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飲食店は原則禁煙、都の受動喫煙防止条例「一歩も二歩も前進」「排除を恐れない政策に恐怖」…弁護士の意見

2018年07月08日 10:12  弁護士ドットコム

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東京都の受動喫煙防止条例が6月27日、可決されました。東京五輪の開催都市として、小池百合子知事が打ち出したもので、2020年4月に全面施行されます。受動喫煙防止については、国会でも健康増進法改正案が審議中ですが、東京都の条例は国よりも厳しい規制となっています。


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例えば、飲食店について、国は「客席面積100平方メートル以下で、資本金5000万円以下の既存店」については喫煙を認めているのに対し、東京は面積に関わらず、従業員を雇っていれば原則屋内禁煙となります。ただし、喫煙専用室の設置は可能です(都が設置費の9割を補助、上限300万円まで)。


都の条例では、保育所・幼稚園・小学校については、敷地内禁煙で、屋外の喫煙所設置も認められません。


一方で、加熱式タバコについては、国の規制と同様に、専用室を設ければ、飲食をしながらの喫煙が認められます。


報道によると、都内の飲食店の84%が規制の対象になりますが、この条例に対し、インターネット上では、「東京都が羨ましい」「全国でも当たり前になればいいのに」といった肯定的な意見があがる一方で、「商売が成り立たなくなる」「喫煙者肩身狭すぎ」のように否定的な意見も散見されます。


そこで、今回、弁護士ドットコムに登録している弁護士に、東京都の受動喫煙防止条例の評価を聞きました。


●「幸福追求権の侵害」「より規制強化を」

以下の3つの選択肢から回答を求めたところ20人の弁護士から回答が寄せられ、回答が割れる結果となりました。


(1)都条例は厳しすぎる→4票


(2)都条例は妥当→7票


(3)都条例は甘い→9票


「都条例は厳しすぎる」と回答した弁護士からは、「自分とは価値観の異なる集団の社会からの排除を恐れない政策に恐怖を覚える」「喫煙者の自由を著しく侵害することで、憲法13条後段の幸福追求権を侵害する」との意見が寄せられました。


「都条例は甘い」と回答した弁護士からは、「喫煙専用室の設置を公金で補助をすることは容認できない」「(都条例の)数年後の見直しにおいては規制強化の方向で進んでもらいたい」との声がありました。


コメントの一部を紹介します。


●都条例は厳しすぎる

【石垣 徹郎弁護士】


自分とは価値観の異なる集団を社会から排除することになることを恐れない政策に恐怖を覚えます。喫煙文化を尊重していた方々は、これにより社会からほぼ完全に排除されてしまいます。


本来、「喫煙不可」の店も「喫煙可」の店も平等に営業させるべきで、どちらかが廃れるにせよ国家が規制するべきではありません。


ひとつの文化を残すのか滅ぼすのかという選択に繋がるのですから、国民の自由な選択に委ねるべきです。憲法で保障された営業の自由や表現の自由、思想・良心の自由の観点からも非常に問題があると思います。


【大和 幸四郎弁護士】


私はタバコを吸いませんが、本件条例は厳しすぎて違憲と考えます。


たしかに地方の実情に応じて、法律よりも厳しい制約を設けることは憲法解釈上は可能です。そして、受動喫煙の防止の必要性も理解できると思います。しかしながら、本条例による規制は厳しすぎて、喫煙者の喫煙の自由を著しく侵害することになってしまい、憲法13条後段の幸福追求権を侵害するでしょう。よって、違憲の条例と考えます。


●都条例は妥当

【濵門 俊也弁護士】


東京都が可決した条例案は、国が今の国会で審議している法案よりも厳しい内容です。条例案は、子どもや飲食店の従業員に対し、より配慮しているものであるといえ、条例案のほうで「何とか世界水準に届くかな」という印象です。これで終わりというわけではなく、今後も議論を深化させることを前提として、受動喫煙防止策の第一歩を進めたという点は評価できるのではないでしょうか。


禁煙の対象の主な違いとして、(1)幼稚園、保育所、小中高などの教育施設において、国が敷地内禁煙としながら屋外喫煙所の設置は「可」とするのに対し、東京都は敷地内禁煙としつつ屋外喫煙所の設置も基本的に「不可」としています。やはり受動喫煙防止の目的達成の手段としては国は緩やかにすぎるといえましょう。


また、(2)飲食店において、国が客席面積が100平方メートル以下で、個人や中小企業(資本金5000万円以下)は禁煙の対象外とするのは、ほとんど受動喫煙防止の目的を達成することは困難ではないでしょうか。面積による規制にはほとんど効果がないというデータもあるようです。従業員のいない店は、禁煙か喫煙を選択することができるという東京都条例案のほうがマシでしょう。



【大賀 浩一弁護士】


 私は東京都民ではありませんが、今国会で審議中の健康増進法改正案が、厚労省の当初案になかった喫煙禁止の「例外」を、与党議員の意向を反映してあれこれと加えられてしまったことに比べれば、都の条例案は、まだまだ不十分な点があるとはいえ、一歩も二歩も前進ではないかと思います。


喫煙権を頭から否定するものではありませんが、副流煙による健康被害は医学的にも実証されているというのですから、他人の迷惑を顧みることなく公の場所で喫煙することが原則的に禁止されたところで、「人権侵害」とまでは言えないのではないでしょうか。


