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NICO Touches the Walls、新たな充実期へ 最新EPから感じる“ロックバンドとしての衝動”

2018年07月14日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 メジャーデビュー10周年イヤーを迎えているNICO Touches the Wallsが7月25日、EP『TWISTER -EP-』をリリース。2017年12月にリリースされたEP『OYSTER-EP-』と同様、新曲5曲(DISC1)と同じ曲のアコースティックバージョン(bonus disc)の2枚組による本作には、彼らの最新モードが色濃く刻み込まれている。そのスタンスをわかりやすく言えば“ロックバンドとしての純粋な衝動”ということになるだろうか。


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 2007年のメジャーデビュー以来、「ホログラム」「手をたたけ」などのヒット曲を生み出し、確固たる存在感を放ってきたNICO Touches the Walls。ロックンロール、ソウルミュージック、ファンク、レゲエ、ダブなどの要素を取り入れた多彩なアレンジセンス、メンバー4人の卓越した演奏力に貫かれたアンサンブルは、現在のロックシーンのなかでも完全に際立っている。ここはきちんと記しておきたいが、彼らは決して器用なバンドではない。最初から何でもできたわけではなく、新しいこと、“いまやりたいこと”に突き進み、取捨選択と試行錯誤を繰り返しながら、自らの表現の幅を広げてきたのだ。


 本作『TWISTER -EP-』でも、何にも捉われることなく、ミュージシャンとして純粋に好きなことをやり通すという姿勢はしっかりと貫かれている。それを象徴してるのがリードトラックの「VIBRIO VULNIFICUS」。いなたいロックンロールとエッジーできらびやかな音色がぶつかり合うこの曲は、90年代後半のデジタルロック、オルタナティブロックなどのテイストを感じさせながらも、ソウルを織り交ぜきわめて現代的なロックナンバーへと結びつけている。爆発的なハイトーンシャウトが印象的なボーカル、たどんなに激しく叫んでも豊かなメロディ感を失わないのも、光村龍哉(Vo/Gt)の才能だ。鋭利なラップから繰り出されるリリックも鮮烈。特に〈死ぬまで揺れていたいや 死ぬほど揺れていたいや〉というラインには、変化を恐れることなく、常に新しい音楽を求め続ける彼らのスタンスが反映されていると思う。


 「VIBRIO VULNIFICUS」はテレビ東京系ドラマ『GIVER 復讐の贈与者』のエンディングテーマに起用されている。吉沢亮が初めてダークヒーローを演じることでも注目を集めているこのドラマの原作は、伊坂幸太郎、恩田陸、乙一なども絶賛する新感覚リベンジミステリー『GIVER 復讐の贈与者』シリーズ (『日野草/角川文庫)。復讐する側、復讐される側の人間模様が複雑に絡み合い、驚きの結末へとつながるスリリングな感覚は、「VIBRIO VULNIFICUS」にも共通している。


 その他の収録曲もきわめて斬新、そして刺激的だ。ブルースとニューウェーブ感が混ざり合う「SHOW」、シャープに研ぎ澄まされたギターリフとともにSNSに心を奪われている人たちを〈それ どうだっていいんじゃない?〉と挑発する「FRITTER」、近未来的サーフロックナンバー「来世で逢いましょう」。どの曲にも共通しているのは、意外性に溢れたアレンジと“細かいことを気にせず、とにかく楽しもう”という意志だ。本作における“え、こんなのアリ?”という驚きと“ここまでやっていいんだ?!”という解放感は、ロックミュージック本来のパワーそのものだと思う。5曲目の「Kareki is burning!」は古村大介(Gt)、坂倉心悟(Ba)、対馬祥太郎(Dr)の作詞・作曲、プロデュースによる楽曲。どんな曲かはぜひ実際に聴いて確かめてほしいが、この自由すぎる遊び心もまた、NICOの魅力だ。


 アコースティックバージョンを収録したbonus discであるDisc2も充実。単に楽器を持ち代えているだけではなく、アコースティック的な音響をしっかり突き詰めたうえで、それぞれの楽曲に似合うアレンジが施されているのだ。メロディとリリックはそのまま残し、楽曲のもうひとつの表情を際立たせる生々しい演奏も大きな聴きどころ。そこに流れているのは、自分たちのエゴを押し付けるのではなく、楽曲至上主義とも言える考え方だろう。


 NICO Touches the Wallsは現在、全国ツアー『“N X A” TOUR』 AURの真っ最中。本作『TWISTER -EP-』と同じように「-Electric Side-」と「-Acoustic Side-」を同時進行させる前代未聞のツアーだが(7月29日には山梨・河口湖ステラシアターで「-Lake Side-」とタイトルされた野外ライブも開催)、ここからも“いまの自分たちをできるだけ自由に表現したい”というメンバーの強い思いが感じられる。10周年を迎えた現在も、ベスト盤などのアニバーサリー的な企画ではなく、「OYSTER」「TWISTER」と攻めの姿勢を反映させた新作を次々とリリースしている彼ら。NICO Touches the Wallsはいま、ロックバンドとしてもっとも充実した時期に突入しつつあるようだ。


■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。