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Nulbarich、Suchmosら“次世代シティポップ”シーンの変遷 新風吹き込むRAMMELLSへの期待

2018年07月12日 19:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年初夏、次世代シティポップ・バンド・ムーブメントから躍進したアーティストの活躍が目覚ましい。シーンを切り開いたSuchmosはロシアW杯中継などで流れまくった“2018 NHKサッカーテーマ”「VOLT-AGE」を手がけ、Nulbarichは敬愛するジャミロクワイの日本武道館をサポートアクトとして盛り上げ、さらに年内には日本武道館ワンマン公演も控えている。続いて、Yogee New WavesやLUCKY TAPESがメジャーデビューを果たすなど、枚挙にいとまがない。もはや“シティポップ”というジャンルワードは何処吹く風という勢いで、それぞれのアーティストがそれぞれのオリジナルを確立しつつある。


参考:Suchmos「VOLT-AGE」は日本を代表するアンセムに? 海外ミュージシャン×サッカー例から考察


 そんななか、男女混成バンドRAMMELLS(ラメルズ)の新作ミニアルバム『take the sensor』に注目したい。ブラックミュージックからの影響を、ロックやジャズ、ファンク、フュージョン、シューゲイザーなど、さまざまなエッセンスを取り入れた演奏力で昇華する、清濁併せ持つ、痒い所に手が届くグッドミュージックを生み出す4人組バンド。結成から2年でメジャーデビュー。初期はアシッドジャズ的な世界観を醸し出していたが、今では渋谷系的センスを彷彿とさせながらもよりポップなフィールドへと足を踏み入れ、その進化は止まらない。


 バンドの結成は2015年8月。もともとギターの真田徹がSuchmosのキーマン、YONCEとOLD JOEというロックンロール・バンドを組んでいたことからヒストリーは始まる。RAMMELLSは、OLD JOE解散後に真田が大学時代の先輩だった黒田秋子(Vo/Key)、村山努(Ba)を誘って誕生。当初から、次世代シティポップ・バンド・ムーブメントとでもいうべきSuchmos 、Nulbarich、WONK、Awesome City Club、LUCKY TAPES、Yogee New Waves、Tempalayなどと名前が並ぶことの多かった彼ら。


 ここで、 “シティポップ”というジャンルワードを再検証してみたい。ロバート・グラスパーやディアンジェロなどブラックミュージックからの影響を基盤としながらも70年代邦楽センスを取り入れたポップスを鳴らす若手アーティストを包括するムーブメントというイメージ。いや、それすらも第三者目線として偏っているかもしれない。音楽ジャンルを表現するキーワードとして“シティポップ”には若干の曖昧さが残ったが、東京インディーズ・シーンのバズワードとなり、それぞれのバンドの背中を押したことは間違いないだろう。なお、気になるバンド名は伝説的なアーティスト、ラメルジーの名をもじってRAMMELLSと名付けられたという。


 2016年10月には7曲入りのミニアルバム『natural high』をリリース。評判が広まるなか、2017年12月にメジャーデビューアルバム『Authentic』を発表。着実にレベルアップを感じさせるなか、2018年7月11日にリリースされたばかりの本作『take the sensor』では、熱量を持って歌が届く芯の強いサウンドへ進化している。黒田による、思いの強さを言葉にした、“窮屈さへの疑問を定義する”パンキッシュなリリックも胸に残る。


 メンバーの3人は、昭和音楽大学の卒業生。真田は、父親が管楽器屋をやっていたことがジャズとの出会いだった。黒田と村山はポピュラー音楽コースを専攻していた。黒田は、映画音楽好きから高じてJ-POPを経由してジャズシンガー、マリーナ・ショウやボビー・マクファーリンへたどり着いた。村山のルーツはメタル。プログレでテクニカルなバンド、Dream Theaterを崇拝するなど、三者三様のバックボーンを持つ。そこに、第四のメンバーとして彦坂玄(Dr)が参加して今に至る。


 1970年代に生まれた“シティポップ”文化の誕生から数十年が経過。1990年代にリミックス文化とともに渋谷系へ転生し、さらに20数年の時を経て2018年へたどり着いた“いま”。RAMMELLSは、センスフルな東京発の“街の音楽”を牽引していくかもしれない。そう思わせてくれる強度の高いポップアルバム『take the sensor』の誕生だ。


 なお、先行配信されたリードチューン「Sensor」は、ストリーミングサービスSpotifyで多くの人気プレイリスト『元気Booster』、『Women’s Voice』、『Summer Time』、『Tokyo Super Hits!』、『Weekend Buzz Tokyo』、『キラキラポップ:ジャパン』などにリストインしている。SNSでの人気を指標とする『バイラルトップ50(日本)』チャートでも上位にランクインしたナンバーだ。そこで、CDやダウンロードでのリスニングはもちろん、SpotifyやApple Music、LINE MUSIC、KKBOXなどストリーミングサービスの手引きとなるように聴きどころを、気になる歌詞を交えて解説していこう。


M1.「Sensor」作詞:真田徹 作曲:村山努
不穏なイントロダクションから一変して〈ありかなしか僕が決める 望んだものは手に入れる〉とポジティブに突き進む、跳ねるビートが心地いい力強いロックチューン。


M2.「FINE」作詞・作曲:黒田秋子
優しく刻まれたギターが気持ちよく、浮遊感あるポップセンスがキュート。〈やりたい事は全部やりつくせ girls〉というフレーズがキャッチーな破壊力を持つ。自らを奮い立たせるために生み出したという自由をテーマとするナンバー。


M3.「YOU」作詞・作曲:黒田秋子
自問自答? 葛藤を表現するかのように無機質なニューウェーブ風味なビート感を取り入れながらも、サビで展開される〈明日はもっと綺麗で IT’S SO GOOD.IT’S SO GOOD.〉のフレーズがとろけるように甘いポップチューン。


M4.「blah blah」作詞・作曲:黒田秋子
裏へ裏へとメロディが展開されていきながらも、〈大人だからなんてのは 理由になっちゃいない 力で巻かれるなんて冗談じゃないよ〉と言い放つキラーワードの強さ。〈君だけのチューニングポイントだけはしっかり持っとけ〉という言葉にも心を鷲掴みされる。


M5.「Night out」作詞・作曲:真田徹
 メロディアスに浮遊する「Night out」が持つ旋律の美しさ。〈きみの好きなことを奪われたらどう思う? あの子の遊び場を奪うな それだけだよ〉というリリックが、風営法で摘発されたクラブ問題をはじめとしたあらゆる事象を彷彿とさせ、リスナーに問いかける。〈ただそのままでいい ただそれだけでいい 特に歌うことがなくたって良いじゃないか〉というフレーズに込められた、バンドが考える“音楽の在り方”にも心を揺さぶられる。


M6.「愛のパラリア」作詞・作曲:黒田秋子
メロウなビートにたゆたう「愛のパラリア」。センスのよさを感じるポップミュージックの突き抜け感の面白さ。日々の生活から感じられる“ファンタジーの要素”をリアルと溶け合わせてストーリーテリングするRAMMELLSの魅力が詰まった一曲。


 「Sensor」のMVにおける後半のシーンで、ボーカル黒田秋子は何でも口に入れ飲み込んでみせた。RAMMELLSが持つ音楽性の深さを体現するシーンだと思う。骨のあるライブバンドとしても評価の高いRAMMELLS。2018年下半期のポップシーンをざわつかせる逸材として、要注目な新しい才能だ。(ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) )