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完全アウェーの熱気をはね返した、ベッテル抜群のスタートダッシュ【今宮純のF1イギリスGP決勝分析】

2018年07月10日 12:51  AUTOSPORT web

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2018年F1第10戦イギリスGP セバスチャン・ベッテル
熱波が続く英国、熱気につつまれたシルバーストーン、第69回イギリスGPはトップ4が魅せた激闘にわきあがった。 

 表彰台では勝ったセバスチャン・ベッテルより2位ルイス・ハミルトンへの声援が多かった。ほかのGPと違い、フェラーリ・ファンの“赤”やマックス・フェルスタッペン応援団の“オレンジ”が目立たなかった週末。いまや国民的ヒーローのハミルトン、かつての『ナイジェル・マンセル時代』や『デイモン・ヒル時代』を超える。


 完全アウェーの熱気のなか、フェラーリPUがスタートから抜群のダッシュ力を見せつけた。メルセデスの“予選パーティーモード”が話題になってきたが、最近フェラーリの“決勝スタートモード”はグリッド順位ハンデを瞬時にアドバンテージに変えてしまう。渾身のポールポジション・ハイパーラップを予選で演じたハミルトンをベッテルがたちまち抜き去った。メルセデスはまるで止まっているようだった。

 これは想定外ではなかったかもしれないが、バルテリ・ボッタスと競り合うライコネンが3コーナーのインサイドを突きブレーキロック。追突されたハミルトンはコースアウト、後続が回避したので最悪の事態はまぬがれたが(もしあそこで終わっていたらとんでもないことに……)。

 想定外のピンチに陥った彼は冷静さを失っていなかった。無線で放送禁止用語を叫ばず、17番手からいま自分がやるべきことに集中し1台また1台と慎重に抜いていく。オンボード画面から忙しいステアリング操作や、バイブレーションがときどき見てとれた。ところが数周するうちにそれがおさまった。「コクピット内で可能なアジャストを試みた」と言うハミルトン、抜き上がる間もタイヤケアを心がけた王者の平常心、これがベテランの強さ。



 ひと昔前は首に負担がかかるコースではネック・サポートをヘルメットに付けられた(今はできない)。軽々に「3連戦の蓄積疲労が出た」とは言えないものの、土曜からベッテルはフィジカル面で不安を抱えた。後になって思えばたしかに土曜FP3途中でマシンを離れた彼は眉間にしわを寄せ、なにかに耐えている(ようだった)。

 余談だがここシルバーストーンは地盤がとても固い。「だからほかのサーキットのようにコース外とパドックを結ぶトンネルが無い」、と聞いたことがある。2月に全面再舗装されていままであったバンプもスムーズな路面になったと想像したのだがそうではなかった。金曜FP1から路面がバンピーだという声がドライバーから出た。土曜さらにタイム次元が上がると、マゴッツの高速S字区間などでライコネンのヘルメットが上下・左右に微振動しているのが見られた。通常のバンプと違う路面・共振によってそうなったのだろうか……。

 首の周りにテーピングをしたベッテル、メディカル・チェックでは問題無かったのだろう。スタートダッシュ後、5周目に5.188秒リードするとギャップをコントロール。2度のセーフティカー(SC)導入ランがもしかすると彼にとってはいい“首休め(?)”になったのかもしれない。

 またこのSC導入によってハミルトンはステイ・アウトしてタイム差を詰められた。そのたびに大観衆から大声援、52周レースの“ファイナル・ヒート10周”がめったにないF1スプリント・ステージに。

 47周目にベッテルがボッタスを抜き1位、48周目にはハミルトンが2位、49周目にはライコネンが3位。ここまで30周前後も長いスティントで粘ったボッタスは彼らの“引き立て役”に、チーム団体戦をまっとうするしかなかった。

 ハミルトン個人vsフェラーリ軍団となった今年の『バトル・オブ・ブリテン』を、イタリアン・チームが席巻勝利。ハミルトンがイギリスGP最多優勝となる6勝目になるかと注目されていた完全アウェーの試合で、逆にフェラーリが最多の17勝目となった。今シーズン21戦の折り返し地点をチャンピオンシップ首位でターン。ベッテル勝率40%は13年レッドブル時代にも匹敵する――。