【竹之下 義弘弁護士】


受動喫煙によるがん発症のリスクは必ずしも計数化は困難とされているが、専門家の意見によれば、無視することができないレベルに達していると主張されている。がん患者の手術後5年目の死亡率はがんの種類によってかなり幅はあるが、ゼロでないことは明らかであり、がん患者の被る精神的苦痛を考えると妥当な立法ということができる。


●都条例は甘い

【田中 英郎弁護士】


法律が骨抜きとなったため、それと比べると規制範囲は広いが、当初の法律案には及ばない点が残念。しかし、規制範囲を広げるための理屈として、「従業員の健康」という視点を取り入れたのはそれなりに評価できるというべきか。加熱式たばこに関しては、今回の条例では物足りないが、条例を早期、確実に成立させることを優先したということだろうか。いずれにしても、数年後の見直しにおいては規制強化の方向で進んでもらいたい。


【川面 武弁護士】


国の規制は、せっかく厚労省が進めようとしていた法案の内容が与党議員(煙草族?)の「横槍」によって瓦解させられ、ほんのハナクソ程度の規制に留めおかれた。これは、受動喫煙の弊害を真摯に理解しようとしない、世界標準からみると正に「お粗末」な内容であり、先進国の名にふさわしくない、恥ずかしいものである。


東京都の規制はこれを何とかしようと、もう1歩進めたものと評価し得るが、まだまだ甘いとしか言いようがない。私たちの社会は喫煙者中心に動いているわけではなく、「禁煙=客が来ない」という発想自体が間違いである。もはや「禁煙=客が安心出来る」という新しい図式になりつつあることを思い知るべきだと思う。


【藤本 尚道弁護士】


本件の投票について「妥当」と「甘い」のどちらに投票するか悩むところですが、やはり「甘い」(というか、私見を適切に表現すれば「妥当でない内容を含んでいる」というのが正確)に投票せざるを得ないと考えます。


もとより、現在のわが国のタバコ野放し状態を考えれば、本条例の制定は大きな前進であることは間違いなく、岡本都議をはじめ本条例の制定に尽力された方々には深い敬意を表するものです。また、政治には一定の妥協が必要であることも理解しているつもりです(私は10年前、当時の松沢成文神奈川県知事の講演を何度か拝聴し、骨抜きと散々こき下ろされている神奈川県受動喫煙防止条例についても同知事の当時の決断を支持するものです)。


しかし、本条例にはどうしても妥協してはいけない誤りが含まれています。それは、喫煙専用室の設置を公金で補助をする制度です。この点は、5分の4が上限と報道されていましたが、今般最終案はさらに内容が後退、最大9割の補助がなしうるような規定のようです。


もともと、わが国も全会一致で承認した世界保健機関タバコ規制枠組み条約(FCTC)のガイドラインでは、どんなに遅くともFCTC発効後5年以内に屋内完全禁煙を実施する旨が定められ、これを受けてわが国でも、平成22年2月25日付厚生労働省健康局長名の通達で、屋内全面禁煙がのぞましい旨が示されています。


もう8年も前に実施されているべき事項について、2年後(上記ガイドライン完全実施時期及び厚生労働省健康局長通達から10年後)の時点で、屋内全面禁煙にするのは当然のことで、何らかの妥協をするとしても、その妥協に公金を使うことは断じて容認できません。喫煙専用室を設けるという愚かな行為を容認するとしても、そうした社会の進歩に逆行する行為に公金をつぎ込む理由はないはずです(なお、社会がどんなに進歩しても、一定数の喫煙者は存在するとみられることから、屋外喫煙所の整備に公金が使われることについては反対しません)。この点が、本条例を「甘い」と投票した決定的な理由です。


なお、条例のその他の評価について述べます。


骨抜きと散々こき下ろされている国の健康増進法改正案ですが、私は厚労省の担当者はなかなかの知恵者であると考えています。新設店を完全禁煙とすることで、既存業界の雑音を排除し、毎年確実に社会を進歩させる内容とみられるからです。これと同時期に施行される都条例は、さらに踏み込むべきであったと考えます。特に、児童福祉施設で敷地内禁煙を徹底させなかったことは理解に苦しみます。病院も同様でしょう。この二つについては、共産党のみならず自民党ですら敷地内完全禁煙の修正案を出しているのです。これを取り入れなかった合理的な理由は存在せず、摩訶不思議としかいいようがありません。また、健康増進法改正案と同時期の施行を目指すのであれば、わが国の将来の指導層を養成するはずの大学も敷地内完全禁煙が望まれるところでした。


なお、種々の議論はありますが、加熱式タバコの迷惑さは相対的には紙巻きよりはましとも考えられるため、加熱式タバコ専用喫煙室の設置を認める規定は、現時点における現実的な妥協として支持したいと思います。


「タバコは人殺しである」(ノルウェーの元首相でWHO元事務局長ブルントラント氏の言葉)というのが今日における世界の文明国の常識です。わが国では受動喫煙で毎年1万5千人が殺されています。健康増進法改正及び東京都受動喫煙防止条例は、完全施行まで2年近くの年月があります。完全施行日を待たずにより規制強化の方向で見直しがされることを望みたいところです。