2018年07月08日 10:12 弁護士ドットコム
スーツケースにGPSとボイスレコーダーを密かに装着。まるでスパイ映画のようだが、「不倫調査」のために実際にしたという声が、弁護士ドットコムの相談コーナーに寄せられた。
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相談者は、夫のタブレット端末を見て宿泊施設の予約をしているのを知り、興信所に不倫調査を依頼した。そして夫が旅行に行く前日、スーツケースにGPSとボイスレコーダーを勝手に取り付けたという。
結果は「黒」とのことで、不倫の事実が確認されたようだ。相談者は、勝手にGPSとボイスレコーダーを取り付けた行為が何らか罪に問われるのか気にしている。どのように考えればいいのか。
興信所に依頼をし、その興信所からの指示で、妻が興信所から借りるなどしたGPSやレコーダーを取り付けたという前提で澤藤亮介弁護士に聞いた。
ーー不倫調査の問題点はどのように考えればいいでしょうか
「不倫調査の問題点を検討する場合、(1)刑法犯として処罰される行為か、(2)民事上の不法行為として損害賠償責任を負う行為か、(3)将来の離婚訴訟などで証拠として採用されない証拠となってしまうのか、の三つの異なる視点で考えると分かりやすいと思います。本件では(1)の点に絞って説明します」
ーー本件は刑事罰に問われる可能性があるでしょうか
「不倫調査に関しては、素行調査を始め様々な手法が存在しますが、本件のように、妻が夫に内緒でスーツケースの中にGPSとボイスレコーダーを忍ばせるという手法については、比較的穏当な調査方法であり、原則として何らかの刑法犯で処罰されることはないと考えてよろしいかと思います。ただし、近時、別居中の配偶者及び交際相手に対して、自動車にGPSを設置したりする行為がストーカー規制法違反にあたると判断した高裁判決も出ておりますので、注意は必要です。
私が普段取り扱う離婚や不倫慰謝料の裁判においても、これらの証拠はよく提出されますが、刑事処罰を受ける受けないの議論が出たことは経験上はありません」
ーーそれではどのような場合に注意が必要でしょうか
「注意が必要なのは、GPSの発信器自体を鞄などに入れる行為に代えて、夫(又は妻)のスマートフォンにGPS機能を持つアプリを無断でインストールし、位置情報を得ようとしますと、『不正指令電磁的記録供用罪』(刑法168条の2第2項)が成立する可能性があります。
実際、妻のスマートフォンにGPS機能を持つアプリを無断でインストールした夫が逮捕されたというケースもあります」
ーー得た位置情報の使い方によっては問題が生じそうです
「はい。GPSで得た位置情報を、後日、離婚事件や不倫慰謝料事件の証拠として利用するに止まらず、たとえば、別居中の夫(又は妻)に対し、リアルタイムに『今、●●(場所)にいるでしょ』などと監視していることを告げるような行為が考えられます。
こうした行為に及びますと、いわゆるストーカー規制法上の『監視していると告げる行為』として、警察から警告等を受ける可能性も出てきますので、得た情報の利用方法にも注意が必要です」
※自動車にGPSを設置したりする行為がストーカー規制法違反にあたると判断した高裁判決が出ている旨、7月24日に追記しました。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。離婚、男女問題、労働問題などを中心に取り扱う。自身がiPhoneなどのデバイスが好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。
事務所名:新宿キーウェスト法律事務所
事務所URL:http://www.keywest-law.com