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石原さとみ、『アンナチュラル』と対照的な役に 『高嶺の花』が描く“おいしい”と感じる喜び

2018年07月12日 13:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 生きるために食べる。石原さとみが主演を務めたドラマ『アンナチュラル』(TBS系)は、死を通して生きることの尊さを描いたドラマで、人間の三大欲求のうちの1つである“食欲“を満たすシーンがたくさん出てきた。


 そして7月11日にスタートした石原主演のドラマ『高嶺の花』(日本テレビ)でも、食事シーンが主人公・月島もも(石原)の心情を表すものとして用いられる。


 華道の名門「月島流」本家に生まれた令嬢であるももは、結婚当日に恋人の浮気により婚約破棄され、精神不安に陥っていた。心優しき妹のなな(芳根京子)は、寝てばかりのももを気がかりに思い、朝ごはんを差し出すも、パンをかじるももの表情は浮かないまま。


 のちに、ももはレストランでななに、婚約破棄のショックにより、自律神経が乱れてしまい、味や匂いがわからなくなったと打ち明ける。食欲・性欲・睡眠欲の三大欲求の低下は心が疲れている証拠。偶然か『アンナチュラル』の第1話でも石原演じる三澄ミコトは恋人に振られていたが、ミコトは淡々と口に食べ物を放り込んでいた。


 この対象的な姿から思うのは、ももが弱いのではなくミコトがあまりにも強かったということだ。ももは、ななをはじめとした家族や、風間直人(峯田和伸)らの商店街の人たちと話すとき、早口でぶっきらぼうな口調になる。それは溢れてしまいそうな悲しみを隠すゆえの、強がりの現れなのだろう。家柄や才能が完璧で生きてきた人間にとって、婚約破棄は屈辱以外のなにものでもない。「人の目なんてどうでもいい」と父・市松(小日向文世)に言っていたものの、やはり彼女は他者に弱さを見せられず、荒れ狂う心のストッパーの役割を人の目が果たしていた。


 実際ももは、1人になってしまうと暴走気味になる。元恋人・吉池(三浦貴大)にストーカーまがいの行為をし、家族に迎えに来てもらうというのは衝撃的な幕開けだった。また、直人の自転車屋でジャージに着替える際、鈴の音とセミの声をバックに、パニックに陥っている姿が見受けられたが、その石原の表情には恐怖を覚えるほど。


 だからこそ、直人が作った味噌汁の香りと味を楽しむももの表情は非常に温かく感じられる。無機質な白い部屋で食べたトーストではなく、地べたに座ってちゃぶ台で食べる普遍的な朝ごはんが、ももの日常を取り戻していく。もちろん、その前日にスナックで語った“喜怒哀楽”の話がももの心を動かしたわけだが、第1話は言葉のないシーンがストーリーに彩りを与えていったように感じる。


 ただ本作の中で少し疑問に残った部分もある。それは容姿に対する描き方だ。心に問題を抱える中学生・宗太に対して、お腹をつまみながら言う「お風呂上がりに鏡も見ないでしょ」というももの発言や、お見合い相手の特徴的な胸を「バルーン」と呼ぶシーンなど、身体的特徴から人を判断するシーンがあったが、それは少々オールドファッションな気がする。この描写が登場人物を改心させる一要素であってくれることを願いたい。


 ところで、序盤で寝不足のももをななが起こしに来るシーンで、ももは朝まで起きていた理由として海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の名前を挙げていた。『ウォーキング・デッド』でも『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でもなく、あえてのHBO作品『ゲーム・オブ・スローンズ』であるところに、ももへの好感度が思わず上がる。


 『高嶺の花』はHuluで見逃し配信されているが、実は『ゲーム・オブ・スローンズ』もシーズン7まで配信しているのはHulu。ここが繋がっているからかと疑ってしまえど、人がたくさん死ぬ重たい『ゲーム・オブ・スローンズ』廃人と化す石原さとみの姿は、純粋に海外ドラマ好きにとって軽いサプライズだった。


 さて、小野小町の「花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」で幕を閉じた第1話。自身の美貌の衰えを花に重ねたこの歌とは裏腹に、ももは甦った嗅覚で花の香りを存分に楽しみながら凛とした美しさを見せつける。そんな返り咲いた高嶺の花には、どんな虫たちが群がってくるのだろうか。(阿部桜子)