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FUNKY MONKEY BABYSがシーンに残したもの メロフロートのカバー曲から考える

2018年07月10日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 メロフロートのニューシングル『悲しみなんて笑い飛ばせ』が、掟破りともいえるFUNKY MONKEY BABYSのカバーということで話題になっている。メロフロートはFUNKY MONKEY BABYSと同じ2ボーカル&1DJという編成であるし、彼らはこれまでにもFUNKY MONKEY BABYSへのリスペクトを公言していた。だからこそ、このカバーはファン層を拡大するにはうってつけであると同時に、熱心なFUNKY MONKEY BABYSファンから反発されるリスクも少なくない。しかし、あえてそこにチャレンジしたことは、それだけ自信も大きいということなのだろう。


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 大阪出身のメロフロートが始動したのは2011年。ボーカルのYu-KiとKENTの2人で結成されたが、翌年の11月に別のユニットで活動していたDJ KAZUMAが合流して3人体制となった。2013年にはインディーズでミニアルバムを発表し、2015年7月にシングル『夢のカケラ』でメジャーデビューを果たした。また、デビュー前には47都道府県路上ライブツアーを行い、ストリートでも存在感を見せつけることになると同時に、地元大阪ではZepp Nambaでのワンマンライブを成功させるほどの実力も身に着けた。


 メロフロートはメンバー全員が1993年生まれということなので、彼らの音楽的なルーツは近いのだろう。共通するフェイバリット・アーティストがFUNKY MONKEY BABYSだというのも納得がいく。FUNKY MONKEY BABYSがデビューしたのは2006年。翌年にシングル『Lovin’ Life』でブレイクしているため、まさにメロフロートのメンバーは10代の多感な時期に彼らから大きな影響を受けたはず。FUNKY MONKEY BABYSも、もともとはファンキー加藤とモン吉の2人組で、後からDJケミカルが正式メンバーとなったので、成り立ちはメロフロートとも共通する。こういったところも、メンバーが共感する理由ではないだろうか。


 FUNKY MONKEY BABYSのようなボーカリストとDJの組み合わせは、今でこそ定番スタイルになっているが、彼らが登場した2000年代前半は珍しかった。もちろん、ケツメイシやHOME MADE 家族、湘南乃風、nobodyknows+といったレゲエやヒップホップからの流れで登場したアーティストはいたが、J-POPの王道として確立したのは、やはりFUNKY MONKEY BABYSからといってもいいだろう。


 FUNKY MONKEY BABYSが一気にお茶の間に広がったのは、2009年あたりのことだ。すでにCMや映画などのタイアップで、そのストレートな歌詞やメロディは浸透していたが、この年の3月に発表された3枚目のアルバム『ファンキーモンキーベイビーズ3』がオリコンのアルバムチャートで初の1位を獲得。6月には初めての日本武道館公演を成功させ、年末には『第60回NHK紅白歌合戦』への初出場も果たした。そして、2013年の東京ドーム公演を最後に解散するまで、常にトップを走り続けたのである。


 FUNKY MONKEY BABYSのブレイクと並走するかのように、ストレートなメッセージを持つボーカルとDJの組み合わせのグループが続々とメジャーデビューしたことも、このシーンが活性化してきたことの証だ。ONE☆DRAFT(2007年ー)、Sonar Pocket(2008年ー)、CLIFF EDGE(2008年ー)、PENGIN(2008年ー)、シクラメン(2011年ー)、ベリーグッドマン(2016年ー)と挙げていくとキリがない。しかし、FUNKY MONKEY BABYSに匹敵する存在はというと、いずれもそこまでには到達していないというのが事実だ。今はポストFUNKY MONKEY BABYSの座をそれぞれが狙っている状況といってもいいだろう。


 メロフロートも、こういった状況を理解した上で、今回のカバー曲「悲しみなんて笑い飛ばせ」を選んだのではないだろうか。この曲のオリジナルは、2011年に発表されたアルバム『ファンキーモンキーベイビーズ4』の収録曲だ。いわゆるシングルヒットではないが、自動車のCMに使用されたため、一度は耳にしたことがある人も少なくないはず。またライブでの定番曲だったこともあって、ファンの間では人気が高い。知名度はあるが手垢がついていないという点では絶妙の選曲だ。


 原曲はストレートなロックサウンドを取り入れたテンションの高い楽曲であるのに対し、メロフロートのバージョンではホーンセクションを導入してスカパンク風に仕上げている。アレンジされることによってもちろん印象は変わっているが、オリジナルの疾走感やスケール感はそのままに、聴き手を勇気付けるようなメッセージを伝えてくれる。ここにメロフロートの勢いや意気込みのようなものを感じられるのだ。


 メロフロートはメジャーデビューして早くも丸3年経った。ライブ動員などで結果を出し続けているとはいえ、メジャーアーティストとしてはそろそろ勝負の時期であり、このシーンの中での立ち位置も確立しなければいけないという状況だ。そういった意味でも、単なるカバーとしてだけでなく注目すべき点は少なくない。この曲が起爆剤となってブレイクへ繋げられることができるのかどうかを、じっくりと見守りたいと思う。


■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。