2018年07月12日 10:12 弁護士ドットコム
死刑が執行されたオウム真理教元代表、麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚の遺骨をめぐって、妻や子どもなど、親族間で「争奪戦」が起きるおそれが心配されている。
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報道によると、法務省は、松本元死刑囚から事前に示されたという意向にもとづいて、四女に遺骨を引き渡す方向で話をすすめていたが、四女側が「身の危険を感じる」として、すぐに受け取らないとしたため、遺骨は当面の間、東京拘置所で保管されることになった。
一方、三女は7月9日、ブログを更新した。「父が四女を遺体の引取先として指定したという話について、父が東京拘置所の職員と意思疎通ができなかったという客観的な事実からも、作られた話ではないかと感じております」とつづった。遺言状はないという。
三女側は、元死刑囚の妻に遺骨を引き渡すようもとめているようだ。遺骨の引き取りをめぐっては、一般家庭でもトラブルに発展することが少なくない。三女は「争いは生じていない」と強調するが、今後の展開次第では争いに発展するおそれもある。
四女の代理人は7月11日、記者会見を開いて、遺骨をパウダー化して、太平洋の不特定地点に散骨する考えを明らかにした。はたして、本人が亡くなったあと、遺骨は誰のものになるのだろうか。村上英樹弁護士に聞いた。
「古くからある判例の考え方では、遺骨にも『所有権』があるとされていますが、法律上、『誰のものになるのか』という明文の規定はありません。学者によって、考え方がわかれています。また、すでに埋葬されている遺骨と埋葬されていない遺骨でも、結論が異なってきます。
埋葬されている遺骨は、墳墓(お墓)に含まれるとされています。そして、墳墓(お墓)の所有権は、民法のルールで、『祭祀を主宰すべき者』が承継するとなっています。その順番は、第1に『亡くなった人による指定』、第2に『慣習』、第3に『家庭裁判所の指定』とされています(民法897条)。
たとえば遺言で、『祭祀主宰者として●●を指定する』などと定められていれば、その指定された人が遺骨も引き取ることになります」
「埋葬されていない遺骨については、民法897条がそのまま適用されるわけではなく法律の解釈の問題となります。
かつて、宗教団体の教祖夫妻の遺骨の所有権をめぐって、同居して世話をしていた信者と養子で争われたケースがあります。
このケースにおいて、最高裁は、遺骨の所有者を『慣習に従って祭祀を主宰する者』である養子にある、としています(平成元年7月18日判決)。
「しかし実際は、亡くなった人が生前、自分が死んだ後のことを考えて、自分の霊をまつってほしい人を指定しているケースは少ないでしょう。親族での話し合いによって、配偶者や子どものうちから、『祭祀を主宰すべき者』を決めることになります。しかし、親族間が仲違いしている場合、そう簡単には決まりません。
最終的には、家庭裁判所が決めることになります。その場合、亡くなった人との身分関係や生活関係、亡くなった人の意思、親族それぞれの状況などを総合的に事情を判断して、亡くなった人が自分の遺骨を誰に委ねたいと考えていたのかという観点から最もふさわしい人が指定されることになるでしょう」
今回のケースはどうなると考えられるのだろうか。三女のブログによると、東京拘置所から「親族間で解決するまで遺骨をお預かりします」という連絡が、元死刑囚の弁護人にあったという。
「今回のケースは、松本元死刑囚が遺骨の引き取りについて法務省がいうような意思を表明していたとすれば、それにしたがって四女が引き取るべき者となります。
ただ、ニュースで報じられているとおり、その意思表示が本当になされたものかについて異論が出されています。
したがって、まず、法務省のいう松本元死刑囚の意向について、松本元死刑囚が本当に意思表示したものか、それが真意からなされたものか、がポイントになります。
この松本元死刑囚の意向で決まらない場合には、先ほど説明したとおり、親族の考えが対立すれば、最終的に家庭裁判所が総合的な事情をもとに決めるということになります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村上 英樹(むらかみ・ひでき)弁護士
主に民事事件、家事事件(相続、離婚など)、倒産事件を取り扱い、最近では、交通事故、企業顧問業務、不動産問題、労働災害、投資被害、医療過誤事件を取り扱うことが多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。
事務所名:神戸シーサイド法律事務所
事務所URL:http://www.kobeseaside-lawoffice.com/