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シリーズドラマは視聴者を獲得し続けるか? 『絶対零度』にみるロングセラー化の有効性

2018年07月12日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『スター・ウォーズ』『ジュラシック・パーク』、ついには『ハリー・ポッター』に至るまで、続編ないしはそのサイドストーリーという形で、新たな作品が次々に制作されるようになった昨今。大概、シリーズ作品の続編が制作されるとなると、それを「待ってました」と喜ぶ人々がいる反面、「もういいよ。あれで完結で良かったんだ」とネガティブに捉える人々もいる。ファンによって評価が分かれるところなのであろう。


参考:沢村一樹の“ダークな一面”が物語のポイントに? 『絶対零度』過去シーズンとのリンクにも注目


 海外映画と日本のドラマを同じように論じたいわけではないが、ここで話を日本の月9ドラマ(フジテレビ系)に移したい。ここ最近は、『民衆の敵~世の中おかしくないですか!?~』『海月姫』『コンフィデンスマンJP』とチャレンジングなテーマの作品で勝負してきた本枠であるが、今クールは2010年にシーズン1が放送された『絶対零度』の続編として、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』がスタートした。


 昨今、月9ドラマでは『ガリレオ』『HERO』『コード・ブルー』といったシリーズ作品が成功を収めてきた。というよりむしろ、こうしたシリーズものは安定的に視聴者を獲得しうる時代にあるといえよう。多くの識者が指摘することであるが、例えばテレビ朝日は特にそのトレンドを意識しているように思われる。新ドラマの開拓を進めつつも、『相棒』『ドクターX』『科捜研の女』という、いわばロングセラー作品を長い期間かけて作り上げてきたテレ朝。実際、今クールの『刑事7人』『遺留捜査』の2作品をいずれも続編作品として放送する。また『緊急取調室』など、長期的なシリーズ化の“種”ともいえる作品も抱えており、これからもそうしたドラマが増えていきそうな気配がする。


 確かに日本のドラマは海外と比較すると、シーズン〇〇(数字)としてカウントされるようなシリーズ作品は少ない方なのだろう。ただ、先に述べたように、日本のドラマからももっと多くの続編作品が出ることを期待して良いのかもしれない。往年の時代に比べると、ドラマ離れが叫ばれる昨今ではあるが(録画や見逃し配信で視聴していたりして実際のところははっきりとは分からないけれど)、ある程度のクールを空けて、シリーズ作品を安定的に視聴したいと思う層は少なからず存在する。だからこそ、「また続編ですか」とか「同じパターンでしょ」という評価があるかもしれないが、果敢に作り続ける意義はあるといってよい。


 ただそのためには、できるだけ“マンネリ化”から遠ざける必要があるわけだが、長く愛されるロングセラーとなると、今の時代では “医療モノ”や“事件解決モノ”が好まれる(もちろん、その気になれば長い恋愛モノやコメディを作ることも可能だけれど)。こうしたジャンルの作品は比較的、老若男女問わず視聴する。ただ、それに加えて、ヒロインやヒーローのキャラクター、物語の中心となるチームの編成、主人公のバディを変えることでも作品全体のカラーを大きく変えることができるとともに、物語の背景や状況設定、テーマを比較的多くのアプローチで描くことが可能であるという特徴もある。


 例えば、今回の『絶対零度』で言えば、シーズンごとに“未解決事件”→“特殊犯罪潜入捜査”→“未然犯罪”とテーマを明確に動かすことによって、各シーズンで作品のカラーを変えてきた。『相棒』はこうした工夫を最大限に凝らしたドラマといってよい(昨年でシーズン16を迎えた)。杉下右京(水谷豊)という特徴的なキャラクターを主人公に据え、彼の相棒役、警視庁の面々、あるいは政治家を、各シーズンで変えたり再び登場させたりしつつ、日常の喧嘩で生じた殺人事件から国家を揺るがす大事件まで描き、作品の重厚感はシリーズを増すごとに強くなっていく。


 『絶対零度』に話を戻すと、今作では、シーズン2の最終話に出演した横山裕、前作と前々作で主演を務めた上戸彩は引き続き出演(ただ、上戸演じる桜木は第1話で死亡した?)するものの、基本的にはキャラクターを一新させた。主人公は沢村一樹演じる井沢だが、“ミハン”に懐疑的な山内(横山裕)が物語を通じてどう変わっていくのかが気になるところだ。


 何もみんながみんな『相棒』をモデルにする必要はないけれども、続編ドラマを打ち出していくことで見えてくる可能性はあるように思える。むしろシリーズ化した作品だからこそ楽しめる要素があるのだ。シリーズ全体を一つの作品とみなしてその世界を楽しむのでもいいし、シリーズごとに変わる主題に着目するのでもいい。『絶対零度』をはじめ、今後の多くのシリーズ作品にも期待していきたい。(國重駿平)