクルマの「現在地」を聞いた。


●「空飛ぶクルマ」は「車」じゃなかった

ーー本当にあと10年で、自動車が空に浮かぶんですか?


誤解があるので、まずは正確な呼称から紹介しますね。「空飛ぶクルマ」は、正確には「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」です。


ーーえっ? もう一回お願いします


電動・垂直離着陸型・無操縦者・航空機です。車じゃなくて航空機。


私はこれまで、経産省のロボット政策室でドローンを担当してきたのですが、なんで「空飛ぶクルマ」に関わっているかというと、要はドローンに人が乗るようなものだからです。「自動飛行する電動のヘリコプター」と考えてもらっても良いかもしれません。



一般のヘリに使われる「エンジン」は仕組みが複雑で、メンテナンスも大変です。これを大量生産でき、かつ交換可能な「モーター」(電動)に変え、さらに自動飛行(無操縦者)にしてしまう。


こうやって機体と運航のコストを抑え、今は高くて日常的には使えないヘリを、タクシー感覚で使えるようにしようという構想なんです。これならあと何年かでできる気がしませんか?


ーーなるほど、「クルマ」じゃなくて「ヘリ」ですか


経産省がつくった言葉ではないのですが、「クルマ」と言われているのは、「個人が日常の移動のために利用する」という概念を指しているからだと思います。海外では「アーバン・エア・モビリティ」(都市航空交通)などとも呼ばれているようです。


●国内外の状況 日本はまだプレイヤーが少ない

――海外でも空飛ぶクルマは進んでいるんですか?


たとえば、米・ウーバーは、都市内の交通にエアタクシーを利用する「Uber Elevate(ウーバー・エレベート)」構想を発表しています。


2023年に操縦者が搭乗する形でのサービス提供を開始し、2030年代には操縦者が搭乗せずに自動飛行するという計画です。ただし、これはウーバーが掲げている目標であり、実際には各国の航空当局とも調整する必要があるため、もう少し時間がかかるかもしれません。



このほかでは、仏・エアバスも2023年までに「CityAirbus(シティー・エアバス)」を実用化する目標を掲げています。各国の企業が空飛ぶクルマの開発を始めていて、政府が実証実験の場を提供するドバイのように、推進に積極的なところもあります。


ーー日本国内はどういう状況ですか?


日本では、トヨタグループやNEC、パナソニックなどの支援を受けた「CARTIVATOR(カーティベーター)」や愛知県の「プロドローン」などが名乗りを上げています。


ただ、海外に比べると、まだプレイヤーが少ないのが実情です。国内はもちろん、海外のプレイヤーにも日本に関心を持ってもらえるような仕組みをつくるのが我々の仕事です。



●普及には技術と制度に関する議論が必要に 経産省と国交省が連携

――その「仕組み」なんですが、空飛ぶクルマの導入に際して、どんな法律が関係してくるんでしょう?


空飛ぶクルマは航空法の規制の対象になるようです。従来のヘリなどとの違いを考えると、(1)機体と(2)運航について、安全性を確保するための技術と制度が必要になるでしょう。


(1)の機体については、電動であることや自動飛行することに関して、安全性を確保しなくてはなりません。(2)の運航は、どこを飛ぶのかと、どこで離着陸するかという問題です。


現在のヘリコプターは航空法に基づく耐空証明を受けるなどして飛んでいます。電動で自動飛行する空飛ぶクルマについても同じように安全性と信頼性を確保できるのか、技術と制度の両面からの議論が必要です。


たとえば、ヘリコプターはエンジンが止まっても、下からの空気の流れでプロペラが回転することで降下速度を抑えつつ、パイロットの操縦により安全に着陸させることができます。このような安全機能を空飛ぶクルマも備えられるのか、技術的な課題があります。


また、陸上でも自動運転の研究が進んでいますが、空には陸ほどに障害物がありません。そのため自由に飛行できそうですが、実際はそうとも限らない。たとえば、航空機は150m以上の高さを飛行する、離着陸する場所も限られるなど様々なルールがあります。


もし空飛ぶクルマが低空域を飛行する場合は、ドローンでも話題になっている他人の土地の上空を飛行することについて議論があるだろうし、もっと多くの場所で離発着するとなれば、そのためのインフラやルールも必要になります。もちろん、空飛ぶクルマの安全性が技術的に確保された上での議論です。


そういうわけで、空飛ぶクルマの実現に向けては、技術と制度の両面から、私のいる経産省や国交省などの関係省庁が連携して議論していくことになります。


●普及の鍵を握るのは安全性へのイメージ 国民の理解をどう得ていくのか?


ーーやっぱり気になるのは安全性だと思いますが…


やはり、みんな、自分の頭の上は飛んでほしくないって思いますよね。


たとえば、ドバイや中国のように「とにかくやってみる」という方法もありますが、日本には馴染みません。困難ですが、ルールをつくり、安全性を確保してから導入ということになります。そこで大切になるのは、リスクを最小化しつつも残るリスクを許容できるだけの社会的な便益を提示できるかです。


空飛ぶクルマはヘリと同じように、ざっと時速100~200kmくらい出ます。空を使えば、これまで2時間かかっていたところが、乗り換えなしで15分で着くようになるかもしれない。そうなったときの価値って測り知れないですよね。


ほかにも、緊急時に使うドクターヘリというのがありますが、アレは各都道府県に1~2機しかないそうです。しかし、空飛ぶクルマがたくさん普及すれば、災害や緊急時にいろんなところから駆けつけられます。


自動車の普及で社会がものすごく便利になったように、もう一度、空でも「モータリゼーション」が起こる可能性があります。冷静な議論ができる環境を作れるかどうか、チャレンジしたいと思っています。


【取材協力】牛嶋裕之(うしじま・ひろゆき)。1988年1月生まれ、福岡県出身。東京大在学中、ロボット部(RoboTech)部長を務め、ロボコンなどで活躍。同大学院をへて、経産省に入省。2015年からロボット政策室でドローンを担当。


(弁護士ドットコムニュース)